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三十路を過ぎてからはじまる「好きなものへの恩返し活動」

2020年。こないだまで新卒ホヤホヤかと思っていたら、気付けばもうすぐ社会人生活も10年目目前。マジか……😱
時間が過ぎ去る体感が年々早くなっていく事実、そして徐々に失っていく体力と感受性にビビる日々ですが、しみじみと嬉しいこともあります。

だいたい27歳ぐらいから兆候が出ることもあるのですが、三十路すぎるぐらいになると不思議と自分が10代や20代に好きだったものや憧れていたものと公的に関わったり、相手から依頼されて協力できる機会が増えてくる

これは結構あるあるのようで、社会人生活の先輩方から共感のコメントを多数いただきました。

日経COMEMOキーオピニオンリーダー仲間で「アート思考」のエバンジェリストである若宮さんも。

「こういうものが自分は大好きだけど、そっちの才能がないから自分にはできないな」と諦める人は多いと思うのですが(私もそうだった)
そうやって諦めた先の迂回ルートで頑張っているうちに培ってきたスキルや人脈、経験値といったものが熟成され、かつて自分が好きだったものに自分なりに貢献ができるようになるのが30代ぐらいからなんだろうなと思っています。

昨年に、尊敬するメディアアーティストの八谷和彦さんに取材をさせていただいたのですが、そこで出てきたお話もとても興味深いものでした。

"作家の個性は作品が数点揃うことでようやく外部から理解される。少なくとも3作品はないと作家性がわかりにくいと僕は思っています。絵画や彫刻に比べるとメディアアートは制作期間が長くなりがちだから、数点出来上がるのがだいたい30歳前後。それまでやってきたことが理解されて、「あの人は面白い」と目立ってくる時期なんです。そこで「今度、あの人にこういう企画をお願いしてみよう」という依頼が舞い込んできたり、自分から企画を持ち込んだ時に担当者が自分の作品のファンだったりして、企画を通しやすくなる年齢なんだと思います。"
"僕もPostPetをつくったのはちょうど30歳でした。会社員時代のことを市原さんがどう思っているかはわからないけど、そこで得たものや経験は絶対にあるはずなんです。それとアーティストとしてやってきたことがちょうどいいバランスでミックスされて、味のしみた煮物やカレーになる頃なんですよ。"

業界の大先輩から「30代になると同世代がいろんな業界で力を持ってくるから、友達と協業できたり、仕事するのが楽しくなるよ」と教えていただいたことも(実際そうだと思う)。

日本社会だと年をとることへのプレッシャーや、ネガティブな観念が結構強いですが(特に女性はそう)、こういう「経年変化が生み出すギフト」や「過去の自分へのプレゼント」みたいな事案も増えてくるので、歳取るのもわるくないなと感じます。

ただ、こういう幸せな人生の偶然や伏線の回収を起こしやすくするために、こちらも予め仕込んでおく必要があるなと思っており、嬉しいご縁を意識的に引き寄せるコツについても書いておきます。

好きなものや感動したものは公言する/なるべく感想を伝える

何かしらの作品に感動したらなるべくSNSなどで公言したり、ご本人にメッセージで伝えるようにするとひょんなことからご縁が繋がったりします。

現代だとエゴサーチをしている人も多く、自分たちが頑張って生み出したものに好意的な反応をしてくれている人を発見すると本当に励みになるし嬉しいし、さらにその人自身もクリエイター(に限らないですが何かしら仕事で重なる部分があれば)だったら、どんな作品を作ってる人なのかな?どんな仕事してるのかな?と調べてれたりするからです。そしてご縁が生まれることも多数あります。

就職活動をしていた学生時代は、志望理由として「御社の製品が好きなので」はクソほども差別化にならない禁句とされていたのですが、自分が社会でバリバリ働くようになって実力がついてからの「御社の製品が好き」は結構重要なファクターに化けるんだなと実感しています。
私も仕事をご依頼することもありますが、「同じ実力ならせっかくだからこのテーマや作品に思い入れを深く持ってくれそうな人に頼みたい」ということは全然あるからです。断られにくそうだし、詳細にレクチャーしなくてもすでにその分野に前知識がありそうで話が早いし。

そういえば友人である人気占い師のアイビー茜さんは自粛中に「あつまれ!どうぶつの森」にハマっていることをSNSで公言していたら、早速あつ森のワールド内での占い鑑定イベントのお仕事依頼がやってきたそうで、これも好事例だなと思います。

※ただ、過去に公的に褒めていたクリエイターが不祥事を起こした際に「あいつはあれを褒めていた!同類だ!けしからん!」と飛び火をくらうリスクはあるので、人はよく見たほうが良い

「何の役に立つのかがわからないもの」ほど後から役に立つ謎現象を理解する

最近、京都精華大でゲスト講師として最終課題の講評に参加させていただいた際に「いま勉強していることが、今後の進路にどう役に立つのでしょうか」という質問が学生さんからあったのが印象に残っています。実戦型の美大の授業ですらそういう疑問が生まれてくるのかと(文化構想学部という謎の学部で、それこそ何の役にたつのかよくわからない勉強をしており、美大とかもっと直接仕事に役立つところで学びたいな……と思っていた自分としては驚きだった)

自分も学生時代に「こんなこと勉強して何になるんだろう」と疑問に思うようなことを勉強していたのですが(社会学とか文化人類学とか、いわゆる"実学"でないジャンル)、意外とそういった内容の方が長きにわたり自分の活動の助けや軸になっているし、時代が変わっても陳腐化しにくいなと感じています。

パッと見ですぐに役立ちそうなことはどうせ社会に出てから強制的に実戦で学ぶことになるし、またそれを学習し身につけている母数も多かったりするので、たいした差別化にならなかったりします。

「自分しか好きじゃないのでは?」と他の人から見向きもされないようなニッチな好きなことがあれば、何の役に立つのかわからなくても突き詰めていくと、人生という長期戦のどこかで突然「あっ、これ進研ゼミで出た!」みたいな感じで活かされることがあります。熱狂できることがあればハマれるうちにハマっておくのがおすすめです。

🎁 🎁 🎁

社会人生活の中盤からやってくるボーナス現象について、今日はお話してみました。「歳とるのやだなあ、憂鬱だなあ」と思っている方も多いと思いますが、こういういいこともあるのでどうか生き延びてください。

ただ身の回りの事例に偏っていてサンプルの母数がまだ少ないので、「あるある、自分の場合は……」みたいな事案がありましたらぜひ教えてください!

(さっそく東京大学の山中俊治先生が #好きなものへの恩返し活動 タグで事例をくださっていた…!!)


文:市原えつこ
メディアアーティスト、妄想インベンター。早稲田大学文化構想学部卒業。Yahoo! JAPANでデザイナーとして勤務後、2016年に独立。「デジタル・シャーマニズム」をテーマに、日本的な文化・習慣・信仰を独自の観点で読み解き、テクノロジーを用いて新しい切り口を示す作品を制作する。アートの文脈を知らない人も広く楽しめる作品性と、日本文化に対する独特のデザインから、国内外から招聘され世界中の多様なメディアに取り上げられている。第20回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞、アルスエレクトロニカInteractive Art+部門 栄誉賞、EU(ヨーロッパ連合)による科学芸術賞STARTS PRIZEノミネートほか受賞多数。
http://etsuko-ichihara.com/

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市原えつこ(アーティスト)
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