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自治体とスタートアップの契約はカオスをどれだけ許容できるかが大切

自治体の調達は安定した会社からの常識が変わる?

自治体の案件は、税金が原資なこともあって、できるだけ失敗のリスクがない安定した実績のある会社が選ばれがちだ。特に、国レベルの政府調達では審査も厳しく、大企業か、前例や実績のある企業がほとんどを占めてきた。しかし、スタートアップ育成支援として、小規模な事業者に限って実施できる事業規模の比較的小さな競争入札や、随意契約の時に経済産業省が認めたスタートアップ企業にも契約を呼びかけるよう改める動きがでている。

特に、コロナ禍のような大災害やDXなどのテクノロジー変革など、急速な変化では、大企業や中小企業では対応し切れない事例も出ている。変化のスピードが速く、不確実性の高い現代社会において、スタートアップだからこそ強みを発揮できる場面も多い。

官公庁だけではなく、地方の自治体でもスタートアップと提携を結ぶケースも増えている。例えば、複業人材の活用のために、東大阪市は「複業クラウド」を運営するAnother worksと提携協定を締結している。新しい時代の変化に対応するために、自治体がスタートアップと協力して取り組むケースは今後も増えるだろう。

その一方で、自治体がスタートアップと連携するなかで、苦労したという話も聞かれるようになってきた。いくつか話を聞く中で、よく出てくる悩みを大別すると2つになる。

スピード感の違い

スタートアップの強みは、意思決定のスピードの早さと小回りの利く柔軟性だ。物事が進むスピードが速く、大企業では意思決定に数週間かかることでも数日で意思決定を下して動き出してしまう。一方で、行政は意思決定のプロセスが複雑で、工数も多いために時間がかかる。そうすると、早く意思決定を下して動き出したいスタートアップと、なかなか決定が下りずに待ち時間が発生する行政の間でギャップが生まれる。

加えて、行政の案件は仕事の進め方についてもルールが多く、報告の手間も多い。そうすると、スタートアップは、行政のルール通りに執行できているか確認作業を求められ、行政のフォーマットに従った報告書の作成で、プロジェクトの進捗が遅くなる。大企業や行政と取引実績のある企業では、このあたりのコツを抑えてスムーズに進めるノウハウがあるが、スタートアップでは行政独自のルールに四苦八苦することになる。

例えば、8割がた決まったことにたいして最終的な許可が行政からなかなか降りず、スタートアップ側が動き出すことができずに時間が過ぎてしまう事態が発生する。スタートアップ側としては、できるだけ早く動き出したいので担当者に早くしてほしいと要望を出すが、なかなか動かない。時には、8割がた決まっているのだからと見切り発進してしまうこともある。それでさんざん待たされた結果、許可が下りずに白紙になることも珍しくない。

動きながら作りこむスタートアップと作りこんでから動く自治体

不確実性が高く、スピードが求められるビジネス環境では、「アジャイル」と呼ばれるプロジェクトの進め方がとられることが多い。英語で「機敏さ」を表す単語「Agility」を語源として、短期間の小さい開発サイクルを繰り返し、スピード感をもって何度も検証と改善のサイクルを回すことで最終的に高品質のプロダクトやサービスを開発する手法だ。これに対して、上流工程から下流工程へ1つ1つのプロセスを作りこんで、順番に進めていく手法を「ウォーターフォール開発」という。

スタートアップは「アジャイル」でプロジェクトを進めることが多い。まずは小さく、素早く初めて、改良を繰り返しながら品質を高め、安定させていく。例えば、イギリスのゲーム会社 Hello Games が開発して、2016年に発売された『No Man's Sky』は、AIが自動生成する銀河で1844京にも及ぶ膨大な数の惑星を自由に探索できるゲーム性が評価されて、大きな注目が集まったタイトルだった。しかし、あまりにも多くのバグと説明不足で不親切なユーザー体験から酷評が続いていた。あまりの不評から、Hello Games設立者のSean Murray氏はユーザーから殺害予告されるほどのバッシングを浴びた。そこから、5年の歳月をかけて、19回の大型アップデートを無料で実施し、最終的に最初期の低評価を覆して、プレイヤーの70%以上が高評価を出すタイトルへ成長させた。これは極端な例だが、スタートアップは検証と顧客の声を聴きながら、改善を繰り返して開発するプロセスを得意とする傾向にある。

一方、行政は市民からの評価に敏感で、不評に弱い構造を持つ。世の中に出したサービスにミスや不具合が許容されない。そのため、1つ1つの手順やプロセスに正確さと厳密性を必要以上に求めて確実性を高めようとする。そのため、動き出す前の準備に非常に多くの時間と労力がかかる。それでいて、予算とプロジェクトの期日には柔軟性がなく、当初決められた枠のなかで実行するしかない。その結果、入念に準備をして、計画を立てるところで予算と時間を使ってしまい、実際に作業に取り掛かる実行段階でしわ寄せがくる。そうなると、当然のことながら現場では大変なことになる。

カオスを乗り越え望ましい成果を得る

これらの話は、スタートアップと行政の仕事の取り組み方の常識が異なることから生じやすい問題だ。常識が異なるので、お互いからは「どうしてそうなるのか?」と頭を悩ませる事態にも陥りやすい。その結果、プロジェクトの現場がカオスになる。

今後、スタートアップとの協業が増える中で、自治体もノウハウを学び、変化するところが出てくるだろう。反対に、スタートアップの中でも行政の案件に取り組むときのノウハウが共有されるようになると、お互いの齟齬も小さくなる。

現代のビジネス環境では、スタートアップの力を借りないと、課題解決に取り組むことが難しい自治体も増えている。自治体とスタートアップの協業では、カオスな事態が生じることも多いが、そこを乗り越えて、社会課題を解決し、自治体の持続可能な発展に結び付くプロジェクトが数多く生まれてほしい。


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