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ジャズとアート思考(3) アドリブを可能にする組織とは?

先日、JAZZ EMP@Tokyo Financial Street 2020というイベントが開催された。今年で3回目となるこのイベントの目的の一つは、東京・茅場町を中心とした国際金融都市としての東京を、芸術文化の観点から盛り上げることにある。普段ジャズに接する機会の少ない金融街のビジネスパーソンにも、気軽に音楽に触れてもらい、感性を豊かにして頂こうということである。

もう一つの狙いは、EMP=Emerging Musicians Programと銘打たれているように、若手で気鋭のミュージシャンに演奏の機会を設け、活躍の場を増やすことである。今回も、4組の若手グループを含め、合計5つのジャズセッションが繰り広げられ、さながらジャズフェスティバルの様相となった。

そして、なんといっても特徴的なのは、会場に東京証券取引所が使われたことだ。株価のニュースで映し出されることが多い東証Arrowsの電光掲示板をバックにステージを作り、そこで一日中ジャズが演奏され、ネット配信された。現在もアーカイブが公開されているため、ご関心のある方はチェックして頂きたい。

さて、筆者もこのイベントの一環として、「ビジネスにおける“アート思考”とアドリブの世界」というトークセッションに登壇させて頂いた。洗足学園音楽大学教授でジャズトランぺッターの原朋直先生との対談形式であった。ジャズに特徴的な「アドリブ」に焦点を当てて、ビジネスにおけるアート思考との接点を探る企画である。貴重な機会を得て、ジャズ界の第一線で活躍されている原朋直先生に、ジャズ演奏の裏側について普段聞けないようなお話を色々とお伺いした、という形となっている。

20分という短い時間のセッションだったが、こちらもアーカイブが残っているため、興味がある方はチェックして頂きたい。今回は、ここでの議論を補足する形で、アドリブとビジネスについて考察してみたい。

ビジネスにおけるアドリブの重要性

今回の議論は、「アドリブ」に焦点を当てて行われた。ジャズにおけるアドリブは、楽譜に書いてあることではなく、自由にその場で音楽を作りながら演奏していくスタイルで、現代のジャズ演奏の中心となるものだ。

決められたことではなく、先の見えない中で、その場の発想で展開していく力は、ビジネスでも求められることが多い。VUCA(Volatility、Uncertainty、Complexity、Ambiguity)の時代と言われることもあるが、こうしたVUCA時代において自由に発想し、形にしていくアドリブの力はビジネスに参考になるだろう。

議論の一つは、どうすれば上手にジャズのアドリブができるようになるか、という点だが、この点については「過去の偉大な演奏をたくさん聞き、引き出しをたくさん持っておく」ことが重要であり、過去の演奏を学びながら練習を重ね、スキルが上がってくると、新しい発想が生まれてくる、ということであった。

この点について、ビジネスにおける新規事業開拓力に置き換えて考えてみると、以下の点が重要と考えられる。

・過去や他社のビジネス事例を多く学び、引き出しを多く持っておくこと
・自分でビジネスプランを作り、実践することでスキルを上げること

現在、多くの企業で新規事業の開発に取り組まれているが、この2つを実行できている企業は意外に少ないのではないだろうか。過去事例については、MBAなどを取得した方は、ケーススタディなどで学んだことがあるかもしれないが、通常業務の中では、過去事例・他社事例を深く掘り下げる機会はそこまで多くないかもしれない。

また、大企業の中には、最新のソーシャルメディアやコミュニケーションツールなどに対して、アクセスを遮断しているところもあると聞く。世界の最先端でどのようなイノベーションが進んでいるか、真っ先に自ら使って試してみることができなければ、先進的なサービスを生み出すためにはかなり不利な立場にあると言っても良いだろう。

また、色々と情報収集をしても、ビジネスプランを作って実際に実行する経験を積める機会は限られているかもしれない。シリコンバレーのVCでは起業家の過去の失敗経験を評価するとも言われているが、失敗した経験も含めて、何度も試してみることでビジネスを立ち上げるスキルは上がっていく。大きな組織で新規事業の立ち上げ経験を多く作ることが難しければ、スタートアップ企業への出向など、実践の機会を作ってスキルを上げるという人材育成策も、検討できるのではないだろうか。

アドリブを可能にする組織とは

もう一点、良いアドリブとはどのようなアドリブか?という点については、「アンサンブルとしてのまとまりや方向性につながっていること」ということであった。アドリブといっても各自が好き勝手に演奏するのではなく、そのバンドの音楽や方向性に合わせつつ、音楽を拡げていくことが重要だということである。

ビジネスにおいては、近年「ティール組織」や「ホラクラシー」など、自律性を重視したフラットな組織形態が注目されている。

ジャズのバンドも、参加メンバーが自律的に演奏するアドリブが重要な役割を果たすという点で、こうしたフラットな組織と言っても良い。また、通常参加メンバーは同一組織の雇用関係にあるわけではなく、上下関係も権限等の規程で決まっているわけではない。その意味ではかなりフラットな組織と言っても良いだろう。その意味で、フラット型組織のマネージメントは、ジャズに学べるところがある。

上記の「良いアドリブの評価基準」に戻ると、「全体の方向性に合っているかどうか」という評価基準はビジネスにおけるフラット型組織でも重要になる。自律的に参加するメンバーには、自分の活動がそのチーム全体の方向性に沿っており、それを発展させることにどう貢献できるかを常に探る必要がある。従来のように上司が業務を指示してくれるわけではない以上、フラット型組織では、自らそのような感覚を磨いていく必要があるのではないだろうか。

その一方、今回の対談では、ジャズにおけるリーダーシップの重要性についても語られた。リーダーが音楽の方向性を示し、そこに参加メンバーが合わせていくというスタイルである。フラットな組織といっても、方向性について何も手がかりが無ければ、各自の努力は方向感を失い、空中分解してしまかもしれない。ジャズの世界では、メンバーは極めて自律的で、モチベーションも高い状態でチームに参加している。そのような組織でも、リーダーの存在は重要だということである。そうであれば、ビジネスにおいても、メンバーの役割が決まっていないだけに、方向性を指し示すリーダーシップはむしろ重要になっているのかもしれない。

以上、今回はJAZZ EMP@Tokyo Financial Street 2020でのトークセッション「ビジネスにおける“アート思考”とアドリブの世界」の模様から、いくつか補足的に論点を提示してみた。VUCA時代の対応力や、フラット型組織のマネージメントなど、参考になることは数多くある。関心を持っていただいた方は、ぜひ上記で紹介したアーカイブもチェックしていたければ幸いである。

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