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人を動かす「言葉」の開発のコツ。言語化力を磨くには。

皆さん、こんにちは。今回は「言語化する力」について書かせていただきます。

咄嗟の質問にうまく答えられない時、「何が言いたいか分からない」と言われる時。それは「語彙力がない」のかもしれませんし、「要約力がない」のかもしれませんし、または相手に伝わりやすくするにはどうすればいいかを考える「想像力がない」のかもしれません。

「言語化力」を『自分の考えや感情、情報などを適切な言葉に置き換える力』だと定義すると、相手との意思疎通を図る総合的な能力を指す「コミュニケーション力」とは別で、抽象的な概念を分かりやすく説明したり、感情を整理して伝えたり、誰にでも伝わるような平易な言葉で伝えたりする力のことを指すことが多いです。言語化力が高いのにコミュニケーション力が低い人もいれば、その逆もいると思います。

たった一つ言葉選びを間違ってしまうだけで、真意が伝わらなかったり、相手に誤解を与えたりしてしまいます。私自身もよくあるのですが、炎上や誤解を恐れて、遠回しな言い方や抽象的な表現ばかりを選択し、結局相手に本当に伝えたいことを伝えきれないことがある人もいるはずです。

今回は、メジャーリーグで活躍し、アジア人初の米野球殿堂入りを果たしたイチローさんの記事をもとに、特にビジネスの場で、人に何かを伝える時にどのように言語化し、どのように言葉を選び、どのように効果的にコミュニケーションをとっていくのがいいのかについて考えていきたいと思います。

野球に限らず、スポーツには必ず名場面や記録が伴う。ただ、それが古ければ古いほど、記録などはただの数字になりがち。どんな背景であのホームランが生まれたのか。その選手はあのとき、どんなことを考えていたのか。証言する人も徐々に減っていく。選手本人もやがて鬼籍に入る。ただ、そこに具体的な言葉が残っていると、モヤのかかっていた事象が、グッと鮮明になる。
ただ、そこには伝わりやすい言葉とそうではない言葉がある。ワードセンスやチョイスも人それぞれ。誰が発したのかでも意味が違ってくる。その点においてイチロー(現マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)は極めて稀有(けう)な存在。現象や心情を巧みに言語化できる。彼ほど、言葉を持っているアスリートを知らない。

■ここぞという時に、印象的な言葉を残すために

イチローさんのようにマスメディアに対して言葉を発する人でなくても、仕事の中で、上司や顧客に企画を提案したり、大人数の前でプレゼンをしたり、質疑応答をするような場面で、秀逸な表現や人の記憶に残るような言葉をチョイスしなければと頭を悩ませることはあると思います。
(私自身も、たとえば取材を受けている時や、イベントや講演など人の前で話さなければいけない時、後輩社員とご飯を食べている時などに質問を受け、「何かネタになるようなこと、面白いことを言ってください」という雰囲気を出されることが多々あります。笑)

同じことを伝えていたとしても、Aさんが話すと納得するのに、Bさんが話すと納得してもらえないということがあると思いますが、それは、「人を動かす(心も行動も)言葉を使えているかどうか」「人に理解してもらいやすい言葉を使えているかどうか」です。相手の心を動かし、実際のアクションに結びつくような言語化を行い、伝わりやすいように伝えていくのも「スキル」の一つであり、インプットやトレーニングによって、誰でも向上させていけるものではないかと思います。

言語化する際、相手の感情を動かす言葉選びをするためには、以下のようなポイントを意識すると良いと思います。

  • 視覚的なイメージを伝える→抽象的な言葉ではなく、具体的に五感に訴えるような言葉を使う。

  • 多くを説明しなくても伝わる言葉を選ぶ→補足や説明が必要な言葉や表現ほど「伝わりにくい」と認識し、誰にとっても分かりやすい言葉を使う。

  • 伝える側の感情が明確に伝わり、共感や驚きなどを喚起する表現を用いる→具体的な経験や感覚に基づき、インパクトのある表現で気持ちを揺さぶる。

  • 全体を構造で捉え、ストーリーで伝える→全体像を捉えてから、具体的なエピソードやメッセージを伝える。

  • 短く、簡潔にまとめて伝える→不要な言葉を削り、伝えたいエッセンスを絞り込み、覚えやすい長さに収める。

  • 汎用的な表現をできるだけ避け、独自性を意識する→新しい気づきや視点を与えるような、意外性や独自性を意識した表現にする。

  • 相手に考えさせるための余韻を残す→相手に考える余地を与えるような、言葉や表現を意識する。

  • 相手の置かれている状況を踏まえて伝え方を変える→相手に最も響く言葉を選ぶために、誰に向けて話すのか、その人が共感しやすいことは何かを明確にした上で、相手に合わせて伝え方を選択する。

どんなにロジカルに話す人がいたとしても、どんなに頭の回転が速くてスラスラ言葉が出てくるような人がいたとしても、それが相手にしっかり伝わるか、記憶に残りやすいか、行動に結びつくような影響力を持っているかはまた別の話です。

自分の本当に伝えたいことや相手に理解してほしいことを端的に表現できるかが大事であって、それは瞬時に物事を巧みに言語化しようと努力し、分かりやすくシンプルに伝えることを積み重ねていく経験を通して、どんどんブラッシュアップされていくものだと思います。
 
少し脱線しますが、イチローさんの現役選手時代は、数々の偉業とともに、当時の記憶を鮮明に蘇らせてくれるほど様々な名言が残っています。

「小さいことを積み重ねる事が、とんでもないところへ行くただひとつの道だと思っています。」

(2004年、メジャーリーグの年間安打記録を破った時の記者会見にて)
 

「結果が出ない時、どういう自分でいられるか。決して諦めない姿勢が、何かを生み出すきっかけをつくる。」

(2005年、シーズン200本安打を達成した時のインタビューにて)

「考える労力を惜しむと前に進むことを止めてしまうことになります。」

(2004年、シーズン終了時のインタビューにて)

「自分のプレイに驚きはありません。プレイそのものは自分の力の範囲内です。」

(2001年、MVPを受賞した時のインタビューにて)

「どうやって、ヒットを打ったのかが問題です。たまたま出たヒットではなにも得られません。」

(2002年、首位打者をキープしていた時のインタビューにて)


イチロー選手が語る言葉がこれだけ人々の心を動かすのは、絶え間なく努力と挑戦を繰り返し、その結果生まれる言葉だからであることはもちろん、頭の中にある言葉を的確に言語化した上で、意図的に「伝わりやすい言葉」や「響きやすい言葉」、「人の心を動かしやすい言葉」を選定し、説得力のある伝え方をしているからではないでしょうか。

■言語化する上でのポイント①「自分の言葉で話す」

引用した記事には、現役時代にイチロー選手がどのように言葉の力と向き合っていたのか聞かれると、

・「僕の中から出てくる言葉を選んでいました」
・「じゃないと伝わらないから。人から聞いたいい言葉、話とかって、いいんだけど、それってこうやって公の場で、僕が僕の言葉じゃない言葉で話したとしても、聞いている人、分かっちゃうんですよね。僕の中から、湧いてくる言葉。それを表現していました」
・「降ってくるのを待っていることもありました」「それでも、作り上げたという感じではない。言葉っていうのは、確かに何か自分の意思とか気持ちを伝えるのに、言葉でしか伝えられないことも多いわけで、そのときに、自分の言葉じゃない言葉で伝えたとしても伝わらない」

とありました。言語化が上手な人は、

  • 物事をよく観察し、変化や本質を見抜くことに優れている(日常の中の細かい変化や違和感に気づきやすく、様々なことに好奇心を持ち、積極的に調べたり観察したりする)

  • 情報を構造的に捉えて考えることに優れている(論理的に物事を捉え、結論や根拠など要素に分けて筋道を立てて考えられる)

  • 頭の中にあることを言葉に変換することに優れている(相手やシチュエーションに合わせて最適な言葉をチョイスし、的確な言葉を見つけ出すことができる)

  • 客観的視点を持ち、相手の立場に立って考えることに優れている(自分の意見を一方的に伝えるのではなく、相手にどのように伝わるか、相手がどのように感じるかを理解するなど客観的に考えることができる)

  • 情報を端的に分かりやすく要約することに優れている(情報を分解し、物事の概要を端的に説明したり、相手との認識のズレを発生させないように伝えることができる)

などの特徴があります。その上で、表面的な言葉よりも、自分が本当に感じていることや信じていることを話す方が当然相手の心に届きやすいはずで、誰かに何かを伝えることが上手な人は、自分の感情を乗せて自分の言葉で話すことに優れていると言えます。単に資料を1枚目から順番に説明したり、誰かが書いたアウトラインをそのまま採用してプレゼンしていては、相手の心が動くことはありません。真剣さや必死さ、誠実さ、情熱や熱量が伝わらないのです。
 
「自分の言葉では話せない」問題は、実は様々な場面で発生しています。その理由を考えてみると、

  • 自分の考えや感情が明確に分かっていなく、どのように表現していいか分からない

  • 自分の考えを表現するための語彙力や表現力などのスキルが不足している

  • 論理的に考えることに苦手意識があり、自分の考えに一貫性がないと自覚している

  • 他者の影響を受けすぎていたり、自分よりも周囲の意見を優先することで、自分の考えを持ちにくくなっている

  • 自分の意見について、他者から非難されたり拒絶されることが怖い

  • 個性よりも調和を重視した文化や教育を受け、自分らしさを表現することに抵抗がある

  • 正解に最短でたどり着きたいがゆえに、間違った意見や発想を持ち遠回りになることを避けたがる

  • AIの台頭によって、物事を自分で考えずにデジタルツールに頼る(アウトプットさせる)習慣が生まれている

などではないかと思います。

  1. 自分の考えや感情に耳を傾ける習慣を持つ

  2. 自分の意見や気持ちを表現する習慣を持つ

  3. 他人の意見に過度に左右されず、自分の意見に自信を持つ

  4. まずは信頼できる相手や、安心できる環境で、自分の意見を言葉にする機会を作る

という点を意識しながら、「自分の言葉で話す」トレーニングを積んでいくことが重要です。

■言語化する上でのポイント②「10割賛同される意見ではなく、あえて議論を促すバランスを考えて発信する」

今の時代、本音で忌憚ない意見をストレートに表現している人は少ないように思います。SNSで何気なく発信した言葉や表現一つで炎上するリスクもありますし、対話の中で相手に誤解されてハラスメントだと指摘を受けてしまうかもしれません。記事の中には、

「僕はなるべく、自分が思っていることを表現したいと思っています。それでも難しい、現代はね。いろんなことをカバーしようとしたら、無理ですよ。もう、話なんてできない。だから、僕としては薄っぺらい会話なら何言ってもいいんだけど、深く、ちょっとこう議論を呼びそうな話題になったとき、そのときはナナサン(7対3)のバランスでアンチがいるといいなと思ってます」

とありました。これを言ったら反発する人もいるであろうと想定しつつも、あえて「7割賛同、3割反対」とされるぐらいのバランスで発言するとのこと。「反対」や「批判」を避けようとした発言や相手の想定の範囲内の発言は、無難に誰にでも受け入れられるものの、議論が巻き起こるわけではありません。シンプルに言うと「つまらない」のです。

一方で、予想をはるかに超えてきた言葉や表現は、印象を確実に残し、大きなインパクトを与えます。ある意味、相手の想像を裏切る状態が、人に感動と記憶を残すことができるのではないかと思います。

ビジネスの場においては、議論を活性化させるために「賛否ありそう」な意見や、それまで出てきた意見とあえて真逆の意見を取り入れながら、多様なアイディアを出した上で議論することが多いです。その過程で、お互いが納得できるゴールへと導いたり、議論に参加した人が自分事として問題を捉えて、その後の主体的なアクションへとつなげることも可能になるからです。

その他にも、

  1. 自分の立場、自分の意見を明確に表現する(反対意見を恐れず、一定のリスクを取る)

  2. 抽象的な表現よりは、具体的な表現をする(お茶を濁さず、ズバッと)

  3. 感情的な発言よりも、具体的な事例やデータ、根拠を示す(客観性を大事に)

  4. 専門用語や複雑な言い回しよりも、できるだけ平易な言葉で話す(誰にでも分かりやすく)

  5. 一方的に話すよりも、聞く側に問いを投げかける(相手がいることを意識)

  6. 常識的な意見だけを言うよりも、前提を疑う視点を投げかける(正解を言うことが正しいわけではない)

  7. 相手の感情を刺激する表現をする(驚きや共感を引き出す)

  8. 冗長で長い説明よりも、短く端的に核心を突く表現をする(言葉に力を込める)

  9. 議論が停滞している時や注目を集めている時など、適切なタイミングで発言する(タイミングを見計らう)

などを意識することで、議論が活性化されるような発言、発信ができるようになるのではないかと思います。
賛否を呼ぶ発言には、当然反対意見が出ます。ただ、バランスを取りながらその反論を受け止める覚悟を持つことが、結果的に発言に説得力を持たせることになるのではないでしょうか。


最後に、言語化力を身につけていくためには、まずは自分の体験や経験をどんどんアウトプットしていくことが最も有効ではないかと思います。「本を読んだり映画を観て、感想やレビューを書く」「日々の出来事を日記やSNSに書く」「インプットした情報を人に説明する」「会議の最後に要点をまとめる」など、日常生活の中で意識できることは多々あります。

「自分は言語化力が高く、考えたことや言いたいことが正しく適切に伝わっている」「常にロジカルで正論を言っているから、言語化力を磨く必要がない」と考えている人は意外と多いのかもしれませんが、“間違っていない”ことを言っていても伝えた相手の反応がイマイチだったり、伝えたい意図とは異なる解釈をされたことがあるという経験は誰もがあるのではないでしょうか。
結局は、人は理屈よりも感情で動きますロジカルで正論を言っていれば言語化力に優れているというわけではなく、相手の感情を汲み取り、伝える相手を想像した言語化ができることが重要なのです。
 
明確に考えを言葉で伝えることで、チーム内のコミュニケーションを円滑にするだけでなく、戦略やアイディアを具体化し、実行計画へとつなげることができます。言語化の精度が高ければ高いほど、必要な人に情報が正しく伝わり、質の高い意思決定につながることもあります。

ビジネスにおいて言語化能力を磨くことは、自身自身の仕事の質をさらに引き上げ、組織成果へと直結させる近道になるはずです。
 


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