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 Potage代表のコミュニティ・アクセラレーターの河原あずと申します。企業のコミュニティづくりのお手伝いをしたり、コミュニティ構築のノウハウを生かしたチームビルディングワークショップを企業に提供したり、新規事業づくりのお手伝いをしたり、起業家や新規事業担当者向けのコーチングを提供したりしています。

 たとえるなら「コミュニティや組織づくり、事業づくりにかかわるよろず相談をうけて、一緒に解決に向けて実行を手伝う伴走者」といったところでしょうか。コミュニティプラットフォーム「Peatix」の共同創業者・CMOの藤田祐司さん(COMEMOのKOL)と共著で『ファンをはぐくみ事業を成長させる「コミュニティ」づくりの教科書』(ダイヤモンド社)という本を出版したりもしています。

 さまざまな仕事をする中で、この数年、案件が増え数多く手掛けていたのが「共創スペースのコミュニティ活性化」施策です。特に、拠点にしていた渋谷では、大規模開発の影響も手伝って、大きな会社が新規事業創出や既存事業の案件獲得を目的とした、起業家支援施設や、社内外の人たちが交流できる会員制のスペースをオープンしていました。

 しかし非常事態宣言中は、大企業がオープンしたスペースの多くは一時閉鎖を余儀なくされました。外のベンチャー企業や、イノベーターとの交流をうながす場は、多くの企業にとっては「不要不急」といわざるを得ません。リスクを下げるために、閉鎖は仕方ないという印象を私も持っていました。

 ところが、私が想像した以上のスピードで、これらの共創スペースが営業再開しています。むしろ、コロナ禍より数多くのイベントを積極的に(オンラインで)開催しているスペースもあります。それどころか、ワーケーション需要の高まりを踏まえて、新しいスペースが全国でオープンしています。共創スペース増加のトレンドは、途絶えずに継続しているのです。

コロナ禍において加速する「外で働く」トレンド

 オフィスのもつ意味が問い直されていて逆風の吹き荒れる中、なぜ、共創スペースのオープンが止まらないのでしょうか。それは実はコロナ禍において、会社の外に拠点を設けて仕事する「外で働く」トレンドが、ますます加速すると多くのビジネスパーソンが考えているからだと、私自身は解釈しています。

 世の中のトレンドをみると、リモートワーク推進を余儀なくされ、多くの企業が、働き方の変革を進めざるをえない状況になっています。そもそもこの数年「働き方改革」の旗印のもと存在していたトレンドでしたが、コロナ禍はこの改革に、本気で取り組まざるをえない状況を作り出したのです。

 3密を避けるために「1か所に同じ部署の社員を集める」ワークスタイルから、「出社率を制限し、人員を分散する」スタイルへと移行が進んでいます。多くの人の仕事場の第一選択肢は「自宅」となります。しかし、多くの家庭において、自宅での作業は効率が上がりづらく、外で働きたいというニーズは高まっています。自宅で働けない。かといって出社もできない。

 そんな行き場に迷う「外で働きたい」社員たちの受け皿になってくるのが、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの共創スペースである。私はそう考えています。

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Beforeコロナの共創スペースの様子(渋谷スクランブルスクエアが運営するSHIBUYA QWSで2月に開催されたイベントの様子)

「仕事に活きるつながり」は会社の外で生まれる

 私はかつて大企業の新規事業を担当していましたが、実績を上げる新規事業担当者ほど、会社の外に場所を構えて、会社にあまり行かないワークスタイルをとる傾向があります。新型コロナウイルスの流行以前からのリモートワークの実践者の多くは、そのような「社内イノベーター」たちでした。

 なぜでしょうか。会社よりも落ち着いて仕事ができる、という要因もゼロではないですが、それ以上に大きい要因は、外で働いたほうが「仕事に活きるつながり」が生まれるという事実です。

 共創スペースの多くは、ただファシリティが存在するのではなく、それぞれの場がテーマを持ち、そのテーマに興味がある人たちが集まることで「コミュニティ」が形成されています。そして、コミュニティマネージャーと呼ばれるスタッフが常駐しており、メンバー同士の交流を促したり、イベントなどのコンテンツを用意したりしています。(2020年7月現在は、イベントのほとんどはオンラインで提供され、会員やテーマに興味ある方向けに配信されています)

 優秀なコミュニティマネージャーほど、コミュニティの参加者やゲストひとりひとりの関心ごとや課題意識、目的意識を把握しています。そして、マッチングしそうなメンバーやゲストが来た際は、引き合わせて、会話を促します。

 結果、目的意識が明確なビジネスパーソンが共創スペースに顔を出すと、会社の中に閉じこもるよりも効率的に、自分の事業に直結するつながりを獲得できるのです。

 今後は、リモートワークの普及により、一部の社員だけが実現できていた「外で働くことでつながりをつくる」スタイルが、もっと多くの社員に広がっていくでしょう。自宅で1人で働くのが気づまりになっているビジネスパーソンにとっては、この外で培う「新しい出逢い」は、仕事のマンネリ感を防ぎ、新しい発想を促される要因となるはずです。

出逢いの精度を上げる「共創スペース」

 コロナ禍は実は、自分のビジネスにとって大切なつながりを会社の外で構築する好機です。

 例えば、誰でもパソコン一台でオンラインイベントを開催でき、発信し、仲間を集めることができます。日本全国、全世界の人たちにアクセスし、直接オンラインで会話をすることもできます。技術的にはコロナ禍以前も可能だったことですが、物理的な環境を超えた会話や発信がだれにとっても特別なことではなく「新しい常識」になったことに価値があるのです。

 しかしただ闇雲に発信をして、つながりを求めてもうまくいきません。大きな湖に石ころを投げるようなものです。きちんとターゲットを定めて、つながりの精度を集める必要があります。

 そこで精度向上に寄与するのが、自分が共感するテーマをかかげる共創スペースです。近しい志向の人たちが集まってコミュニティが十分に活性化している共創スペースは、つながりの精度を上げるためにとても有効なプラットフォームなのです。

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写真:共創スペースが主催で行うオンラインイベントは出逢いの精度を上げるのに有効な場となっている

出逢いの積み重ねが個人の「目的」を実現する

 自宅でも共創スペースでも海外でも普通に働けるアフターコロナの世界においては「どこで働くか」よりも「誰と働くか」がより重要になります。会社に出社する時間を減らして、共創スペースが有しているコミュニティに飛び込み、コミュニティマネージャーに紹介された人と仕事の話や雑談をしたり、オンラインイベントで同席した人と会話をしてみたりすることで、同じ目的意識を持っている人が見つけやすくなります。この出逢い一つ一つの積み重ねが、自分の目的を実現するためのエンジンになるのです。

 共創スペースは、目的意識が明確なビジネスパーソンの受け皿として、ますます活性化していくでしょう。企業やマネジメントがその価値をしっかりと見定めて、社員のこのような動きに対して投資していくことも必要になってくるかもしれません。その投資は感染リスクを下げオフィスのスペース効率を上げるといった短期的なメリットのみならず、新しい事業の創出や、異能人材の活躍などの中長期的メリットをも企業に届けてくれるはずです。

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