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資本とインターネットが後押しする「勝者総取り」

歌手テイラー・スウィフトの勢いがとどまるところを知らない。その経済効果はスウィフトノミクスと呼ばれ、2023年3-11月だけで、10億ドルのツアー興行収入があったという。これだけでエルトン・ジョンの18-23年興行収入9.3億ドルを上回るというのだから、スウィフトのBIGぶりが伺える。

今やスウィフト人気はグローバル規模で、幅広い世代に及ぶ。世間の注目は複数のビッグスターに適度に同時分散するよりも、メガスターただひとりに収れんする「勝者総取り」現象が顕著だ。もちろん多様な嗜好(しこう)に合ったニッチな世界も同時に存在するので、出来上がりとしては、ひとりの圧倒的な勝者と、無数の小粒プレーヤーで支えられたロングテールが共存する。

実は、この構造はビジネスの世界でも見られる。例えば、メディアの世界では地方紙がすっかり力を無くしてしまった。辛うじて存続する場合でも、取材力のある全国紙のコンテンツを借りなくてはやっていけない。

知り合いの米国人ジャーナリストは、長く独立系中堅新聞に勤めていたものの、デジタル配信でも勢いのある中央紙に3倍もの報酬で勧誘され、結局転職してしまった。全国の読者がローカルな特色のある複数の中堅紙に分散した時代は終わり、記者の粋を集めた全国紙に収れんしているのだ。

では、なぜこのような「勝者総取り」が顕著になったのか?まず、資本の論理が強まっていることが考えられる。音楽興行でも新聞社でも、大きな資本力は聴衆を圧倒するショーを作ったり、優秀な記者を集めて高品質な記事を作ったりすることができる。その成功はまた資本力の増強へ還元され、正のサイクルが繰り返される。

そのサイクルを早回しするのがインターネットの拡散力だろう。アナログの世界では、情報の拡散力はほどほどに遅かった。物性物理で例えれば、絶縁体(例えば木のブロック)では熱や電気が伝わりにくいのに似ている。一方、ソーシャルメディアの時代には、メガスターへの熱狂に対して、瞬時に乗数効果の拍車がかかる。金属に代表される導体をイメージすると分かりやすい;1カ所に加える熱や電気がすぐに遠くまで伝わるのだ。

そもそもインターネットは、弱小プレーヤーにも巨人に劣らないマーケティング力を提供するため、ブランドや娯楽の民主化を起こすと予想されていた。数限りないニッチが支えるロングテールに注目すれば、その予想はある程度正しい。しかし、それを上回るような勢いで、たったひとり、または一社へ大きなパワーが集中していることも確かだ。

では、唯一無二のメガパワーとその他大勢という構図は、多様性を担保しているのだろうか?それとも、大多数の人が複数の中堅スターを知っていたり、ユニークな地方紙が群雄割拠したりする方が真に意味のある多様性なのだろうか?その答えは多様性に何を求めるかによるだろう。その間、資本とインターネットが支える「勝者総取り」に衰える兆しはない。

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