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幸せなリモートワークのための第1箇条=多様な人と人の組合せで会話を行なう


 組織とは人と人がつながるネットワークです。ところが、ともすれば人による「つながりの格差」ができやすいのです。

 組織図をこのネットワークとして見てみましょう。組織図では、リーダーの下に、メンバー(部下)が繋がっている構造です。すなわちリーダーだけが、つながりを独占し、メンバーは上司以外とはつながりをもたないのが基本です。

 上記の「つながりの格差」とは、特定の人が、独占的に多くの人と繋がっていて、他の多くの人は少数の人とだけ会話をする(=つながっている)状態を言います。組織図に沿って仕事をすると、リーダーが、沢山の人とつながり、他の人は、つながりが少ない構造になりがちなのです。

 我々が過去14年に渡りウエアラブルセンサで収集した大量のデータから、この人の繋がりの重要な影響が明らかになっています。
 このような「つながりの格差」のある組織では、メンバーのハピネスが低く、生産性も低いことがデータで示されているのです。

 このようなつながりの格差のある組織では、「情報の格差」が生じます。つながりの少ない人は、つながりが少ないゆえに全体の情報をあまりもっていません。このために、確認したいこと、質問したいことが頻繁に生じます。
 そして、つながりの少ない人が、少ないながらつながっている先は、上司です。ところが上司とは、上下の関係であり、常に評価される関係でもあります。このため、確認や質問を行うのは「そんなことも知らないのか」「それくらい自分で考えろよ」という低い評価を得るリスクが常にあります。そこで、リスクを避けるために、確認や質問をしないという選択をしがちなのです。

 そして、このリスクを避けるための選択は、生産性を低下させ、事故の危険性を高めるのです。このような組織に共通に見られる傾向を「心理的安全性」(Psychological Safety)が低い状態と経営学では呼ばれます。その結果生じる生産性の低い状態を経営学では「集合的知性」(Collective Intelligence)の低い状態と呼びます。

 リモートワークでは、顔が見えないために、ますます、このリスクが高く感じられます。したがって、常に「心理的安全性」が低く、「集合的知性」が低い状態になりがちなのです。
 だから意識して、これを越えていく必要があります。

 心理的安全性と集合的知性を高めるには、多様な組合せで、人と人との繋がり(会話)をつくる必要があります。

 その結果、この繋がりには特徴的な形が現れます。それが「三角形」です。

 組織図を思い浮かべて下さい。上司と部下を線で結ぶことで組織を表現したネットワーク構造になっています。この組織図には、三角形がありません。あるのは、上司が複数の部下と繋がる線だけなので、スター型(星形)、あるいはトリー型(木型)に枝分かれしていく構造です。三角形はどこにもありません。

 三角形ができるためには、上司と部下との繋がりだけでなく、部下と部下との繋がりや、隣の部署の上司とのつながりや上司の上司とのつながりなど、多様なつながりが必要なのです。

 三角形があると、組織のネットワークの中に近道(バイパス)ができます。これにより、一気に、情報の拡散力や支援しあう力が高まるのです。

 ある人から別の人にネットワークのつながりをたどって、何ステップでたどり着けるかを到達度(Reach)と呼びます。組織の中でランダムに抽出した、二人が平均何ステップで到達できるかを、組織の平均到達度と呼びます。上記の三角形が形成されると、この到達度(リーチ)が一気に短くなります。大量の実データでは、三角形の密度と到達度の間には明確な相関があります。
 このリモートワークの中でも、我々は、意識して、三角形をつくる必要があるのです。

 このために、具体的にまずマネジャーが行うべきことは、組織とは黙っていると、上記のような心理的安全性が低くなり、集合的知性が低下するリスクがあることをメンバーに教えることです。これには会話や会議の場でメンバーにこのことを繰り返し伝えることです。
 そして、このリスクを回避するために、遠慮せず電話やテレビ会議をアドホックに行うことを推奨することです。

 Zoomなどのテレビ会議の使い方を工夫ことも重要です。私のチームでは、Zoomのブレークアウトルーム機能を使い、朝会の最初の10分は、ランダムに選んだグループで、雑談する時間にすることにしました。このような少人数のいろいろな組合せでの雑談タイムも有効です。

 メンバーの一人一人ができることは、確認したいこと、質問したいこと、ちょっと話してみたいアイデアがあったときに、遠慮せずに話しかけることです。

 我々は、ウイルスに負けない新たな組織に変わる必要があります。
 そして、そのような挑戦によってこそ、この試練は、変化のための好機となるのです。


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