Amazon effect2.0に考える「賃上げ」と雇用の問題
お疲れさまです。uni'que若宮です。
今日は雇用の問題について。
アマゾン・エフェクト2.0
日経に↓のような記事がでていました。
記事中、「アマゾン・ドット・コムが既存の小売業を追い込む「アマゾン・エフェクト」、そして「アマゾン・エフェクト2.0」という言葉が使われています。
「アマゾン・エフェクト2.0」というのは、Amazonが従業員を大量に採用してしまうことにより人材獲得競争が激化し、中小企業が人材採用ができない、という問題だそうです。
さらにいえば、Amazonが(以前は劣悪と言われていた)雇用条件を改善したことによって地域全体の賃金上昇になっているとのこと。
米国の民間雇用の約150分の1に達したアマゾンには厳しい視線が注がれる。「利益を従業員や社会に還元していない」「労働環境が劣悪」――。米国の若者の「左傾化」と軌を一にしてこうした批判が高まり、18年秋には最低賃金を一気に時給15ドルに引き上げた。連邦政府の定める最低賃金(7.25ドル)の2倍以上の水準で、地域によっては5割程度の昇給になった。
カリフォルニア大学バークレー校などの研究グループによると、アマゾンが18年に10%昇給した地域は、地域全体の賃金が2.6%上昇した。昇給幅が大きかったことなどにより、影響はほかの小売業の事例を上回っている。進出により各地で引き起こした地域全体の賃金上昇は「アマゾン・エフェクト2.0」のひとつといえる。
「賃上げ」を掲げる日本からすれば、「アマゾン・エフェクト2.0」はポジティブな効果にも思えます。賃金が低い状態では地域は貧困化しますから、賃上げによって地域が活性化し、消費も拡大し景気がよくなり、また移住含めて地域の人口や税収も増える、アマゾン効果はよいことづくめなのでしょうか?
賃上げが失業を誘発する?
しかし一方で皮肉なことに、こうした「アマゾン・エフェクト2.0」によってかえって中小企業での人減らしが起こっているというのです。
記事から引用します。
自動車業界はこれまで完成車メーカーを頂点とするピラミッド型の構造をとり、部品会社は1次、2次と規模が小さくなるにつれて賃金水準が下がるのが一般的になっている。デンソー本体よりも取引先の方がアマゾンの影響は受けやすい。昇給したにもかかわらず離職が増え始め、ロビンさんの勤務先も将来を見据えて新たな手を打ち始めた。
その一つが自動運転のフォークリフトの試験導入だった。ところが、フォークリフトの免許を持つ社員の間に動揺が走る。「私たちの仕事はなくなってしまうのですか」――。自動化によりコストの上昇を抑えることを狙ったものだが、失業の危機とみた社員はやりきれない思いを抱いた。
賃金の水準があがったことにより、企業がコストダウンのため自動化を進め、かえって失業危機となり、雇用が不安定化する、という皮肉。
悩ましいのは、これが各企業にとっては極めて合理的な判断の結果だということです。Amazonは巨大産業として社会責任として従業員の就業環境を改善し、賃上げをしました。それによって人件費があがった結果、他の企業が自動化を進めることも極めて合理的です。単にコストダウンのためのみならず、採用競争の激化で人材を確保できなかったとしても事業が安定的に回るためにも、自動化は経営判断として必然のものと言えるでしょう。
「人件費」が高いことによって自動化が進む。これはイギリスで産業革命が起こった流れと同じもので、なぜなら人件費が安いときには自動化しようというモチベーションが生まれづらいからです。(奴隷制度があった時代には人件費はゼロなのですから)
こうしたことは日本でも起こり得るのではないでしょうか。
人が機械に置き換えられていくというのは、長い目でみればある種の「進歩」であり、大局的に考えれば不可避の変化に思えます。技術の発展によって機械が担当できる労働は増え、労働単価は下がり、人が働く必要がなくなります。(ある意味では「機械」による奴隷制といえるかもしれません)
しかし短期的に見ればもちろん、「失業」というのは収入がなくなることにほかなりません。機械に取って代わられた人々は「賃上げ」によって給与を失うのです。
Amazonのケースでは、もし地域の失業者をAmazonが全て採用し受け入れられれば、地域の総雇用機会は減ってはいず、単に企業間でシフトしたとみることもできるかもしれません。しかし、各社毎に必要とされるスキルや人材レベルもちがいますから実態としては既存の職を失った人がかならずしも職を得られない場合もでてくるでしょう。
岸田内閣は「賃上げ」を目指しています。税制によるサポートはありますが、企業の余力がない状態で賃上げをすると、上記のように合理的な経営判断として機械化がすすみ、人減らしがされてしまうケースはありそうです。
(ミヒャエル・エンデの『モモ』では、人間が時間を節約しようと頑張った結果、かえって自分の時間をなくしてしまうのですが、これと少し似た逆説にも思えます。人間を楽にし、余裕を生むはずの機械が、人間を排除してしまうのです)
どう備えるか?
また、機械化やDXをする体力がない小規模事業者が採用ができないために倒産してしまうこともあるかもしれません。そうなればこれまた失職者がでます。
こうしたことを避けるためにはどのような方策が考えられるでしょうか?
キーワードはここでも「リモート」と「複業」かもしれません。
まず、たとえばアマゾンのように大きな企業が賃上げをしてそのエリアの賃金水準(と物価)が上がった時に、そのエリアで採用の競争力を発揮できない中小企業であっても、リモートで他のエリアや他国から人材を集めることはできるでしょう。
あるいは複業によって、一人の人材を複数社で取り合うのではなく共有することができれば不必要な採用競争をする必要はありません。機械化やDXが進めばこれまで以上に場所や時間に囚われることなく、仕事のパケット単位を小さくして複業によりフィットした業務を構築することもできるかでしょう。一社での賃上げはなくとも複数社でバリューを出せるようになれば年収をあげることもできるかもしれませんし、ごく短時間だけ働いて最低限の収入を得て、空いた時間で起業することもできるでしょう。
いずれにしても「アマゾン・エフェクト2.0」は「賃上げ」がただちに労働者にとってプラスになるわけではない、というひとつのスタディになるのではないでしょうか。そしてAmazonほどの超合理的企業ですから、いまは大量採用をしていても着々と機械化を進め、いつかは採用を辞める可能性があります。そうなればますます地域に人間の労働力が必要なくなるのです。
雇用環境の変化とAI・ロボティクスによる機械化の中で、個人にとっても企業にとっても雇用のあり方を改めて捉え直し、より柔軟に考えるべき時に来ているのかもしれません。
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