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「自分には人を見る目がある」と思っている人ほど要注意?人への洞察力を磨くには。

皆さん、こんにちは。今回は「人を見る目」について書かせていただきます。

「人を見る目」がある人とない人がいるとした場合、その違いは何かと聞かれると、人事領域で仕事をしている人でも即答できないことが多いかもしれません。たとえば採用に関わる社員も、ただ相手と対話して採用するかしないか、会社に合うか合わないかをジャッジすればいいわけではなく、候補者となる人の能力や考え方、価値観などを把握するための材料を引き出し、その上で自社が求める基準に合致しているかを判断し得るだけの根拠を見つけるというような作業が必要なのです。

それは、何も採用に限った話ではありません。どの社員を昇格させるか、誰に新たな成長機会を提供するか、誰に何を任せていくかなどの判断においても、人を適切に見ていく能力が求められます

「人を見る目」というのは、どのように身に着けていくものなのでしょうか。人への洞察を深めていくためにできることは何なのでしょうか。具体的に考えていきます。

経営幹部は採用面接を長年やってきて、「自分には人を見る目がある」と思いがち。だが経験や知識が豊富だからこそ陥りがちな落とし穴もある。面接でのバイアスを取り除くよう、経営幹部こそ研修を受けた方がよいと専門家は指摘する。

■人によって評価が異なる根本的な要因

「人を見る目」はビジネスでも重要な能力、資質の一つです。実際に、長い間経験を積み、“人を見る目があると一目置かれている人”であっても、いつでも正確に人を評価することは難しいことではないかと思います。

そもそも様々な価値観や思考を持った人が、人を評価する場合、その評価結果は全て同じなはずはありません。もしかしたら自分の考え方に近く、似たような人を高く評価したり、または自分には持っていない考え方をする人を、尊敬や憧れによって高く評価することもあるでしょう。いずれにしても自分の価値観がベースにあり、基本的には全て客観的にではなく、“主観”で評価しているのです。

このように、同じ人を見ているとしても、人によって評価が全く異なることはよく起こり得ることですが、人によって評価が異なる要因については、以下のようなポイントが考えられます。
 
●これまで大勢の人を見てきた分、よく分かっているという過信があるから。
→引用した記事のように、ベテラン社員や経営幹部ほど、これまでいろいろなタイプの社員を見てきている分、「採用」や「異動」や「抜擢」などにおいて、適切な人を選定できると思い込んでいる傾向があります。たしかに多くの人と接してきたことで、過去の傾向に基づく活躍確率をある程度見抜くことはできるかもしれませんが、その過去のデータベースが古くなっていたり、今の時代とはマッチしなくなっていることにそもそも気づかないこともあるかもしれません。
 
●価値観や信念の違いによって、同じ事柄や事象に対して、異なる見解や評価が生まれるから。
→それぞれ異なる価値観や信念を持っているため、一つの事象に対しても、人によって見解や評価が異なるのは当然です。たとえば、同じ場所にとどまらずに常に新しい環境でのチャレンジを好む人は、仕事内容や環境を自ら変えようとしない人を見て、「度胸がない」とか「リスクをとらない」などと厳しい評価してしまいがちですが、逆の価値観を持っている人は、一つのことを全うできずにコロコロと職場や職種、仕事内容を変える人を「忍耐強くない」とか「飽き性」などと評価してしまうこともあります。同一人物を評価するにしても、異なる価値観を持っていれば評価が分かれるのは自然なことなのです。
 
●人が持っている情報量の違いや知識量の違いによって、見方が異なるから。
→人によって、持っている情報量が違う上に、その情報の信ぴょう性によって(信頼している人からの情報かどうかなど)同じ事実に対しても評価が異なることがあります。専門的な知識の有無や、情報源の違いなどによっても評価の差が生まれてしまいます。
 
●周囲の評価や世間の風潮による影響を受けて、もともとの評価が変わることもあるから。
→誰しも他人の意見や社会的な風潮によって、多少なりとも自分の意見や評価が左右されることがあります。周囲の意見や評価については、その人が過去に成功体験があるとポジティブで楽観的な評価をすることが多く、逆に失敗経験があるとネガティブで慎重な評価をすることが多いなど、個人の経験内容によっても評価に影響を与えることがあります。

人事評価を巡っては、人が人を評価することもあり、全ての人が納得でき、満足度も高い人事評価を実現するのは非常に難しいものです。
評価を受ける側から見ても、評価者の評価能力について、

  • 評価者の主観が入る

  • 評価者によって評価内容にバラつきがある

  • 評価基準が不明瞭

  • 評価軸に一貫性がない

というように不満を抱いている被評価者が多いことは、容易に想像できます。評価する人によって評価が異なるのは、「評価が甘い(良い評価をしがち)」評価者もいれば、「評価が厳しい(悪い評価をしがち)」評価者もいるということですが、

  • 被評価者の特に優れた点(または劣った点)に惑わされて、全体の評価にも影響を与えるパターン

  • 被評価者をひいき目に見たい、良い評価をつけたいという心理が働き、実力よりも高い評価をするパターン

  • 被評価者を信用できない、またはもっと成長してほしいという心理が働き、実力よりも低い評価をするパターン

  • 可もなく不可もなくというような、当たり障りのない評価をするパターン

  • 会社や組織の事情に辻褄を合わせるために、被評価者に対する正当な評価ではなく、組織都合の評価をするパターン

などがあり、組織としては、評価者の考え方のクセや評価の仕方の特徴を、まずは的確に認識しておく必要があると思います。評価の特徴や傾向を認識し、それを意識しておくだけで、無意識に大きく偏った評価をしてしまう可能性を低くすることはできます
 
社員が抱えている人事評価への不満をそのまま放置してしまうと、社員のモチベーションの低下、優秀な社員の離脱、ひいては企業の業績悪化につながるなど、良いことは一つもありません。

■人を見る目がある人の特徴

特に、初対面の人との面接の場面においては、まだ相手のことをよく理解していないのに(短時間しか接していないのに)、相手がどのような人なのかを見抜く力が必要です。
一緒に仕事をしている部下の評価をする場面においても、仕事の成果や、部下が持つ能力やポテンシャル、資質や人柄を見抜く力が必要です。

人を見る目がある人と、人を見る目がない人の決定的な違いは何なのでしょうか。「人を見る目がある」とされている人の特徴をいくつか挙げてみます。

●観察する能力が高い
・他人の発言や行動、表情や態度などに細心の注意を払っている
・相手の意図や感情を敏感にキャッチしている
・相手の立場に立って、相手が何を考えているか推測しようとする
・表面的な情報や一時的な印象に頼らず、深く観察しようとする
・言行不一致によく気がつく
 
●的確な判断をする能力が高い
・情報を総合的に捉え、一部の意見や情報に引きずられない
・感情に流されずに、冷静に判断することができる
・過去の経験を踏まえて、経験やセンス、勘が働きやすい
・偏った情報に基づいて、結論を急いで出そうとしない
・物事を判断するだけの情報量、知識量がある
 
●先入観や無意識なバイアスを取り除くことができる
・直感を大事にしつつも、それがアンコンシャスバイアスに基づいていないかを意識して確認することができる
・自分の先入観や偏見に固執せず、考え方を柔軟に修正することができる
・周囲の先入観や偏見を察知した上で、冷静に判断することができる
・状況の変化に応じて過去の評価を見直すことができる
・見た目、肩書き、学歴など目に見えるものだけで判断しない
 
●ある程度、評価の傾向をフレームやパターンに落とすことができる
・それまでの経験をもとに、相手の考え方や特性、行動パターンなどを予測することができる
・傾向を捉えた上で、よくあるパターンをフレームで捉えることができる
・他者を正確に評価するための基準を定義することができる
・様々な考えの人と交流を持ち、多様な価値観に触れることで判断軸を広げることができる
・自分の経験だけでなく、他者の経験からの学びも情報源に取り入れ、判断軸に追加することができる
 
●メタ認知をしながら正しくファクトを認識し、評価に反映することができる
・自分自身の強みや弱みを的確に理解した上で、他者への評価にも反映することができる
・自分や他者の機微な変化を捉え、他者への評価にリアルタイムに反映することができる
・周囲の人の声をポジティブなものもネガティブなものも、両側面から捉えることができる
・表面的な情報だけでなく、その裏側にある本質を見抜き、構造で捉えることができる
・本質を捉えた上で、未来に起こる可能性のある問題を把握し、先回りして思考した上で、必要なものを評価軸に反映することができる


このような要素や能力がある人が、「人を見る目がある」とか、「人への洞察力が高い」と言われる人ではないでしょうか。

自分が得た情報の中から、目に見えていないもの(たとえば物事の背景にある事象や、人の言動の意図など)を推測し、本質を見抜く力を養うことが、ビジネスにおいてだけでなく、人間関係を良好なものにすることにも大きな影響を与えるはずです。

■人を見る目を養う上での注意点

それでは、人を見る目や人への洞察力を養う上で、意識すべきポイントを挙げてみます。
 
●あらゆることにアンテナを張り、関心を持つ
→一つの物事や状況から、一つでも多くの情報を手にすることができるかどうかが、洞察力を高めていくためにも重要な要素です。そのためには、日頃からあらゆる人や世の中の出来事など様々なジャンルにおいて、小さな情報を見逃さずにキャッチする習慣を身に着ける必要があります。今自分が興味関心のあることだけにアンテナを立てておくのではなく、周囲で起きていること、または遠く離れた場所で起きていることでさえ、常に自分事として捉えて、自分なりに仮説を持って「見立てる」ことが重要です。
 
●日常的に「観察」を習慣化し「なぜ」を追求する
→日頃から身の回りのことや世の中で起こっていることなどをじっくり観察し、自分なりの見解を持っておくことで、あらゆる情報に目を向ける習慣を持つことができるようになります。「知りたい」「理解したい」という、いわゆる知的好奇心をあらゆる分野に対して持つことや、疑問に思ったことをそのままにせずに自分で調べようとすること、何でも簡単に(インターネットで検索するなどして)すぐに答えを求めようとしないことなども、観察力を養っていく上では重要なポイントです。ある一つの事柄に対して、より多くの情報を手に入れることで、物事の本質を見抜く力を向上させていけるはずです。
 
●人を“評価”する目的を明確にし、目的を達成するために必要な情報を集める
→より適正に評価しようとするならば、まずは目的を明確にして、その目的を満たすための方法論を決めてから評価しなければなりません。「この役割にふさわしい人を選ぶ」「誰をリーダーに抜擢するのか決める」など、目的をもとに人を評価すれば、仮に人の評価が正しくなかったとしても、少なくとも目的を果たすことになる可能性は高まります。
 
●「誤った判断」や「失敗」はつきものであると割り切り、内省する
→たとえば「採用」における評価が、全員高評価の人が100人入社したとします。100人全員が入社後数年たってもずっと高い評価を受け続けることは確率論的にも難しいはずです。中には、採用段階で想像していたよりも優れた能力を持っていて採用が大成功だったという人もいれば、想像していたよりも能力が低かったり自社と全くマッチしないなど、判断を誤った(失敗した)という人もいるはずです。そして、それはある意味、「想定の範囲」であると割り切ることも必要だと思います。判断を誤った時などは内省をし、自分がどのような先入観や偏見を持っていたのか、見極めができなかったのはなぜなのかを理解・追求することも重要です。自己認識が深まると、より正確な洞察が得られます。
 
●視野を広げる行動をとる
→視野が狭い状態では、人に対して評価・洞察するために必要な多くの情報を手に入れることができません。相手の立場に立って考え、相手の感情や思考を理解しようとしたり、第三者の立場に立って物事を想像したりすることが、視野を広げていくために必要なステップです。他者や第三者の立場に立って物事を見ながら、普段とは違った視点で情報を得ることが、本質を見抜くための大きな手がかりとなるのです。
 
●ゼロベースで思考し、物事を批判的に捉えるステップを踏む
→私たちは日常生活の中で、今までの経験や習得した知識をもとに深く考えることなく物事を結論づけてしまうことが、実は多々発生しています。この傾向は、年齢や経験を重ねるほど顕著になり、このような“思い込み”が判断力を鈍らせる原因にもなります。ゼロベースで思考することに加えて、「なぜあのような行動をとったのか」「もっと良い方法があったのではないか」などと自分自身がとった行動や考え方を批判的に捉えることも重要です。いわゆる「クリティカルシンキング」ですが、物事を批判的に捉えて最適解を導く思考法を身に着けると、先入観や自分自身の思考や行動のクセにとらわれずに、物事を見る目が養われていきます。
 

変化が激しく、先行き不透明な今の時代、表面的に見えているものだけではなく、見えていないものを察知し、本質を見抜く力は、ますます重要なスキルになっていくことは間違いありません。

これまで述べてきた「人への洞察」だけでなく、組織への洞察、事業への洞察、市場への洞察など、あらゆることに対して、本質的な問題を捉え、解決策を模索し、責任を持って行動に移すことは、ビジネスにおいて大きな成果を出していく上では必要不可欠です。常識や固定観念にとらわれず、多角的な視点から物事の本質を見抜くことができる人材が増えれば、自然と組織力も向上していくのではないでしょうか。

 

#日経COMEMO #NIKKEI

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