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運命の臨時首脳会議を前に【5分でわかるブレグジットの現状】

依然、混迷を深めるブレグジット
 4月10日、EUは臨時首脳会議を開催します。英国からは6月末までの短期の再延期を求める書簡が公表されていますが、EUが再延期を承認するためには相応の理由が必要となります。言い換えれば、「6月末までの時間で必ず英議会の意見をまとめられる」という勝算が必要と思われます。しかし、残念ながらそのような勝算は立っていません。現状のところ、英議会が離脱協定案を可決しない限り、英国のEU残留は「4月12日」で切られる決まりです。このままいけばそうなりそうなのですが、EU大統領が12か月延長案を模索しているという報道もあります。この期に及んでも現状把握すら難しくなっているのは異常ですが、臨時首脳会議に臨む前にQ&A方式で整理をしておきたいと思います。やはり論点整理はQ&A方式が合っています。

Q1.今はどういう状況なのか?
当初の離脱予定日(3月29日)は4月12日に延期されました。再延期には英国を除く27か国の同意が必要な情勢です。なお、昨年12月、欧州司法裁判所が「英国は一方的にEU離脱の意向の通知を取り消すことができる」との見解を示し話題となりましたが、これはあくまで「3月29日の前ならば」の話です。今後はEUとの話し合いの末、同意が必要になります。しかし、既に欧州委員会からは「忍耐の限界(7日、ユンケル委員長)」とのコメントが出ており、フランスなど一部加盟国からはもう待つ必要はないという強硬な意見も出ています。既報の通り、今週10日の臨時EU首脳会議でトゥスクEU大統領から加盟国に対して12か月間の延期案が提案されると報じられていますが、先週5日にはメイ英首相からトゥスク大統領に宛てて、6月30日までの短期延期を要請する書簡が送付されています。
 要するに、EUの立場が「ノーディールか、長期(12か月)延期ならば検討に値する」であるのに対し、メイ政権は「短期的な延期を認めて欲しい」という球を投げた状況です。最後の最後まで両者のズレは鮮明です

Q2.メイ首相は与野党協議をしているというが、何故か?
つまり、メイ首相は与党を見限ったということでしょう。4月2日、メイ首相は約7時間に及んだ閣議の終了後に声明を発表、ノーディール離脱を回避するため与野党間で合意可能な離脱案を模索する方針を打ち出しました。これまでメイ首相は様々なアプローチを試行しつつ、強硬離脱派や民主統一党(DUP)の説得を試みてきました。しかし、議会における離脱協定案の否決はもう3度に及んでいます。解散総選挙、再国民投票、残留、ノーディールなど、大きなカードをちらつかせつつ説得しようにも与党を説得できそうにないとメイ首相は判断したのでしょう。しかし、既に労働党からは「政府に譲歩の意思がみられない」などと早速交渉が難渋している様子が伝わってきています。身内(保守党)を捨てて敵にすがりついたが、その敵からもやはり見放されたということであれば最悪の展開です。メイ首相は今年12月までは党内の不信任動議の対象にはなりませんが(昨年12月に否決されており1年は同様の措置は不可能であるため)、閣僚の大量辞任などで政権運営が立ち行かなくなる可能性はあるでしょう。今後は「身内を刺した代償」もメイ首相の身に降りかかる恐れがあります。どのような形にせよ、離脱期限の再延長を認めてもらうために英国政府は4月10日の臨時EU首脳会議に「英議会で承認した離脱協定案」を持ち込まねばなりません。仲間割れをしている内に時間は刻一刻と迫っています。

Q3.4月10日に議論されること、承認されそうなこと
今回の臨時首脳会議のテーブルに乗ってきそうな案は①ノーディール、②12か月延期<EU案>、③6月30日まで延期<英国案>、そして、元々定めていた④(欧州議会選挙前日の)5月22日まで延期という4つの選択肢です。③は明らかにメイ政権が議会をまとめられずに持ち出してきた「見切り発車」のカードである。フランスやオランダの高官からは既に苦言が報じられており、全加盟国の承認というハードルは相応に高そうに見えます。だからといって、①を望む国が多い訳ではなく、英・EUともにそれだけは避けたいという基本方針は変わっていないでしょう。
 筋を通すのであれば、④のスケジュール通りに離脱協定案の内容に沿って粛々と離脱、もしくはノーディールで離脱とすべきです。しかし、5月22日まで待ってもらえるケースはあくまで「英議会が離脱協定案を議会で可決した場合」の条件付きですから、今の英国政府にこれを希望する権利はありません。ちなみに、英国が欧州議会選挙に参加をする場合、その6週間前までに通知する必要があります。5月22日の6週間前こそが「4月12日」であり、EUが設定した実質的な交渉期限です。
 とすると、②の可能性が残ります。交渉上、強い立場にいるEU(の大統領)がこれを望んでいるのだとすれば、有力な選択肢と言わざるを得ません。厳密には同案は12か月「以内」という解釈が正しそうです。具体的には「英議会が離脱協定案を可決次第、離脱させる」という案であり、英議会内の強硬離脱派にも配慮した折衷案と言えます。
 しかし、最大1年間、EUも金融市場も、まだこの話題に付き合わねばならないというのは気が滅入る話でもあります。ユーロ圏財務省や共通予算といった大型改革を提案し、これを主導したい立場にあるマクロン大統領などはこの状況が我慢ならないようです。マクロン大統領の場合、自身の支持率が青息吐息なので「出来る時にやりたい」という思いが殊更強いこともあるでしょう。しかし、いつまでもこれから出て行く国に時間とコストを掛け続けるのが得策ではないのは間違いありません。

Q4.12か月延期の場合、欧州議会選挙は?
 仮にEUが主張する12か月延期案が通った場合、英国が5月23~26日の欧州議会選挙に参加するか否かという問題が出てきます。メイ政権も「事態を打開できなかった場合には、議会選挙の準備に責任を持つ」と参加止む無しの雰囲気を滲ませ始めています。しかし、いずれ離脱すると分かっている加盟国を欧州議会選挙に参加させること自体、EUとしては「負けに等しい譲歩」ではないでしょうか。少なくとも欧州議会選挙後に行政府たる欧州委員会の執行部が一新される際、英国人の候補者が選ばれることは無いであろうし、次期中期予算(2021~27年)の策定議論にも関与を認めるわけにはいかないでしょう。そう考えると、こんなに無駄なことはありません。5月22日をまたいでも、何からの規則修正によって参加させないことも考えられるでしょう。

Q5.残留した場合の英国の扱いは?
厄介なことは、交渉が伸びるほど「再国民投票および残留」という選択肢も浮上してくるということです。しかし、仮に残留となったとしても、かつて英国だけが有していた特権はもはや認められない可能性が高いでしょう。例えば、有名なところでは英国はEU予算からの払戻金(いわゆるリベート)を受け取れるという特権を有していました。それ以外にもパスポートコントロールを解除するシェンゲン協定への不参加、新財政協定への署名拒否、銀行同盟への不参加など、独自路線を歩んできたことは周知の通りです。それらの特別扱いを蹴って尚、離脱を選び、これだけ事態の混乱を招いたわけですから、従前のような扱いを当然視することは厚かまし過ぎるでしょう。
 もちろん、短期的な経済効果を踏まえれば残留は離脱よりもポジティブとの試算が目立ちます。恐らくそうなのでしょう。しかし、残留しても以前のような政治・外交上の発言力は期待できないと思います。一部加盟国が「ノーディールでも構わない」と公言し始めている現状は、もはやEUにおける英国の政治資源が枯渇し始めている証左かと思います

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唐鎌大輔(みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト)

04年慶大経卒。JETRO、日本経済研究センター、欧州委員会(EU本部)などを経て08年10月より現職。著書に『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』、『ECB 欧州中央銀行: 組織、戦略から銀行監督まで』。所属学会:日本EU学会。※コメントは個人的見解であり所属組織とは無関係です

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