市場ができていないビジネスは「計画された偶発性」で挑戦し続けた企業だけが成功する
昆虫食ビジネスの挫折とイノベーションの可能性
食用コオロギの養殖・加工を手がけたグリラスの経営破綻は、新しい市場を切り開こうとした挑戦が挫折に終わった例として非常に残念なニュースである。代替肉や昆虫食といった新しい食品分野は、まだ市場が成熟しておらず、加えて炎上しやすいテーマでもある。そのため、事業開始時には、こうしたリスクを織り込んでおくことが必須だ。とはいえ、こうした挑戦がつぶされる社会では、未来のイノベーションの芽が育たないという危機感も同時に抱かざるを得ない。
新しい市場への挑戦とリスク
市場が未成熟なビジネスでは、100社中3社が成功すれば良いという考えで臨むべきだ。代替肉や昆虫食などのビジネスは、その市場自体が形成されておらず、消費者の受け入れも未知数である。このような状況での挑戦は、キャリア論で語られる「計画された偶発性理論」に通じる。成功の鍵は、機会が巡ってくるまで挑戦を継続することである。粘り強く挑戦を続けた先駆者の例として、ポストイットの開発者スペンサー・シルバーや、ダイソンを創業したジェームズ・ダイソンが挙げられる。
ポストイットは、開発当初「使い道がわからない失敗作」として見向きもされなかった。しかし、シルバーは「あきらめない男」として長期間にわたり改良と啓発を続け、ついに世界中で使われる文房具となった。また、ジェームズ・ダイソンも5000回以上の試作を経て画期的なサイクロン掃除機を完成させた。両者に共通するのは、「失敗を恐れず、挑戦を諦めない」という姿勢だ。
挫折の背景とネット炎上の影響
グリラスが挫折した背景には、ネット炎上が大きく影響している。同社が徳島県内の高校と取り組んだ給食事業では、生徒から好評を得たものの、一部のネットユーザーから激しい批判を浴びた。さらに、事実とは異なる情報がSNS上で拡散され、企業イメージが傷ついた結果、取引先が次々と撤退する事態に陥った。
SNSは情報の拡散力が大きい一方で、フェイクニュースが引き起こす混乱のリスクもある。このような炎上が、熱意を持って挑戦する起業家の努力を潰してしまう社会では、未来のイノベーションは生まれにくい。今回のケースは、社会全体が学ぶべき教訓を含んでいる。
昆虫食の可能性と未来への挑戦
昆虫食は、環境負荷の低減や持続可能性という観点から世界的に注目されている。国連食糧農業機関(FAO)も、タンパク質を補う食品として昆虫食の普及を推奨している。しかし、現段階では消費者の受け入れが進まず、どのような形で世の中に浸透するのかがまだ見えていない分野だ。これはすなわち、挑戦の余地が広がっているとも言える。
日本経済が元気を取り戻すためには、このような新しい挑戦を支える社会を築くことが必要だ。ネット炎上に負けず、熱意ある起業家を支援し、失敗を許容する文化を育てることが重要である。特に、まだ実用化が進んでいない分野では、様々な試みを受け入れ、失敗から学ぶ姿勢が求められる。
挑戦を支える社会の必要性
イノベーションを推進するためには、失敗を恐れず挑戦する精神を持つ人々の背中を押す仕組みが必要だ。新しい市場を切り開く試みは、時間がかかり、社会的な反発も伴うことが多い。それでも、その挑戦が未来のスタンダードを作り出す可能性を秘めている。
昆虫食がネット炎上をきっかけに挫折してしまった事例は、日本社会が抱えるイノベーション支援の課題を浮き彫りにしている。失敗を許容し、挑戦を続ける起業家たちを社会全体で支えることで、新たな可能性を切り開く基盤を築くべきだ。そうした環境が整えば、日本経済にも再び活力が戻り、未来への希望が見えてくるだろう。