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実質賃金低迷の主因は低労働生産性の誤解

小売りや外食、賃上げ前倒し ビックカメラは12月から - 日本経済新聞

日本の実質賃金の上昇が海外に比べて大幅に遅れています。

そこで、日・米・ユーロ圏の一人当たり実質賃金の変動率を労働分配率、労働生産性、交易条件、労働時間に分解すると、一般的に実質賃金低迷の主因と言われている労働生産性は米国ほどではないものの、ユーロ圏よりは高くなっています。

対して、労働分配率の要因については、米国と日本が同程度の押し下げ要因になっている一方で、ユーロ圏については押し上げ要因となっています。そして交易条件に至っては、食料やエネルギーの国内供給力が高い米国がプラスに作用している一方で、ユーロ圏は小幅マイナスとなっています。こうした中、一次産品の国内自給率が低い日本に至っては交易条件が大幅な実質賃金の押し下げ要因となってきた中で、労働時間が最大の一人当たり実質賃金押し下げ要因となっています。

良いインフレを定着させるために、最も手っ取り早い取り組みとしては、労働時間のマイナス寄与を縮小させるべく、行き過ぎた労働時間規制の緩和が効果的でしょう。また、米国に劣後する労働生産性の引き上げに関しては、世界で誘致合戦となっている戦略分野への投資拡大に加え、国内の立地競争力向上につながる税制優遇や国内供給を担う人材育成も重要でしょう。生成AI全盛の時代になり、ホワイトカラー人材の需要が減る一方で、手に職系人材の需要が増えることに対応すべく、経常黒字のほとんどを貿易黒字で稼ぐドイツのマイスター制度等も参考にしながら、若いうちから手に職系人材の育成を進め、そうした人材が稼げる経済構造を構築することが不可欠です。

交易条件のマイナス寄与を縮小させるには、原発も含めた電力供給力向上などに向けた取り組みも重要でしょう。また、労働市場の流動性が低いことで経営側の人材流出に対する危機感が薄いことが労働分配率の引き下げに作用していることからすれば、政府は赤字企業が約三分の二を占める企業に対する賃上げ優遇税制よりも、中途採用を積極的にした企業や転職者に対する優遇税制のほうが効果的かもしれません。

非正規労働者が年収の壁を意識せずに働く環境を整備するには、年収の壁をなくすことも望まれます。日本では非正規労働者の半分以上が都合のいい時間に働ける等として望んで非正規となっています。すでに民間では週休4日制など、より都合のいい時間に働ける正社員の枠も増えてきていることからすれば、官民ともより広く、都合のいい時間に働ける正社員の枠を増やすべきでしょう。

日本の実質賃金が長期停滞してきた一因にはバブル崩壊後の政府の経済政策の失敗もあります。それによって歪められてしまった価値観を、様々な側面から解凍していくことができれば、日本の実質賃金が安定的にプラスで推移するチャンスは大いにあるといえるでしょう。


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