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所得格差に対する誤解

岸田氏が分配政策を前面に出して、金融所得への課税強化論が台頭する背景には、格差の拡大を理由にこれまでの景気回復を体感温度の上昇として実感できている人は必ずしも多くないとする向きがあります。ただ、あくまでそれは定性的な判断であることが多く、所得の不平等さを測る指標はジニ係数によって算出されることからすれば、格差が実際に拡大してきたかどうかは、実際のジニ係数によって評価すべきでしょう。

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そして、厚労省が計測した金融所得も含む当初所得ジニ係数によれば、1999年以降上昇ペースが上がりましたが、直近2014年から2017年にかけては低下に転じています。

この背景には、①アベノミクスの異次元金融緩和により極端な円高・株安が是正され、生産拠点の海外移転に歯止めがかかった。②結果として就業者数が500万人近く増加し、低所得層の所得が底上げされた―こと等があります。実際、2015年以降の海外生産比率は頭打になっている一方で、消費者物価指数も上昇に転じています。極端な円高・株安の是正による名目経済規模の拡大、女性や高齢者を中心とした労働参加率の上昇などが相まって、日本国民の稼ぐ力が誘発されたと考えられます。

このように、巷で広がっているアベノミクスで格差が拡大したのいう噂は誤解であり、むしろ貧困層の雇用所得環境改善で格差が縮小に転じているといえます。

また、再分配後の格差を判断するには「再分配所得ジニ係数」がより重要です。税・社会保険料、現金給付、医療・介護や保育などの現物給付を合わせた所得再分配の状況を反映したほうがより現実に近いからです。そこで実際に再分配所得ジニ係数を見ると、2000年代後半以降は低下トレンドに転じていることがわかります。そして、ジニ係数の改善度を税と社会保障に分けると、社会保障による改善度が相対的に大きく上昇していることからすれば、公的年金をはじめとする社会保障による再分配が効いており、当初所得ジニ係数の動きのみで判断すると、格差が拡大しているとミスリードしてしまうことになります。

こうしたことから、感覚や格差の実態を表さない指標を基に安易に格差が拡大していると判断すると、経済政策の判断を誤る可能性があり、多くの国民が経済成長の恩恵を受けられなくなる可能性があります。このため、デフレギャップが大きく残存する現局面では、総需要を持続的に増加させ、一刻も早く経済の正常化に結び付ける政策が優先されるべきでしょう。

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