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Xカーブのフレームワークを使って大きな変化を描く~デンマーク自転車インフラ移行のケーススタディ~

コペンハーゲンは、世界有数の自転車都市として知られています。

現地を訪れると、よくこんな大規模なインフラ転換ができたらな…と驚かされます。

自動車は少なくして、自転車を増やす大規模なインフラ転換を行なってきており、この社会システムの転換が世界的にも評価されています。

70年代になるとインフラ整備は自動車優先になるが、オイルショックをきっかけに転機が訪れる。省エネの観点から再び自転車が脚光を浴び、市民運動の高まりもあって自転車のインフラ整備が進んだ。
2001年には市が初めて10年間の自転車政策を策定、07年には初のグリーンウエーブが設置され、14年にはサイクルスネークが完成した。この間も通勤・通学に自転車を使う人は右肩上がりで増えていった。

日本経済新聞 自転車天国デンマークの首都に倣え 専用の橋や信号…

もちろん、この「自転車中心の交通インフラ」は一夜にして実現したものではありません。
その背後には、30年超をかけて段階的・計画的な社会的トランジション(システム移行)があった話を現地で聞きました。

大変化をつくる際のフレームワーク「Xカーブ」

交通インフラのような大きな変化をつくる際の考え方に「トランジション」と言われる方法論が体系化されていることを知りました。

大きな変化をつくる/トランジションのためには、Xカーブのフレームワークで考えること

このトランジションの代表的な考え方に、Xカーブというフレームワークがあります。

大規模な変化には、既存システムの解体・衰退と新システムの成長・定着を同時に考えることが大切であることが示されている。

Xカーブの図は以下の要素で構成されています。

横軸:時間
縦軸:システム普及度
下降曲線:既存システムの衰退
上昇曲線:新システムの成長

Xカーブの構成要素

デンマークが自転車への移行を成功させた理由を読み解くと、
・新システム移行のために新しい要素を「付け足す」
一方で、
・昔からある要素を「捨てる・解体する」
というプロセスがあったことがわかります。

自動車→自転車のインフラ大転換プロセスを整理していきます。

Xカーブの3つの段階を整理

デンマークの自転車移行も、急激にではなく30年近くかけて移行を進めてきたことが調べてみるとわかります。

Step1. 実験と学習の段階
大きな構想を描きながらも、小規模な自転車道の整備・実験から始め、効果を確認しながら、徐々に浸透をさせていく

Step2. スケールアップの段階
成功した取り組みを基に、大規模な自転車インフラ整備や政策の実施に移行
・自転車専用道路は現在400km以上に達し、近郊都市との接続
・2007年に導入された「グリーンウェーブ」は、自転車が一定速度(20km)で走ると青信号が連続する仕組みに

Step3. システム変革の段階
自転車中心の新システムを定着させ、徐々に自動車に対する規制を強めて、システムを移行していく
・自動車の税金を大幅に増やす:自動車購入の税金は徐々に上がり、今では150%に
・市中心部の自動車駐車スペースが減少し、代わりに自転車駐輪場が設置。さらに駐車料金は100倍に値上げ。

これらの施策が組み合わさることで、市民の意識が変わり、自転車が単なる移動手段ではなく、街の文化の一部として根付いていったようです。

トランジションデザインに取り組むポイントは、
1. 部分改善でなく根本的に変える望ましい未来を思い描く
2  既存システムの衰退と、新システムの成長の視点をバランス良く取り入れる
3. 時間軸に合わせて、徐々に変化をつくる、大規模なシステムの変革をもたらすような小規模な介入を繰り返す


この3つがポイントだと理解できます。

Xカーブを変革プロジェクトに活かす

最近はDX(デジタル・トランスフォーメーション)やSX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)など、変革プロジェクトが増えてきていますが、フレームワークやプロセスの曖昧さがあり、中途半端になってしまうことも多いと感じています。

トランジションデザインの実践ポイントをまとめます。

  1. Xカーブの作成
    対象とする社会システムの現状と目指す未来の姿を明確にし、Xカーブ上に位置づける

  2. 未来ビジョンの共有
    関係者間で目指すべき未来の姿を共有し、方向性を一致させる

  3. フロントランナーの特定
    新しいシステムを牽引する先駆者を見つけ、支援する

  4. トランジション・アリーナの構築
    変革を推進する中核的なグループを形成し、協働の場を設ける

  5. 実験的取り組みの推進
    小規模な実験から始め、成功事例を積み重ねる

社会システムの変化だけではなく、組織変革の視点としても非常に参考になる考え方が詰まっています。ぜひ、トランジションの具体的な考え方を学びたい方は、書籍を読んでみることオススメです!