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オンライン旅行時代、最大のコンテンツは「人」になる~これからの旅の鍵となる2つのキーワード~

 Potage代表コミュニティ・アクセラレーターの河原あずです。出張が多すぎて、1ヶ月のうち3日しか会社にいなかった、そんな時代もありました。

 さて、ご存じ新型コロナウイルスが大流行することにより、観光産業は大ダメージを食らいました。人の往来に制約がある状況の中、飛行機移動は特に大きな打撃をうけ、海外から観光客を迎えることがかなり難しくなりました。

 そんな中、国内の観光需要を喚起するために、これまたご存じ「GoToトラベル」が施策として実行され、少しずつ国内の観光も戻りつつあるようです。実際、10月には3回、宿泊をともなう国内出張をしましたが、減便はされているものの、飛行機は8割方座席が埋まっていましたし、観光地もそれなりに人が訪れていました。(ただ、空港にいる人の数は、体感でピーク時の4割という印象ですが……無理もないですね)

 そんな中「オンラインで旅行しよう!」という動きもみられています。なんとか収束後の誘客につなげたいという思いから形になっているようです。

 しかし、記事を読んでも「オンラインで旅行なんて味気ないのでは?」「テレビと一緒じゃないか」「現地に行くからこそ旅の価値がある」と疑問に思う方も多いだろうなというのが、私の率直な感想です。

 オンラインコンテンツを企画する際に、根本的に考慮すべきことがあります。それは「オンラインでしかできないことにフォーカスする」ということです。リアルな観光をなぞるようなことをやっても、結局コンテンツの魅力に結びつかないことの方が多いのです。いかに、接する人の記憶に残るような時間をつくるかが、キモになります。

 そんな講釈を前置きにしつつ、もともと旅が大好きだった自分がコロナ禍で取り組んでいる実例をご紹介できればと思います。この事例に、今後の旅行のあり方を考える、大事なヒントが眠っているという風に考えているからです。

 キーワードはズバリ2つ。「遠くの人との共通体験をつくる仕掛け」そして「旅の最大のコンテンツは"人"」です。

47都道府県をリレーする「オンライン国内旅行」

 まだまだ都外に出ることも憚られる7月に、あるオンラインイベント企画を立ち上げました。「47ers(フォーティセブナーズ)」という企画です。

 かつて駐在していたサンフランシスコで大人気のアメフトチーム「49ers」のオマージュでタイトルをつけたこの企画は、47都道府県のコミュニティ・キーマンをリレー形式でつないでいく47分間トークイベントです。「日本全国に散らばる輝く人たちの生の言葉から、生き生きと生きるヒントが得られる日本1周オンラインミートアップ」という触れ込みでスタートしました。オンラインで知らない土地に旅に出て、あったことのない人に紹介で会う……河原あず流「オンラインGoToトラベル」とでもいうべき企画です。7月に開始して、10月24日現在、13都道府県をすでに「旅行完了」しています。

 このイベントを立ち上げたのには、大きな理由がありました。一言でいえば「退屈だったから」です。

 オンラインイベントは数多く開催していて、それはそれで楽しいのですが、もともとは全国や海外にいって、イベントではじめましての方にお会いし、それぞれのことを話すのが大好きだったのです。ところが、ステイホームな時期となると、どうしても新しい出逢いには制約があり、見知った人たちとの交流の割合が増えがちです。

 しかしコロナ禍が明けるのを待っているのは性にあいません。出会いがなければ、機会をつくりだすしかないのです。自宅から、できるだけ遠くの、しかも共感がわく相手とつながる方法はないものか。

 そんな折、「コミュニティづくりの教科書」共著者の藤田祐司氏が「つながっていいとも」という、笑っていいとものテレフォンショッキングをもじった、出演者に次の出演者を紹介してもらうフォーマットのオンラインイベントをやっているのをみて、ふと思い立ちました。かつてかかわった地域イベントのつながりを起点にしてリレーをつないでいき、全国の面白い人たちをコレクションすればいいのでは、と。そうして、「47ers」の企画は誕生しました。

遠くの人との共通体験をつくる仕掛け

 スタート地点は、いちばん遠い土地にいる、じっくり話を聞きたい知人からにしようと、北海道江丹別在住のブルーチーズドリーマー伊勢昇平さんを第1回、鹿児島県いちき串木野市在住、大和桜という焼酎をつくっている若松鉄幹さんを第2回のゲストにブッキングしてスタート。そこからのリレーで出会う人たちは、みな例外なく輝いていて、面白い人ばかりでした。

※こちらが記念すべき第1回の動画です

 かつては全国さまざまな場所でリアルなイベントを開催して出会っていた「面白い人たち」と、オンラインでも、精神的に密な交流ができることがだんだんつかめてきました。

 よくよく考えれば、知らない土地ではじめましての方に会うのには、大きな制約があります。移動コスト、時間の問題もありますし、いくら紹介されたとは言っても、外から来た初対面の人と会うのは先方にとってもハードルがあるわけです。

 しかし、自宅から通信して会う分には、何か嫌なことがあっても通信を切ればいいわけで、会うハードルはだいぶ下がります

 紹介のリレーをつないでいくことで、どんどん自分からは遠い人のところへ導かれていきます。「このイベントに会いそうな他都道府県の方を紹介してください」と伝えると、各人なりのフィルターが入るので、きちんと面白い人につながりますし、紹介先の相手も「よくわからないけど、こいつの頼みならまあいいか」とカジュアルに出演をOKしてくれる傾向にあります。このカジュアルさは、なかなかリアルな面会だと実現しません。

 そしてオンラインでライフストーリーをじっくり聞くことで、相手への興味は自然と深まっていきます。こちらの興味が深まると、自然と言葉にも熱が入り、結果として「もっと話していたい」というモードに切り替わります。

 タイトルにちなんで、トーク時間を「47分間」と設定しているのもポイントです。47分間というのは絶妙な時間設定で、自分の半生や価値観を深く語れつつも、腹八分目で終わる分量になっています。終盤に「ぜひまた続きは現地で聞かせて下さい」と言うと、ゲストの方は「もちろん!」と自然に答えてくれます。

遠距離恋愛の種火をつくる

 「47ers」というイベントの47分間は「この人の話をもっと聞きたい」という動機の「種火」をつくるプロセスです。

 分かりやすいので恋愛に例えてみます。遠くに住む人と知人の紹介で対面で会ったとします。なかなか会う機会がつくれないので、最初の短い対面の時間でいかに相手に「また会いたい」と思ってもらえるかがポイントになります。その「また会いたい」という気持ちが「恋愛の種火」となります。

 遠距離恋愛において「会いたくても会えない」という気持ちは、種火を絶やさない大きな動機となります。まずは、火をつけること。そして距離が離れたら、その火を絶やさないようにコミュニケーションをとっていくことが大事になります。

 すると、次に対面であって話が盛り上がったときには、種火に燃料が注がれたかのように、大きく燃え上がることになります。例えるならキャンプファイヤー状態です。

※この「種火」「キャンプファイヤー」のたとえは、こちらの西村創一朗さんとの対話から多分にインスパイアされています


 「47ers」はイベントが終了した後も「次の出演者を紹介してもらう」というタスクが出演者に残ります。そのやりとりも、意図的にスレッドに紹介元の出演者も混ぜていくことで、交流が続く状態にしています。

 結果、自分が紹介した相手の回に参加してくれることも多いのです。自分の知人の面白い言葉が引き出されると、それも主催兼進行役である河原あずへの信頼感の増幅につながります。信頼残高が積みあがっていくことで、徐々に「ぜひ状況が落ち着いたら遊びに来てください」という言葉が、社交辞令ではなくなっていくのです。

 そういう流れで実際に会いにいった出演者の方がいます。長野県諏訪市に住んでいる、宮坂醸造宮坂勝彦さんです。

※宮坂さんに出演いただいた回の動画(外部リンクです)

 「真澄」という銘酒で有名な由緒ある蔵の跡取りの彼は、地域の移住者のコミュニティとつながっていて、一緒に地域を盛り上げる活動をしています。急に決まった出張の帰りに寄ったので20分くらいの立ち話になりましたが、年明けの訪問のタイミングでは、移住者を中心とした現地コミュニティのキーパーソンを紹介いただけることになりました。こちらがその立ち話の際に撮った写真です。

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 コロナ禍になって、外の人との出会いが減る中、全国に住む「面白い出逢いに飢えている人々」にオンラインでつながって、種火をつくっていくと、その後、対面で会えた時の密な関係性づくりの大きなきっかけとなります。会えない時間が愛を育てる、とは、遠距離恋愛の常套句ですが、コロナ禍はその種火を大事に育てる、貴重な機会にもなりうるのです。

旅の最大のコンテンツは"人"

 自身の事例をもとに「オンライン旅行」の効能を語ってきましたが、ここで伝えたいことは、地域の景色の写真を撮ったり、食事をしたり、買い物をしたりする、つまり「消費」することを目的とした旅は、価値を薄めていくであろうということです。アジア系インバウンド需要が急速に低迷する中、この流れは止まらないでしょう。

 テレビの旅番組で、レポーターの芸能人が名所をくるくるまわるのをコピーするような旅は、どんどん価値を失っていきます。一方で価値を上げるのは「今ここでしか体験できない旅」です。

 実は、この「体験重視」のトレンドはコロナ禍以前にも始まっていました。2020年以前に急速に伸びていたAirbnbというサービスは、いわゆる「民泊」サービスとして知られていますが、実は「旅人と住民をマッチングする共通体験づくりプラットフォーム」としての側面が支持されて、アメリカから普及していきました。

 地域の住民の方の家に泊まると、そこにコミュニケーションが生まれます。私自身のアメリカでの実体験を言うと「自転車を貸してくれる」「地域のいいレストランを教えてくれる」などのライトなコミュニケーションから「毎朝うみたての卵を届けてくれる」「夕日のきれいな地元の人しか知らないスポットに案内してくれる」「スポーツカーに乗せてくれる」「お土産にワインを持たせてくれる」「晩御飯を食べ損ねて深夜にカップ麺をつくろうとしたら「もっと栄養あるものを食べなさい!」とアメリカの家庭料理をつくってくれる」などの、その場でしか経験できないようなコミュニケーションもありました。ホストする側も「いい時間を共にしたい」「そして自分の家や町を好きになってほしい」という意識があるからこそ、実現するコミュニケーションです。

 コロナ禍で旅のあり方もだいぶ変わってきましたが、むしろこの状況だからこそ「共通体験重視」という旅のあり方のみなおしは、加速すると私は考えています。

 数々のオンラインサービスは、その共通体験づくりをサポートします。「47ers」同様に、Zoomを使えば、地域に住んでいる方と直接対話ができ、そこで生まれた出会いからさまざまな体験をつくることができます。

 特産品を送って一緒に食べることもできますし、地域の畑や工場にオンライン訪問することも可能になりますが、最も重要なコンテンツは、地域に住む「人」だと考えています。魅力的な人が住む土地を見つけ、人と出会い、対話をすることで、行ってみたいという気持ちを喚起させられ、コロナ禍があけた際に実際に足を運ぶ人は、少なくないでしょう。都市部にすむことに疑問を感じて、移住を考えたり、他拠点生活を検討する方も増えています。移住者増、関係人口増にプラスの影響が出ることもありえそうです。

 外から人を呼び込みたい地域のみなさんにとっては、そこに住む人たちの魅力を発信することは、ますます大事になってきます。発信に興味がある地域があれば私も積極的にお手伝いしていきたいですし、コロナ禍からかかわりが生まれた人たちとも、何かコラボレーションができないかと考えています。

地域の「人」の魅力を発掘し発信しよう

 地方創生で今もっとも大事なのは「人」の魅力を見直すことです。さまざまな地域でイベントをしたり、コミュニティ支援をしてきましたが、どこの地域もまったく同じ場所はありません。絶対に、固有の価値を持っているし、そのカギを握っているのは、現地で輝いている、独自の活動をしている人たちなのです。

 輝いている人たちは、地域内の人たちを結束させ、地域外から人を呼び込むことができます。地域がそのような人たちを「資源」としてとらえ、成長を支え、ともに発信していくことが大切になります。

 旅の目的は、地域の魅力と出会うこと。そのために、魅力ある人と出会うことが大事だと個人的には考えています。もっともっと、魅力ある人と会いたいと思っている人は私だけではないはず。ポスト・インバウンドの観光を盛り上げていくには、まず魅力ある人を育て、発信していくことが不可欠なのです。

 実際に、行政とテクノロジー企業がタッグを組みながら、地域課題を解決していこうという動きも出てきています。(上の記事は、Zoomと大分県、Peatixと神奈川県の事例)。行政や地域の企業などが、上手にテクノロジーを「人の発信」のために活用できれば、いいマッチングが起き、地域と外に住む人たちとの濃いつながりづくりに結び付くのではないかと考えています。価値観が大きく変容している今だからこそ、新しい取り組みをするチャンスだと、思いませんか?

 なお、11月20日(金)に渋谷ヒカリエで開催される働き方を考える祭典「TOKYO WORK DESIGN WEEK2020(TWDW)」と「47ers」のコラボオンラインセッションが開催されます。渋谷のイベントにオンラインで登壇者が各地域から集まるニューノーマル時代の新感覚セッションになります。北海道から沖縄まで、さまざまな地域から登壇されるので、地域の素敵な人に会いにぜひいらしてください。

 ※当投稿は、下記日経COMEMOの投稿お題募集に向けて執筆しました。他の方の投稿も面白いのでぜひチェックください。

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