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妻と娘が交通事故にあいまして

本当に、一瞬の出来事でした。なんの変哲もない、近所にある交差点。別に見晴らしが悪いとか、そんなことは何ひとつない場所。青信号の横断歩道を、妻が娘をのせた自転車で渡っていました。私も自転車で、二人に続いていました。向かいから車が右折してくるのは目に入っていました。しかし、様子がおかしい。減速しない。止まらない。「ヤバイ」と思った時には手遅れで、車は、妻と娘を乗せた自転車と衝突。二人は自転車ごと横転しました。

変な形にひしゃげた自転車と、顔を歪めてうずくまる妻。悲鳴のような鳴き声をあげる娘。ここから数秒間のことはちょっと記憶にないのですが、二人に駆け寄って娘を抱き上げ、妻を抱えて道路のはじに移動したことだけは覚えてます。娘が、かつてない強さで自分にしがみついているのを感じました。妻は、足を抱えて苦悶の表情をうかべていました。

二人のことで頭がいっぱいになってしまって、自分たちが乗っていた自転車は二台とも道路のど真ん中に置きっぱなしになってしまっていたのですが、通行人の方々がすぐに駆けつけてくださって、自転車を道路脇に移動してくださいました。本当に、有り難かったです。

妻と娘をひいた車から、老夫婦が降りてきました。人の良さそうなお二人で、血相を抱えていました。救急車を既に呼んでくれたとのことで、何度も謝ってくださいました。相手に悪気があってのことではないのは明らかで、「気にしないでください」の一言でもかけるべきだったのかも知れませんが、でも、とてもそうは言えませんでした。この時の自分は、冷たい目で軽く会釈をしただけ、みたいな、とても失礼な態度をとってしまっていた気がします。「ふざけんな」「どうしてくれる」と喉元まで言葉が出かかったけれど、それどころではないことを思い出し、妻と娘の怪我の具合を必死で確認していました。

そうこうしている内に、救急車と警察が到着。私たち家族は救急車に入れてもらい、怪我のチェックをしてもらいました。この時には、妻はもうだいぶ落ち着いていて、テキパキ隊員さんとやりとりしていました。娘も泣きじゃくってはいましたが、もう峠は越えた感じに。その後病院に搬送されて精密検査含め診断してもらったのですが、妻は(小さな傷はそこかしこにありつつ)、右足の筋挫傷だけで済みました。娘に至っては、奇跡的に、無傷でした(素人の自分は、車との接触後に娘が泣き叫んでいてすごい心配をしてしまったのですが、お医者さん的には「泣けていたら安心」とのこと。そうか、場合によっては気絶して泣くことすらできないんだ、と納得)。まさに、不幸中の幸い。この時ほど神様に感謝したことはありません。自転車は、オシャカになっていたというのに。二人が受けるはずだった衝撃を引き受けてくれたのかもしれません。

その後、お義父さんが車で迎えにきてくださって、みんなで帰宅。事故にあったのが夕方だったので、この時にはもう、20時は過ぎていたと思います。遅めの晩ごはんを食べながら、妻は「いやー、ラッキーだったわ」と笑って話していました。娘にいたっては「ピーポーピーポーにのった!!」と興奮気味に自慢してくる始末。さすが、うちの家族。

そんなふうに、笑いながらご飯を食べている妻と娘を眺めていたら、ふいに、涙がこみあげてきました。なんで今更……! でも、本当に、あと一歩間違えていたら、この笑顔を二度とみることができなくなっていたのかもしれない、今も、ひとりきりでご飯を食べていたのかもしれない、そう思ったら、止めどなく涙が溢れてきてしまいました。

私にとって、かけがえないのない存在。それがある日、なんの前触れもなく、唐突に奪われてしまう可能性があることを知りました。いや、知ってはいたはずです。交通事故のニュースは、年中報道されています。でも、報道の向こう側にある、それぞれの被害者、そしてご家族の苦悩、リアルを、全然わかっていなかった。というより、どこか他人事のように捉えてしまっていました。自分の身には起こりっこない、と。でも、そうじゃなかった。

そして、もうひとつ強烈に感じたのは、自分が加害者になる可能性です。今回、妻と娘をひいた加害者の方は、とても良識ある人のようにみえました。すぐに必要な対応をしてくださったし、事件の責任から逃れようとするでもない、ご自身に非があることを認め、できる限りの償いをするとおっしゃってくださいました。事故後の対応は基本的に保険会社がやってくれるだろうに、後日、わざわざ自分に直接電話をくれて、謝罪してくださいました。

こういう人でも、交通事故を起こすんだ、と思ったのです。交通事故って、軽率な、人の命を軽んじる輩が起こすものとどこかで思っていたけれど、そうじゃない。誰でもやってしまいうるんだ、と。そう思うと、運転するのが怖くなりました。

池袋で乗用車が暴走して奥様とご息女を亡くされた松永さんは、事故の責任を認めない加害者と裁判で争いつつ、交通事故の悲惨さを訴え、再発防止のためのご活動をされています。これも、報道では知っていましたが、今回の事件を経て、改めて、心底、尊敬しました。「交通事故はいつ誰に起きてもおかしくない」そう訴える松永さん言葉が、とてつもなく重く感じました。

私は、愛する家族を奪われたくないし、誰の家族を、絶対に、奪いたくない。でもそれは、そう思っているだけではダメなんだと知りました。移動や運転に関わる行動のひとつひとつを見直して、改善を積み重ねていきます。

あと、頼むから、早く自動運転きてくれ……、と祈った年の瀬でありました。

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前田晃平
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