ジョブ型・メンバーシップ型関係なく「降格」の可否は考えないといけない
ジョブ型雇用と降格:本質的な問題は何か
ジョブ型雇用の導入が注目される中、「降格」や「解雇」といったテーマが議論されることが増えた。しかし、そもそもジョブ型雇用そのものが降格や解雇と直接的に結びつくわけではない。ジョブ型雇用が特定のポジションに基づいて賃金や評価を行う仕組みであるため、意思決定の合理性を説明しやすいというだけであり、降格や解雇の問題は人事戦略全般にかかわる本質的な課題である。ここでは、ジョブ型雇用と降格の関係性を整理しつつ、企業が競争力を保つために考えるべきポイントを論じる。
ジョブ型雇用の合理性と誤解
ジョブ型雇用では、ポジションの責任や職務内容に応じて評価を行う。そのため、ポスト変更や降格が行われた際、合理性の説明が比較的明確になるという特徴がある。しかし、これはあくまで雇用管理の手段であり、ジョブ型雇用そのものが降格を引き起こすわけではない。同様に、ジョブ型雇用と解雇の問題も直接的な関連はない。これらの点を明確にすることは、ジョブ型雇用に対する誤解を解く上で重要である。
人事戦略の基本:ヘッドカウントと総額人件費管理
人事戦略の基本には、「ヘッドカウント」と「総額人件費管理」という二つの要素がある。ヘッドカウントは、各ポジションに必要な人数や全体の人員構成を計画するものであり、最適な人員配置を達成することが人事の役割である。この際、専門性が陳腐化した従業員やポジションに適合しない従業員に対して、降格や解雇といった選択肢を取ることができなければ、企業は国際競争で不利な立場に立たされる。
一方、総額人件費管理は、企業全体の予算の中から人件費に割り当てられる割合を管理するものだ。日本企業の「労働分配率」は国際的に見ても低くはなく、総額人件費そのものが極端に少ないわけではない。しかし、効率的な配分ができていないケースが多く、無駄が生じているのが実情だ。この最適化を妨げてきた要因の一つが、「降格」という選択肢がなかなか採用されてこなかった点にある。
降格と雇用安定性のバランス
企業が競争力を保つためには、「雇用の安定性」と「雇用の柔軟性」のバランスを取ることが不可欠である。日本企業は従来、雇用の安定性に極端に偏った傾向があった。これに対し、アングロサクソン系企業は雇用の柔軟性を重視するが、2000年代の経済危機を経て、その考え方にも見直しが進んでいる。つまり、どちらに偏りすぎても問題が生じることを示している。
ジョブ型雇用が降格を検討するきっかけになることは理解できる。しかし、それは単なる契機であり、本質的な課題は「雇用の安定性」と「柔軟性」をどのように設計し、実行するかにある。降格という選択肢を合理的かつ公正に活用するためには、従業員が納得できる説明やプロセスが必要だ。
降格をめぐる企業の工夫と課題
実際、富士通やパナソニックコネクトのような企業は、降格が単なる処分と受け取られないよう、「改善プログラム」や「リファインプログラム」を導入している。これらの仕組みは、従業員に再挑戦の機会を与え、納得感を高める工夫として有効である。また、降格後の賃金激変を緩和する措置や、他部署への異動によるポジション維持の仕組みも、摩擦を最小化する手段として注目される。
ただし、これらの取り組みが完全にトラブルを防げるわけではない。日本の労働法における降格の取り扱いや、ジョブ型人事と職能資格制度が混在する実態は、裁判所の判断が分かれる要因となる。企業は、こうした不確実性を見越して、労使間の対話を徹底し、新しい制度を軟着陸させる努力を続ける必要がある。
競争力の維持と人事戦略の未来
ジョブ型雇用の導入が、日本企業の人事戦略に新たな視点をもたらしているのは事実である。しかし、降格や解雇といったテーマに関しては、ジョブ型に特有の問題ではなく、人事戦略全体の課題として捉えるべきだ。企業が競争力を維持するためには、従業員が安心して働ける環境を提供しつつ、柔軟な雇用管理を実現する必要がある。
ジョブ型雇用はあくまで一つの選択肢に過ぎない。企業が真に取り組むべきは、合理的で透明性のある人事制度を構築し、従業員との信頼関係を築くことである。そのプロセスこそが、これからの企業経営において重要な競争力の源泉となるだろう。