また埋まった外堀~シェルへのCO2削減命令を考える
オランダ・ハーグの地方裁判所が下した判決はシェルに対し、CO2の排出量を更に削減することを命じた、という。一企業に対し、CO2の排出量を具体的に命令する、ということ自体異例である。その上、これにシェルが控訴する、となれば、今後もこうした係争が続きかねないことを示唆しよう。
企業にとっては、これからの気候変動社会への適合資金が莫大にかかる中で、無駄なコストがかかることを意味し、頭が痛い話である。実際、事業会社の多くは株主総会からのプレッシャーもあり、それぞれが実行できる目標については既に掲げているケースも増えている。かつ、急激な調整が難しい場合も考え、トランジション(移行)に焦点をあてた現実解を求めようとする中、こういう判決が出得ることを見た企業経営者はさぞ気分が悪かろう。
一方、こうした判決は、お題目のように2050年カーボンニュートラルを掲げただけで具体的な中身を示せていないことに業を煮やした者たちの怒りだ、と捉えることも必要かもしれない。前向きに捉えるなら、社会全体、地球全体が目標に向けていかに努力するか、具体論を示せ、という要求であり、それなら一理ある。
“座礁資産”という言葉がある。環境変化の中で価値が毀損する資産のことを指すが、中でも石油はその最たるものだ。石油を資産に有する多くの企業にとって、ある日突然資産価値がゼロになったら。勢い債務超過ということになる。いつか化石燃料から離れる現実社会が来るかもしれないのだが、それがいつなのかはっきりしないのが悩ましい。これは投資家から見ても同じで、いつ石油関連資産を座礁資産と判断し、投資価値に反映させていいのか、は判然としないままだ。
あまりエキセントリックな方向に行くことが良いとは思わない。しかし、裁判所が数値目標を命令したという実例が出たことで、企業サイドの二酸化炭素排出量を含めた様々な数値目標は更に見直され、高い目標を掲げて行くことになるのではないか。裁判所の判決という異例な形で、気候変動に対する動きを加速せねばならないという外堀がまた一つ埋まったという感じがする。