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健康経営が改めて注目されるワケ。やっているふりではない本質的な取り組みが、企業価値向上に直結する。

皆さん、こんにちは。今回は「健康経営」について書かせていただきます。

ゴールデンウィークが明けましたが、連休明けは、新年度・新生活からの疲れやストレスが重なり、体調を崩しやすい時期です。「五月病」という言葉がある通り、学校や会社に行くことが億劫になったり、仕事の効率も落ちやすく、体調不良や気分の落ち込みなどにつながってしまいがちです。

数年前から注目されている「健康経営」とは、社員の健康増進を経営課題として取り組み、業務効率や企業価値の向上につなげることを指します。社員が健康であれば、生産性が向上し、さらに医療費にかかる企業負担が減少することで利益率が上がるというプラスのサイクルが生まれますが、不健康だとその逆で負のサイクルに突入してしまいます。

健康経営が叫ばれ、心身ともに社員の健康を維持・向上させることの重要性が問われている今、企業はどのように社員の健康と向き合っていく必要があるのでしょうか。具体的に考えていきます。

■健康経営が注目されるワケ

改めてですが、健康経営とは、社員の健康増進を経営的な視点で捉えて、戦略的に施策を実行していくための取り組みです。従来のように社員の健康は「個人の問題」とするのではなく、企業の業績、及び企業価値を上げるためには社員の健康維持・促進に関する支出は必須であり、『投資』であるとする考え方です。

もともと企業の人事的な視点としては、人材の流動化が進む中で、もっとウェルビーイングに注目して社員との関係性を深め、エンゲージメントを高めていきたいと考えていた企業は少なくありませんでした。それがコロナ禍を経て、社員の体調管理を企業が配慮する必要性が今まで以上に顕在化したことも事実です。

これまでのようにネガティブな視点から社員の健康を管理するのではなく、社員のニーズに適応していく形でポジティブに捉え、健康への意識や取り組みを会社の競争力としていく時代になっているのです。

健康経営を実現するメリットとしては、

●人材の定着、採用競争力の獲得
●社員のモチベーション向上や組織全体の活性化
●生産性や業績の向上
●社会的評価、企業イメージの向上
●企業が負担する医療費の減少

などが挙げられます。
実際には、

●健康推進部署やプロジェクトの設置
●社員の健康課題把握(定期健診の受診勧奨の取り組み、ストレスチェックの実施など)
●社員の健康意識向上のための施策実行
●保健指導やメンタルヘルス対策(産業医やカウンセリングなど相談窓口の設置など)
●健康増進・生活習慣予防対策(食生活改善、運動機会の提供など)
●過重労働対策(長時間労働者への対応に関する取り組み)
●有給取得率向上などのワークライフバランスの推進

など、既に何らかの取り組みを行っている企業の方が多いと思います。ただそれが、“とりあえず最低限のことをやっている”企業、“形だけ社員の健康への投資をしている”企業も存在する可能性があります。

こちらの記事には、

製薬会社が「健康経営」に自社の知見を生かす取り組みが広がってきた。協和キリンは社員の禁煙を支援し、あすか製薬は重点分野である甲状腺や婦人科の検査を社員に実施している。大塚製薬は商品を生かした中小企業の支援に乗り出した。人的資本について開示する機会が増える状況で、製薬会社にとって健康経営への取り組みは独自色を発揮する機会にもなる

とありました。各企業のホームページや統合報告書などで、健康経営に対する戦略や目標、実績を開示する企業も増えています。

「禁煙施策」に取り組む企業、「疾患対策」に取り組む企業、「健康管理」に取り組む企業など様々ですが、ただ企業の人事や担当部署が一生懸命施策を打ち続けるだけでは期待する成果は得られません。何より社員の健康に対する意識向上と、実際の施策への理解や参画が欠かせないのです。健康課題を抱える当事者が主体となり、実際に行動変容につなげることが大切です。

また、同じ記事に、

経産省によれば公的保険外の健康増進サービスの国内市場は20年時点の19兆円から、50年には34兆6000億円まで広がる見通しだ。企業の健康経営を支えるサービスには潜在的な商機がある。

とあり、実際に健康経営に関わる新規事業が生まれたり、人的資本開示の項目に健康経営を採用したり、企業の中期計画の中に健康経営の目標値を追加する企業は確実に増えていくはずです。

ただただ社員の健康に配慮していればOK、何かあった時のために制度だけ作っていればOKということではなく、組織全体を健全な状態にし、心理的安全性を高め、多様性を生かす組織風土づくりの一環として取り組むことが重要ではないかと思います。

さらに、社員の健康問題を自社の経営戦略とどのように連動させて企業価値を上げていくことにつなげるのかあらゆるステークホルダーに向けてどのような情報を伝えていくことが自社の健康投資への理解と共感を生み出すことにつながるのかも、同時に考えていく必要があるのではないでしょうか。

■企業が取り組むべきこと①「社員のメンタルケア」

引用した記事には、会社が提供する福利厚生プログラムに「カウンセリング」や「セラピー」を用意し、マネージャーに対してメンタルヘルス問題を抱えるスタッフをサポートするように促されているとありました。

JPモルガンはメンタルヘルスのカウンセラーチームを大規模拠点に配置し、危機に見舞われた際のケアや、短期のカウンセリングを行っている。メンタルヘルスの臨床医で、従業員支援プログラム担当のエグゼクティブ・ディレクターを務めるジュディス・ベス氏は、パンデミックが始まって以来、カウンセラーが従業員の悲しみや喪失感、不安やうつに対処してきたと語る。「セラピストがオフィスにいれば、従業員がケアを受けやすくなり、彼らが職場で直面する一般的な問題やストレス要因が身近に感じられるようになる」

これは、同時にリーダーやマネージャーなどの管理職の立場の負担を軽減することにもつながります。仕事上の問題や課題に直面した時にアドバイスをすることはできても、社員一人ひとりが抱えているプレッシャーやストレスを全て受け止め、根本的な要因を見つけ、完璧に取り除くことまではできないからです。

「会社にこのような制度があって、このような窓口(専門家)があるから相談してみて」と言えるような仕組みがあるだけで、心理的にも負担が減ります。さらに、社内のカウンセリングの仕組みが機能していれば、個人の守秘義務を守った上で、組織のチームメンバーがどのような問題を抱えどのような要望を持っているかについて、管理職がその傾向を把握し対策を練りやすくなります。

一部の雇用主は、従業員のメンタルヘルス問題について面倒を見る責任があるとは考えていない。また、前向きに取り組もうとしている企業でも、現在の経済環境の下で、サービスの提供が難しくなっているかもしれない。

とありますが、社員のメンタルヘルス問題への対応についての優先順位が高くなく、必要性を実感できていない企業も少なくありません。社員が心身ともに健康でいられることが、やる気やモチベーションの維持だけでなく、仕事の質や生産性向上にも直結し、企業の業績向上に直結することは明白なのですが、その重要性を認識しながらも社内に十分な制度や体制を整えられているわけではないのが実態です。

健康経営に臨むにあたって、企業の経営者と専門家である産業医やカウンセラーとは密接に連携していくことが増えていきます。専門家は社員が働く環境において、健康を阻害する要因を排除し、適切な対策をとることはもちろんですが、企業と社員の関係性を深めていくための支援を行うことも必要です。健康に関してのスペシャリストであると同時に、組織をより良い方向へと導くようなアドバイザーとしての役割も果たす必要が出てきているのです。

■企業が取り組むべきこと②「健康や幸福感を高める働き方の模索」

社会経済活動の多くがコロナ前に回帰する動きがある中、今後のリモートワークの在り方をどのようにしていくかは各社判断が分かれている状態です。

こちらの記事には、

在宅勤務の潜在的なメリットがあった人や、コロナ禍で在宅勤務の難点を克服しメリットを享受できるように働き方や環境を変えた人ほど、在宅勤務はコロナ後も定着しやすいといえる。

とあり、たとえば、

・コロナ前からリモートワークをしていた人
・リモートワークに向いている業務を担っている人
・どこで働いていてもアウトプット(成果物や生産性)で評価されるような企業に勤めている人
・働き方の多様化を積極的に推進している企業に勤めている人

などは、コロナ禍でのリモートワークのメリットは大きく、定着しやすい傾向にあります。今後は、リモートワークのメリットを享受できる企業とそうでない企業との二極化が進み、働き方の多様化という観点では格差が顕在化することが予想されています。

人的資本経営の観点から考えると、社員のエンゲージメントやウェルビーイングを高める一つの方法として、リモートワークが機能する可能性があります。リモートワークが生活の中にうまくフィットしている人にとっては、睡眠・食事・運動のサイクルを上手にまわすことや、プライベートとの両立をしやすくすることで、仕事への熱意や活力を上げられることもあるからです。

新型コロナウイルス禍からの経済活動の正常化で、従業員がオフィス出社に回帰してきた。東京都心部のオフィス出社率は7割を超える。

とあるように、原則オフィス出社に戻す企業が増えていますが、このような意思決定をした時の社員のストレスに、今まで以上に慎重に向き合う必要が出てくると思います。

リモートワークを一度経験してしまっていることで、人によっては「通勤が面倒」「出社すると生産性が低下する」「今までは気にならなかった、他者とのコミュニケーションやオフィスの環境にストレスを感じる」という声が確実に出てくるはずです。

リモートワークに限らずですが、働き方の選択肢を増やすことは、企業の生産性と社員のウェルビーイング双方を追求し、両立し得る可能性が十分にあります。改めて目先の利益、目先の課題にだけ目を向けるのではなく、今後の働き方の変化やデジタル化推進も踏まえた「未来のあるべき姿」を見据えた上で、企業と社員がどちらもウィンウィンになれる働き方を模索していく必要があるように思います。

■「働く=健康を害する」からの脱却

日本の労働者は、働くことで健康を損なうリスクにさらされています。それは加齢に伴う生活習慣病のリスクなどももちろんありますが、「睡眠や休養が十分取れない」「人間関係に不安を抱える」などの労働環境があった場合に、ストレスを溜め込んでしまい、心身ともに不調が出てしまうリスクの方が大きいです。

働くことで健康を害する状態からの脱却が求められる中、重要なのは、企業のトップが健康経営を重要な経営課題と認識し、リーダーシップをとって推進していくことです。働くことで疲弊する社員を増やすのではなく、健康的に働き続けられる環境を構築していくことで、社員の満足度も労働生産性も高まり、企業と社員の双方にとってプラスになります。

健康的に働けない状態が続くと、クリエイティビティを発揮して新しい企画やアイディアを創出したり、これまでにない視点を持ち行動範囲を広げて新しいつながりを作るといったことは生まれにくくなります。そういう意味でも、変化に適応しながらイノベーションを起こす組織に、健康経営は不可欠なものと言えるのではないでしょうか


また、企業は社員が不健康でなければ、一労働力として歯車のように扱っていいわけではありません。本来であれば、社員一人ひとりがその人らしく幸せに人生を送れるように、社会やビジネスを通して幸せや充実感を満たすための土台を構築していくことが求められています。

社員の健康を支援することがキャリアを支援することにつながり、社員の健康への投資そのもの、ウェルビーイングも含めて健康や働くことの幸せを追求することそのものが、企業価値を高めてくれることにもつながります


自社の社員が喜びや幸せを感じながら仕事に向き合えているのか。
リスク管理という受け身の健康投資ではなく、企業価値を高めるための攻めの健康投資ができているか。

改めて各企業が考えていくべきテーマではないかと思います。


#日経COMEMO #NIKKEI

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