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メタバースに簡単に没入してはいけない理由

フェイスブックは、1兆1千億円の投資を行い、メタバースを事業の主軸としていく方針を強く打ち出し、社名を「メタ」へと変更しました。

『メタバース』とは、ニール・スティーヴンスンが1992年に発表したSF小説「スノウ・クラッシュ」で描いたインターネット上の仮想世界です。この小説は、気候変動、社会的分裂、深刻な経済的不平等、略奪的な企業独占によるディストピアの未来を舞台としており多分に現代的でもあります。

そのメタバースは、既に現実のもとのなっており、代表例は仮想世界で心置きなく戦闘を繰り広げられる「フォートナイト」です。魅力的な世界観と洗練されたユーザインタフェースは、多くのゲーマーの心を捉え、登録ユーザ数は3億人を超え、毎日数千万人のユーザが没頭して楽しんでいます。

開発元であるEpic Gamesの時価総額は2021年4月に3兆円を超えるまでに成長しています。

VR技術の向上、リモートワークの増加、炭素ガス排出制限による移動の削減推奨など、社会全体としてメタバースを推進する準備が進んでいます。

しかし、メタバースが普及した社会が、人類の幸福につながるのかで考えると、むしろ不幸を量産するリスクも内包しています。

「利益 > 倫理」の行きつく先

SNSにおいてユーザの利用拡大を追求してきたフェイスブックは、これまでに世界中の憎悪を増幅させてきた実績があります。

「ログイン、いいね、クリック、コメント、シェア」の数を増やすためには、ユーザの怒りや憎しみの感情を刺激するコンテンツが最適であることがわかっています。

インドではフェイスブックが増幅したヘイト情報が社会問題を引き起こしています。

利用拡大に向けた貪欲なアルゴリズムに、利用者のデータとエネルギーが収集されて収益化されています。

メタバースを運営する企業は、SNSと同様、ユーザを長期的に滞在させ、サービス利用料や広告などで、収益を得ることを目指します。

利用者数が運営するメタバースの価値と直結するため、利用者獲得の競争が激化していき、一部の覇者がインフラを寡占するはずです。

インフラ化したメタバースは現実世界よりも心地よく、物理的な制約からこれまでは実現できなかったクリエイティブな体験が次々と創出されていき、利用者はSNSよりもさらにマインドシェアも時間も、多くを費やしていくと想定されます。

しかし、メタバースはバラ色な未来だとは簡単に言い切れません。未来技術評論家のパリ・マークス氏は、メタバースを「人間をお金に変換する管理システムである」と警笛を鳴らしています。

フェイスブックのこれまでの歴史を振り返ると、利益重視の飽くなき成長の追求が、経営の原理にあることが読み取れます。

スノウ・クラッシュは、テクノロジーが間違った方向に進んだディストピア的な未来への警告でもあります。短絡的に、なんだか面白そうだと、メタバースに没入していって良いはずがありません。

これから、子どもたちが担っていく未来の社会はどうあるべきなのか、明確なビジョンを構築し、守るべき一線をしっかりと定義しておくことが先決です。

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