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今年5月、米国がユニクロのシャツの輸入を差し止めたことがニュースになりました。新疆ウイグル自治区での強制労働によって生産された綿花を使っている可能性を指摘され、ユニクロは反論の手続きを取ったものの証拠不十分という判断でした。

その動きに続いて今度は太陽電池企業に対して、制裁を発動したというニュースです。

実は結晶系の太陽電池の製造には「ポリシリコン」という物質が必要なのですが、その世界供給量の3割から約半分は新疆ウイグルから供給されており、ユニクロのニュースが流れたときに、早晩太陽電池にもこの問題が波及することは予想されたことでした。

おつきあいのある太陽電池関連企業の方に伺うと、日本の顧客からもぽろぽろと「ウイグル以外の原材料を使ったパネルがほしい」との要望が出始めているそうですが、現状ではどこの会社さんも「対応できません」という回答になっているとか。

日本では2030年(あと9年!)に13年比で46%の温室効果ガス削減という途方もなく高い目標を掲げています。再エネの導入だけで何とかなるものではありませんが、最大限再エネを導入しなければならないのも事実で、あと9年という時間軸だとそのほとんどは太陽光発電になります。風力発電や地熱発電は事業化に8~10年程度は必要だからです。
そうなるとどれだけ安価で潤沢な太陽電池を確保するかが重要なので、この問題の影響は実は非常に大きくなる可能性があります。

しかしながら、同じく米国もバイデン大統領がパリ協定への復帰を宣言し、2030年には05年比で50~52%という高い目標を掲げたにもかかわらず、なぜこうした方針を発表したのでしょうか?
実は、バイデン大統領は、オバマ政権時代のグリーンニューディール政策が、雇用創出という観点で失敗とみなされ、共和党に批判される隙を与えたことに非常によく学んでいます。確かにオバマさんが視察に訪れたファースト・ソーラーという太陽電池メーカーは国際競争に敗れて、その後破綻するなど、「グリーンへの投資で雇用を確保し、経済成長する」という目論見はほとんど達成されなかったことは確かでしょう。

こうした痛い経験から、バイデン政権の掲げるグリーンリカバリーはmade in U.S.を使うというのが徹底されています。
ただ、それをあまりにやると「環境の名を借りた保護主義」と言われてしまうので、このウイグルの件は格好の材料と捉えた可能性もあるかもしれません。ただ強制労働を伴うような製品を使うべきでないことは論を俟たないのであり、(強制労働が事実であるならばですが)当然とるべき措置ともいえます。

こうしたSDGsとエネルギー転換の相克は今後も様々起こり得るでしょう。

具体的な課題の一つとして、クリーンエネルギーへの転換には、銅やリチウム、ニッケル、コバルトなどの鉱物を大量に必要とすることが、今年5月にIEAから公表された「The Role of Critical Minerals in Clean Energy Transitions」でも指摘されています。2050年ネットゼロシナリオを達成しようとすれば、電気自動車や蓄電池の製造に必要なリチウムは2040年までに現在の40倍にもなることなど、資源がボトルネックになる可能性のあることが指摘されています。希少な資源ではありませんが銅資源の課題を指摘する方もいます。銅は電気伝導率が高い物質なので、電力関連では必須の物質ですが、銅鉱山の開発には10年単位の時間がかかるので、2030年のエネルギー転換に間に合う物量を確保できないことは今からわかっている、という声も聴きます。

こうした鉱物資源の開発は自然環境への影響や一部の国や地域に資源が集中しているケースや人権の点で問題のあるケースも少なくありません。一人も取り残さないことがSDGsの精神であるならば、「気候変動一神教」に陥ることなく、こうした課題にも向き合っていかねばならないということを、改めて感じたニュースでした。

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