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ダイバーシティってイノベーションなので、それが進まないのは「イノベーションのジレンマ」に陥っている組織です

お疲れさまです、メタバースクリエイターズ若宮です。

9月は「勝手にジェンダー・ダイバーシティ月間」にしているので、今日もダイバーシティに書いてみたいと思います。


イノベーティブな組織と多様性

先週、伊藤羊一さんと某所でジェンダー・ダイバーシティについて対談する機会がありました。

ジェンダーの観点も含めつつ、「イノベーティブな組織」について語るというテーマだったのですが、

正解があった時代には同質性が成長を加速させたけど、VUCAと言われる時代のマネジメントや組織の視点からみた時には、イノベーティブな組織であるためにはダイバーシティが絶対必要!はもう前提だよね、という点について意気投合してお話しました。


そもそも「イノベーション」とは、たとえばシュンペーター的には「新結合」のことです。そして「新」であるということは、既存の慣れ親しんだ結合ではなく、異質なものとの出会いが必要です。


僕はよく「価値観の轍」という話をします。たとえば雪が降った後、はじめて車が通ったり人が歩いたりするとそこに「轍」ができます。何回か通るうちにそこに跡ができて、通りやすくなる。轍があるとそれがガイドやレールのようになって走りやすいのですが、しかし一方で轍とはちがう方向に向かう妨げになります。

人には現状維持バイアスがあります。新しい思考や価値観、初めての行動であっても、何度か繰り返されるとそれに適応していき、疑う必要のない常識になり透明化されます。これは効率性や脳の省力化の上では便利な機能なのですが、既存の経路への依存となり、新しい価値観への移行が難しくなるのです。

だからこそ、既存の価値観や既定路線にとらわれない新しい視点やアプローチができるためには、(アートもそうですが)慣れ親しんだ「当たり前」にヒビを入れてくれるような異質なものとの出会いが重要なのです。

イノベーションが価値の革新であり「新結合」なのであれば、異質性や多様性はイノベーティブであるために必須の前提ということになります。


ダイバーシティの難しさ

いま「ダイバーシティ」が求められている自体は、男性も含めて多くの人がある程度理解していると思います。少なくとも正面切って「いや、ダイバーシティなんて要らない!」と主張する人はあまりいないでしょう。

しかし、総論的にはみんな賛成なのになかなか進まない

ここにはある種の葛藤があります。

先日の会でも参加者から「ダイバーシティの重要性は理解するが、中間管理職においては売上など必達の数値目標が設定されており、組織の運営方法を変更するのがなかなか難しい」というようなお悩みがありました。

札幌NoMapsの時にも登壇者の山崎さんから「とはいっても、経営者としては難しい部分もありますよね。急にやり方を変えようとすると反対もあるし。どう進めたらいいんでしょう」という課題提起があったのですが、たしかに成果や経営を考えると理想論だけではいかないところもある。


たとえば、自分たちの組織は変わろうとしたとしても、取引先がまだ昭和型で「夜の付き合い」を好む人だったりすると、夜の接待が減ることで失注してしまうかもしれません。

実際、男性主体で、体育会系の営業スタイルもまだまだ残っていたりします。昭和型の営業スタイルで実績を上げてきた企業であればあるほど、女性の数を増やすとそれまで成り立っていた働き方、営業スタイルを変える必要があり、業績が落ちる不安を負うことになります。

ダイバーシティはいいけれども、それで売上に影響が出たり経営にマイナス影響が出たらどうするんだ、ということですね。とくに、短期的な目標が求められる場合においては、中長期的に効果が出る体質改善よりも足元の事情が優先されがちです。


SDGsやダイバーシティに反対する人はいないとしても、長年男性社会的な組織で働いてきてそれに慣れているマネージャーからすれば、やり方を変えることで業績が落ちるかもしれない、ここにコンフリクトがあり変化を阻害している。


イノベーションのジレンマ

イノベーションは「価値の革新」ですが、価値観の変化である以上、どうしてもコンフリクトが起こります。

これは個人においてもそうです。男性と女性の役割についても古くからの価値観が影響していることがあり、「男なら泣くな」「男子厨房に入らず」「女性を食わせるのが男の甲斐性」「小さいことを気にするのは女々しい」「男なら太く短く」、昭和の時代に生まれた僕らはそうした教育を受けてきました。こうした価値観は今では古いものとなりましたが、頭で理解していてもつい無意識のバイアスに囚われてしまうことがあります。

価値観の変革は、正論や理屈ではなかなか難しいところもあります。なぜなら、旧来の価値観はその時代においては「美徳」や望ましいあり方として刷り込まれ、目指されてされてきたものだからです。正義の反対は悪ではなく別の正義、というように、ここにある葛藤は、美徳と美徳の衝突なのです。

個人でもそうなのですから、企業など組織ではなおのこと難しくなります。なぜなら新しい取り組みは成果の証明が難しく、既存の方が強くなりがちだからです。その結果として変革が遅々として進まない様子は「イノベーションのジレンマ」に似ています。

イノベーションのジレンマ (: The Innovator's Dilemma)とは、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業経営の理論。クレイトン・クリステンセンが、1997年に初めて提唱した[1]
大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力なく映るだけでなく、カニバリズムによって既存の事業を破壊する可能性がある。また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに目を奪われ、顧客の別の需要に目が届かない。そのため、大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にある。その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。例えば高いカメラ技術を有していたが、自社のフィルムカメラが売れなくなることを危惧して、デジカメへの切り替えが遅れ、気付いた頃には手遅れになってしまっていたなどがある。

イノベーションが生まれづらい背景には、既存のビジネスモデルや組織とのコンフリクトがあるのです。既存の仕組みが強力であり、それなりに成果を上げているようにみえるうちは、(長期的にみれば衰退がみえていたとしても)変革よりも保守的になる。そして、「気付いた頃には手遅れ」になってしまうのです。


例えばシェアリングエコノミーが隆盛になってきても、「新品」の販売で大きな収益を上げている既存のアパレル企業は、レンタルなどのシェアリングや中古の市場には参入が難しい。なぜならその事業が既存の事業と「食い合う」ように見えるからです。その間に、しがらみがない新興のスタートアップが社会の変化を捉えて成長し、disruptされてしまう。


このジレンマは、ダイバーシティの推進においても類似しています。ジェンダーの問題やダイバーシティへの取り組みは、男性中心でつくられてきた既存仕組みや事業と衝突したりカニバるように思えます。しかし、企業が既存の仕組みの延命や足踏みをしているうちに、社会の変化に取り残され、「気付いた頃には手遅れ」になってしまうかもしれません。


盛者必衰、どんなに隆盛を極めた事業やプロダクトでもライフサイクルというものがあります。無限に伸び続ける既存事業はないので、新規事業の創出や変革が必要です。

ドラッカーはこのようにいっています。

イノベーションの戦略の第一歩は、古いもの、死につつあるもの、陳腐化したものを計画的かつ体系的に捨てることである。
イノベーションを行なう組織は、昨日を守るために時間と資源を使わない。昨日を捨ててこそ、資源、特に人材という貴重な資源を新しいもののために解放できる」

ドラッカー『マネジメント』

「イノベイティブな組織」を目指すのであれば、まさにイノベーションとしてダイバーシティのための大きな変革を英断しなければならないのではないでしょうか。


ジレンマを乗り越えるための新規事業の工夫

さて、すでに述べたように、ダイバーシティ推進には既存の価値観とのコンフリクトがあり、故に「イノベーションのジレンマ」によって阻害されるところがあります。

「イノベーションのジレンマ」は構造的な問題ですが、長く企業で新規事業をやってきた身からすると、多少攻略法もあります。

ダイバーシティ推進を「既存とコンフリクトしがちな新規事業」として考えると、それを進めるアプローチとして3つくらいポイントがあるかもしれません。

(1)小さく始める
一つのアプローチとして、小規模から始めるという手があります。
「イノベーションのジレンマ」では既存の側が大きな力を持っていますし、いきなり全社規模で導入しようとすると反対にもあいます。
みんなを説得するには「うまくいく証拠」を十分揃えることが求められるわけですが、新しいことは事前に証拠を出しきれないためそこで止まってしまいます。最初から大きく始めるのではなく、小さく試してみて、そこから起こった変化で徐々に説得していくしかありません。まずは少数の部門でやってみて、その変化を観察し共有することからはじめましょう。

一点ここで注意が必要なのは、「小さく始める」といっても「女性をまずは1割」みたいなことではありません。一部署であっても、大胆に「5対5」を担保する。そうしなければMVPでの実験にならないのです。


(2)顧客を再定義する
二つ目のポイントとして、顧客の定義を見直すことが挙げられます。

既存の顧客に固執すると、新しい価値を見誤ることがあるからです。例えば「夜の接待を減らしたら顧客が減るかも」というのではなく、「夜の接待はしません」と宣言することで、そういう会社とならぜひ仕事したい、という新たな顧客に出会えるかもしれません。しかし既存の顧客しかみていなければ永遠に新たな顧客とは出会えないのです。

(3)KPIと時間軸
そして三つ目に、KPIと時間軸を考慮することも重要です。
新規事業では売上などの遅行指標の成果はすぐには現れないこともあります。例えば、組織を変革することでポジティブな意見が増え社内が活発化したり、リモートワークなどの働く環境が柔軟になりそれが数年後には売上に寄与するかもしれないのですが、これを足元の売上だけで比べてしまうと「やっぱり元のやり方の方が効率的だ」と将来の目を摘んでしまいます。
新規事業の成功は時間がかかりますが、だからこそ事業のポートフォリオとして既存事業を補完することができることを忘れてはいけません。赤ちゃんとおじいちゃんを年収で比べても意味がないので、変化を測る際には時間軸を考慮して指標を適切に設定する必要があります。



今日はダイバーシティとイノベーションについて書きました。

最初に述べたように、「イノベーティブな組織」にはダイバーシティは欠かせません。しかしそのダイバーシティを推進することは「イノベーションのジレンマ」に陥り、遅々として進まないでいる。

本来、ダイバーシティの問題は人権の問題であり差別の撲滅は「こんないいことがあるよ」とわざわざメリットを示さずとも進めるべき、という意見もありますし、個人的にもそう思います。しかしそうした正論だけでは進まないのも事実です。

ダイバーシティが進まない理由が自社が「イノベーションのジレンマ」に陥っているからだと自覚できれば、本当にイノベーションを目指すならダイバーシティにまず本気で取り組まなければならないと気づくはずです。(ダイバーシティ推進室は価値観の変革に取り組んでいるという意味でイノベーション推進室なのです)


とはいえ、「イノベーションのジレンマ」は相当に手強いので、なかなか進まない時には、(1)まず小さく始めてみる、(2)顧客を再定義する、(3)KPIと時間軸を考える、といった企業で新規事業を推進するコツが活かせるかもしれません。

企業だけではなく、国全体がイノベーションのジレンマに陥っているようにみえる日本。ダイバーシティを進めることは日本を元気にするイノベーションなので、未来に向かってみんなで「イノベーションのジレンマ」を攻略していきましょう。

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