見出し画像

「やりたい!」を大事にする。

いつの間にか、日本の職場は元気が無くなっている。アメリカの調査会社・ギャラップ社が2017年に行った「働く人の仕事に対する熱意」、つまりエンゲージメントに関わる調査では、139か国中、日本はなんと132位だ。エンゲージメントが高い従業員は、平均で全体の6%、それ以外の従業員は70%がやる気がなく、24%が周囲に不満をまき散らしているという。最近の調査でも同様の結果が出ている。はたまた困ったものだ。

キーワードは「おもしろおかしく」。何十年も前から、社員が楽しく働けるようにすることにこだわった経営者がいる。計測器・分析器の大手である堀場製作所の堀場雅夫さんだ。「仕事いうものは本来苦痛ではない、楽しいものである。そして、仕事を楽しむと人間の潜在能力が引き出される」というのが堀場さんの哲学だ。2000年頃までは、「おもしろおかしく」など、周囲に全く理解されず、異端扱いされていたようだが、今またその経営手法が注目されている。

堀場さんは、社員の賃金総額は会社が付けた付加価値の60%以上というルールを設け、社員が創意工夫して利益を最大化する仕掛けを作った。また、人事評価からはネガティブな評価をなくしたという。「失敗で評価は下げない、挑戦で評価を上げる」を徹底したのだ。経済学者の伊藤さんは、「ワーカーは仕事をこなす人、プレーヤーは仕事を楽しんで創造性を発揮する人」と定義づけるが、堀場さんは社内をプレーヤーで埋め尽くそうとしていたのだと思う。

クレディセゾンで活躍された武田雅子さんは、カルビーに転職され、様々な取り組みを進めている。キーワードは「全員活躍」だ。武田さんの「活躍」の定義は、「横並びで競争して勝つこと」ではなく、「全員が自分の強みや資質を活かし、チームに貢献して認められる喜びを味わうこと」だ。互いの得意な部分を生かして、それらの組み合わせで大きな力を生み出そうという訳だ。武田さんは「少し元気がない人がいたとしても、ちょっとしたきっかけでフル稼働し始める姿を何度も見てきた」と話す。

カルビーは、2020年から「カルビー・ニュー・ワークスタイル」の導入と実践に取り組んでいるが、その中でも力を入れているのが、社外の人との交流だ。専門性を持った外部の人が副業としてカルビーで「ちょびっと」働く「カルビっとワーカー」という仕組みを作った。自らの得意技を持ってカルビーの門を叩く人が現れ、日常の現場で新たな刺激になっているようだ。もちろん、カルビーの社員も副業は可能で、自分の得意技を携え、他流試合に挑戦できる。さらに、外部の専門家を招く勉強会「カルビーラーニングカフェ」もあり、従業員は、マインドフルネスやオーセンティック・リーダーシップ、幸福学等、多岐に渡るメニューを楽しめる。

妄想と熱意を重視した商品開発を実践している会社もある。「ロボティクスで、世界をユカイに」をビジョンに掲げて、青木俊介さんが2007年に創業したユカイ工学だ。代表的な商品には、撫でるとしっぽを振る不思議なロボット「Qoobo」がある。既に3万4000台も販売され、SNSではまさにペットのように愛でる投稿が続出しているという。CES 2022では、社員の妄想から開発が始まった「甘噛みハムハム」という「指を差し出すと、柔らかく繰り返し挟んでくるロボット」を展示して話題を集めている。

この会社がユニークなところは、いわゆる商品企画部と呼ばれる組織がなく、新商品の企画・開発担当もいないことだ。その一方、「社内メイカソン」という「誰もが企画者になれる」仕組みがある。年1回開催され、デザイナー、営業担当、販売担当、経理などスタッフ全員が参加する。4~5人ずつのチームに分け、2~3カ月掛けてアイデア出しからプロトタイプづくりまで全員で行う。最後には合宿でプレゼンをして今後の展開が決定するという。全員でつくり、熱意を重視して、妄想や願望を大事にする。ユカイ工業の「やりたい!」は止まらなそうだ。

山下埠頭で「動くガンダム」を実現したガンプラ愛に溢れたエンジニアがいる。「動くガンダム」プロジェクトのテクニカルディレクターの石井啓範さんだ。ロボット開発への興味は、ジオン軍の「ドム」の重厚な造形に惹かれたのが最初だった。前職の日立建機では「双腕のショベルカー」、別名「ガンダム建機」の開発に携わっていた。そんな時、「動くガンダム」プロジェクトに加わらないかという誘いがあった。葛藤の日々が続いた後、家族の応援もあり、長年勤めた大企業を飛び出し、プロジェクトに参画した。

「実物大のガンダムを動かすハードルは高かったが、思いを共にする各分野の専門家らと膝を突き合わせ、目標にまい進する日々は、何物にも代え難い喜びに満ちていた」と石井さんは話す。どこかで夢の実現を諦めてしまう人が多い中、石井さんの熱量は消えるどころが、増幅していった。石井さんは、自らの得意技を磨けば、専門技術を極めていけば、どんな境遇でも生きていけると信じているのだ。「安定を目指すのではなく、不安定こそが前提。専門性を磨くことが夢への近道」という石井さんの言葉には私自身も大きな勇気をもらうことができた。

誰もが必ず得意技を持っている。それを活かす中で磨いて、磨きながら活かす。今の世の中、副業もある。オープンイノベーションもある。自分の得意技をたくさんの人に向けて発信する術もいくらでもある。大きな組織に属して、ブランドを活用してもいい。大きな組織から飛び出してたくさんの仲間と何かを成し遂げてもいい。今の世の中、何十年も前に比べると、よっぽどチャンスに溢れていると思う。至る所で仲間が待っている。自らの「やりたい!」を携えて、日本の未来を切り開いて欲しいと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?