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解雇等の有効要件の不明確さのリスクは誰が負っているのか

今年、配置転換違法の判例が出されており、会社の従業員に対する人事権の限界というテーマの重要性は、今後より一層重要となってくると思われます(実はこの点に関する本を出しているので、少し古くなっていますが、お読みいただけると嬉しいです。)。

労働契約法の経緯と現状

さて、こうした配置転換、出向、解雇等の有効性を定めているのは、労働契約法です。

ただ、労働契約法は、会社と従業員間で問題になる人事上の問題について、全てが記載されているわけではなく、また、規定されているものについても、抽象的な定めにとどまっているのが、現状です。

実は、労働契約法を作るときに行われた研究会の報告書では、極めて多岐にわたる人事管理上の諸問題について触れられています。

しかし、立法の過程で、ごっそりと内容が削られ、今の形になっています。雑則を除くと、わずか19条のみの法律です。

「要件を明確にすべきでない」という議論

労働契約法、特に解雇の有効性に関して、しばしば労働側から主張されるものとして、「法律に条文を書いたり、要件を欠くと、解雇が多発する」というようなものです。

それはそれで、確かに、「要件を満たしているから解雇しよう」となるので、一理あるといえばあるのでしょう(ただ、その当否は「要件」の定め方によってくるとは思いますが)。

結局のところ、解雇権濫用の問題でいえば、客観的合理的理由・社会的相当性という抽象的な要件が設定され、訴訟の中では会社に重い立証の負担が課せられているのも事実です。

実際のアクションから考える不明確性のリスクの所在

上記のように考えると、解雇の問題でいえば、使用者側は、重い立証の負担を課せられた中で、抽象的概念の主張立証をしなければならず、確かに使用者側にとってリスクがあるように思います。

ただ、じゃあ労働者にとってハッピーかというと、そうでもないでしょう。

考えなければならないのは、「どちらが訴訟(労働審判含む)を起こすか」という点です。

すなわち、会社が解雇や、降格、配置転換等々の人事権を行使した場合、労働者側から解雇無効などの訴訟を提起することになります。
つまり、会社が何らかのアクションを取った時点において、次のアクションのボールは労働者側に投げられることになります。

そうなると、訴訟をすべきか否かの判断をする場面では、会社の解雇が有効かどうかの不明確性のリスクは、労働者側に来ることになります。

つまり、確かに訴訟が始まれば、会社が重たい立証責任を負うことが多いですが、訴訟が始まる前の段階では、現実的な問題として、労働者側が「勝つかどうかの見込みがはっきりしない」という状況で弁護士費用、訴訟費用をかけてアクションをとらなければらないことになるのです。

やはり要件の明確化は必要ではないか

私は、基本的に会社からの相談を受けることが多く、労働者側の労働案件を多く扱っていませんが、数少ない労働者側の案件を受任した時には、この点はやはりリスクに感じました(労働者側の経験豊富な先生にとってはそうではないのかもしれませんが)。

解雇等の人事権行使の有効要件が明確でないことのリスクは、立証責任云々の抽象論だけでなく、現実的な問題を考えると、必ずしも使用者が負っているのではなく、実際には双方が負っているとみることができます。

そう考えると、やはり解雇をはじめとした人事権の行使の有効性については、要件の(緩和ではなくとも)明確化はなすべきであろうと思います。

この点については、以下の記事でも色々かいていますので、併せて読んでいただけると嬉しいです。






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