人事部不要論を乗り越えて 「Only Oneのカッコいい人事になる」-#1
こんにちは。ファンリーシュの志水です。これまで何本かNoteを書いてきましたが、そろそろ本業である人事・組織、そして変革の領域について書いてみたいと思います。
本編から「Only Oneのカッコいい人事になる」というテーマのもと、
第一回は「人事不要論を乗り越えて」
第二回は「実務家だけが知っているジョブ型の真実」
そして第三回目は「人事はどこに向かうのか?」
という3回シリーズでお届けします。
ご興味のある方は連載小説のようにゆるーく読んでいただけたら嬉しいです。(ほかのトピックについてもリクエストがあれば書きたいと思っています)
第一回目の本編は「カッコいい」生き方にこだわっていた私がどのようにして人事という天職に出会ったのか、そのエピソードから始めて、最近感じている問題意識を提起します。
人事との出会い
自己紹介や私のキャリアについてはこれまでの投稿でも行いましたが、一体この人だれ?という方のために念のため、こちらをどうぞ。
私が人事でキャリアをスタートしたのは25年前でした。きっかけはこちらのインタビューの中でも触れていますが当時私はある会社で社長の秘書(これは本当に向いてなかった)をやっていました。
「あなた人事の仕事向いていると思う。教えるからやってみない?」と当時の上司に声をかけられました。
私の最初のリアクションは「人事って暗いしカッコ悪いから嫌だな」というものでした。
ルールやポリシーで社員を縛りつけて偉そうだし、必要な時には助けてくれない。どちらかというと仕事ができない面倒くさい人たちの集まりでしょ。最初にお話をいただいたときはそんな印象を持っていたため、丁重にお断りしました。当時、世界一の自動車会社でアジアパシフィック地域VPというビッグジョブに就いていたアメリカ人の彼女は、辞退した私に対して眼を丸くして言いました。
「あなた何言っているの?経営者に影響を与えられるのは人事だけなのよ。経営を通して事業を動かすことができる最高の仕事。会社の中で一番重要な組織と人のプロなの。私を見ててごらんなさい」
その言葉通り、彼女が社長を度々たしなめている場面(時には励ましたり叱ったり怒鳴ったり)、癖のあるリーダーが集まる経営会議を見事に仕切って臆さず議論している様子を見て、「わー、カッコいい!」と素直に思いました。人事の仕事に対する印象が、ガラッと変わったのです。
「カッコいい」生き方にこだわっていた私は、数ヶ月後に声をかけてもらった時には即決でした。こうして右も左もわからないまま、素人の私は人事の世界に足を踏み入れたのでした。
人事の存在が問われている
さて、話は変わりますが、先週下記のような内容を友人がFacebookに投稿していました。
日本企業の人事は他社事例を知るためにコンサルを使うが、中国企業は他社でどこもやっていないか知るためにコンサルを使う。日本企業が中国企業に抜かれ、大きく差が開く理由がわかった気がしました。
この投稿に対して、業界の識者やコンサル、人事プロフェッショナルがかなり反応されていたので一部ご紹介します。
「あまりに的確すぎて震えた」
「日本企業は大手ほど横並び意識が強く、他社がやるとどこも真似るため、一過性の流行りを追いかけてばかり。目標管理、成果主義、コンピテンシー、ジョブ型など全てこれにあてはまる」
「偏差値重視の日本の教育がリスクや失敗を恐れる日本人にしてしまった」など。
ほとんどのコメントが友人の投稿に賛同する内容でした。つまり、日本企業の人事は「イケてない」という意見が大半だったのです。翻って、ここ数年戦略人事という言葉を聞くようになりました。戦略⼈事とは、ひらたくいうと経営戦略とアライン(整合)した⼈事戦略の⽴案・実⾏、そして組織のパフォーマンスを向上する組織構築や人材育成ができる人事を指します。一方で、法令順守や⽬の前の管理業務に日々追われて、「事業」「組織」「人」に時間がさけていないような人事を管理人事と呼びます。(もともとは1990年代にミシガン大学のウルリッチが提唱した概念です。理解を深めたい方は共同翻訳したこちらをどうぞ)勤怠管理や給与計算といった労務管理やエクセルで報告書作成などのオペレーションに追われており、事業を成功させるための組織や人にまで十分な時間をかけられない、事業や人に付加価値を与えてない人事は管理人事だといわれています。これらの管理業務も重要ですし、決して価値がないわけではないのです。
けれどもこのような管理業務はアウトソーシングできるし、ロボットやAIなどのテクノロジーの進化によって代替可能になるのは明らかです。結果として人事不要論が叫ばれるようになってきたわけです。
ある調査によると、事業に価値を生み出していない管理人事は戦略人事に変わる必要があると、過半数を超える人事担当者自身が感じているそうです。では「うちは戦略人事です」と胸をはっていえる人事部門ってどれくらいいるでしょうか?ちなみに、以前私が講師を務めていた「戦略人事クラス」の中で自社の事業戦略・ビジネスモデルを説明するという課題を出しました。衝撃だったのは、人事なのに事業を扱うことに受講生が驚いていたことです。事業を知らずして人事は務まらないのに。
日本中にまん延する「クレクレ病」
普段、経営者や人事部門から相談を受けることが多い自身の経験からも、日本企業の横並び傾向については同じことを感じています。他社がやっていることをなぞると安心するのでしょうか。大企業の人事部門の方は必ずといっていいほど、
「他社はどうしてますか?他社事例はありますか?」
「外資系企業から学んで来いとトップから言われたので事例を教えてもらえませんか?」とおっしゃいます。
私はこの現象を「事例クレクレ病」と呼んでいます。残念ながら、このような「クレクレ病」は日本中にまん延しています。事例を学んで来いという経営者にも責任がありますが、他社事例をいくら勉強しても、それを自社で実行しない限り、変革は起きません。もっというと、流行りの制度を一部導入したところで何も変わりません。人事は包括的にからみあった複雑なシステムなのです(このあたりは今度解説します)
組織も文化も人材も経営者も組織によって異なるのですから、他社事例をそのまま適用しても再現できるわけないのです。(一部は参考になることもあります)
皆さんの所属する会社の人事部門は「クレクレ病」に陥っていませんか?もしかしたら今、ドキッとしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このような人事部門の方にはいくつか特徴があります。まず、他社事例を集めて分析しているために事例、特にHow(やり方)については非常に詳しいものの、表面的な理解にとどまり、その背景や思想までは理解してません。大量の文字で埋め尽くされた事例集を作って満足する傾向にあります。一方で、自社の事業や人材については十分に理解しているかというとそうでもありません。「将来の事業を創り、推進するために求められる貴社の人材像をどのように描いてますか?」というような質問をしたときにきちんと答えられる方にほとんど出会ったことがありません。
次に、彼らはトップの指示、つまり上から言われたことを忠実に実行することに全力をかけています。「なぜいま変革が必要なのですか?その変革を成し遂げた先には何があるのでしょう?」と質問してみると、ほとんどの場合、「上からいわれたのでやらなきゃいけないのです」といった回答が返ってきます。えーーっ??ですよね。目的や思想がないのか、あるいはそこを理解してないのか、WHYを自身の言葉で語れないのです。思考停止状態になっているように思えます。
最後に、自社の喫緊の課題として「社員が挑戦しない、変化しない」ことを嘆いているという共通点も見られます。
「うちの社員はイノベーションを起こせません。新しいことに挑戦しません。社員のマインドセットがなかなか変わりません」
このような相談をうけたとき、私は「ではこんなことをやってみてはいかがでしょう?」と難易度の高いアイデアを提案をします。すると
「いや。それは前例がないので難しいですね」
「反対勢力がいるのでうちでは難しいです」と即座に否定されてしまいます。変化できない、新しいことに挑戦しないのは社員と人事部門どっちなんかいーーー!!とつっこみたくなる衝動をいつも押さえています。
ここでとりあげたような人事部門は、おそらく一部の方だけだと思います。でも、もし変革の理由も語れない、社員に対して不満だらけの人事部門だったら、経営者や社員から信頼されるでしょうか?皆さんはいいねボタンを押せますか?恐らく難しいのではないかと思います。外部環境が変化するスピードが加速しているのに、旧態依然のままの人事部門だったら、人事部不要論が出てきたり、あるいは以前の私のように偏見の目で人事を見てしまう社員がいても仕方がないでしょう。
変革は自ら動いて自ら起こす
うちはマネージャーがダメ、シニア層が使えない、社員が変われない・・・経営者や人事部門の方は課題としてそれらを口にします。本当にそうなんでしょうか。私は違うと思います。本当はすべての人に能力・可能性があるはずです。何らかの阻害要因があって発揮できていない状態だけだと思うのです。(それを取り除き、組織と個人が持つ本来の能力を引き出すことが人事のミッションですが)確かに変化は不可欠です。
でも順番が違います!
最初に変わらないといけないのは経営者、役員層、人事部門です。そこから変わらないと組織は変わりっこありません。社員がダメ、マネージャーがダメとぼやいてないで、まず自らが動いて変革を起こし、それを社員の皆さんに示しませんか。厳しいようですが、自分たちが変われないのに社員に変化を求めるのは都合がいい話です。何より説得力がありません。
人事部門が米国で約100年前に誕⽣して以来、⼈事への期待がこれほどまで⾼まったことはかつてありません。解のない時代に事業を成⻑させ、最重要の経営資源である優れた⼈材を獲得し、その能⼒を最⼤化して強い組織を構築できなければ企業は⽣き残れないのです。
経営者の右腕になれるのは組織と⼈材の専⾨家であり、⼈事とは経営そのものなのです。組織に変革を起こすには、自分で考え抜いて人を巻き込み実行していく必要があります。本編からの3回シリーズでほんの少しでも皆さんにヒントを提供できたら大変嬉しく思います。参考までに人事の新しい役割についてのインタビュー記事をシェアしますね。
対話を通して事業と人を知る
私は事業部人事の仕事をしているときに組織改革、ビジョンの浸透、人事制度、ダイバーシティ促進、文化の浸透など数々の施策を導入してきました。他社がどこもやっていないこと、常に新しいことに挑戦し続けました。
コンサルを使うときは、まだどこもやってないよね?じゃあやろうかという感じでした。他社の事例を見ることはありましたが真似したことはありません。Only oneであること、オリジナルであることを追求したからです。(詳細については次回、説明します)
「それは外資だからできたんでしょ?」
「あなただからできたんでしょ?」といわれたりしますが、決してそうではありません。誰にでもできるシンプルなことです。
まめに現場に足を運び、事業部リーダーや社員との対話をすること、心から彼らの話に耳を傾けること。自分の時間の大半をそこに費やしたのです。
経営者や事業リーダーと同じレベルで話せるくらい事業を理解し、課題発見に努めます。現場で働く社員の皆さんから教えてもらったことを胸に刻み、考えて考えて考えぬいて、それに自分の知見や知識を組み合わせる。そこで創造的なアイデアが浮かぶのです。
例えば、ある会社に入社してまもないときに社員から言われました。「人種、国籍、性別や年齢に関わらず公平な機会を提供するという理念があるのに定年制度はおかしくないですか?うちの会社っぽくないですよね」
日本の少子高齢化の進行度合いを見れば(経済や政治に関心を持ち、風をよむことは人事に不可欠です)、将来的に雇用が延長されることは20年前から予測できていました。すぐに経営者から同意を得て定年制度を廃止しました。本人に働く意思があれば何歳まででも働ける(成果発揮は必須)制度に変えました。入社後1か月のことでした。
また、事業成長時期に採用に苦戦していたときには、現場でヒアリングをしました。パート社員に意見を求めたときです。
「新卒と中途採用ばかり採用し、経験や知識がある私たちのようなパートが正社員になれないのは、会社の理念や文化に合わないのではないですか?」
確かにそうだなと思って、意欲のあるパート社員が手上げできる正社員登用制度(Raise Your Hands)をすぐにつくりました。それ以降、毎年何百人の正社員を登用できて事業リーダーにも社員にも喜ばれました。新規事業立ち上げ時には優れたタレントを確保できました。これは社会的に意義がある施策としてメディアでもかなり取り上げられました。事件は現場で起きているではないですが、変革のヒントは現場にあります。
他社の事例を集める時間があるならば(またはPCの前に座る時間や会議の時間を削減することにより)現場のリーダーや社員と対話する機会をもっと増やしてはいかがでしょうか。
「今日はどんな仕事をしようか。毎朝起きるとワクワクする。この会社の一員であることを誇りに思う」と社員全員が心からそう思える。「社員から選んでもらえる魅力のある会社(Employer's choice)」を目指してみませんか?他社と違うことを恐れずに(Be original)、常に挑戦し、実行し続ければ必ず組織に変化が起こります。
そして人事部門のポジティブな変化は社員に伝播します。
冒頭で私は「カッコいい」生き方にこだわると書きました。「カッコいい」とは見た目の「恰好が良さ」とは異なります。人それぞれ解釈が異なるかもしれまれせん。私にとっての「カッコいい」とは、人を感動させ、しびれさせ、周囲に大きな影響力を与え、物事や人を動かす存在なのです。こうありたいと、人を自発的に動かす原動力ともいえます。このこだわりから、「人事こそカッコよくあるべきだ」と思います。
人事が変われば会社が変わる、社会が変わる!
最高にイノベーティブで、カッコいい仕事なのです。
さて、長くなってきましたので今回はここで終わります。次回は、食傷気味かもしれませんが、最近ブームになっているジョブ型の目的や効用などについてコンサルが知らない「真実」をお伝えします。お楽しみに!(続く)
★初公開。こちらの写真はGapチームの仲間たち。お互いをリスペクトして助け合い最高のパフォーマンスを出すCoolなチームでした★