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もしも世界にリモートワークしか働き方がなかったら

最初にお断りしておくと、すべての仕事がリモートワーク可能なわけではない。いわゆるエッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事に代表されるように、リモートワークがそもそも不可能な仕事もある。以下は、リモートワークをやろうと思えば可能な仕事に関しての話である。

もしも世界にリモートワークしか働き方がなかったら、どうなっていたのだろう。もちろん、リモートワークしかない世界を仮定しても、リモートワークが上手な組織とそうでない組織があるだろうし、ビジネス系のメディアには、リモートワークのベストプラクティスが紹介されたり、「リモートワークを阻害する10の要因」といった記事がならび、それがよく読まれていることだろう。

それは一見、今の状況と似ているようだが、決定的に違うことがある。それは、「リモートワーク”以外”の働き方」の有無である。

そもそも「リモートワーク”以外”の働き方」が存在しないなら、いかにリモートワークをうまく機能させようかとだけ考えるだろうが、今は、それ以外に、「リモートワーク以前の、ビフォーコロナの働き方に戻る」という選択肢がある。正確には、そう思えるし、あると多くの人が期待している、ということかもしれない。それは、ある時期を切り取ったりすれば、そういう選択肢も部分的にはあるだろう。

しかし、専門家が指摘し、多くの人もうすうす感じているように、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染第2波が近いうちに起こるものと考えておかなければならないし、そうなれば、再び外出禁止ないし自粛という措置がとられる可能性も否定できない。幸いにしてそういった事態が起きる前に、安全で副作用のない(少ない)ワクチンが開発され、それが誰もが接種できる価格で十分な量が行き渡り、COVID-19が人類の脅威ではなくなったとしても、新たな感染症が人類の生命を脅かさないという保証はない。

そうであるなら、完全な形でビフォーコロナの働き方、暮らし方に戻ることはないと考えるのが妥当だろうし、割合はともあれ、リモートワークを部分的に取り入れた働き方が、これからの普通(いわゆるニューノーマル)になる、と考えておくべきなのだろう。

そういうなかで、リモートワークで成果を出す組織とは、結論を先に述べてしまえば

リモートワーク以前=ビフォーコロナに戻ることを諦めた組織

なのだろうと思う。

そもそも、リモートワークは、広い意味でのビジネスを遂行する「手段」であって「目的」ではない。手段は目的に合わせて選べばよい話であって、目的がリモートワークにそぐわないのであればリモートワークを無理に選択する必要はないし、出来ないのだ。冒頭でお断りしたエッセンシャルワークは、そうしたビジネスである。

ではこのリモートワークという手段を活用しなければならないビジネスにおいて、どうやって定着させ成果を出すことができるかといえば、リモートワーク以外の働き方への退路を断つというのがひとつである。

そのために具体的に出来ることは何かと考えると、オフィスをなくすことが考えられる。そもそも「オフィスに出社」という概念が消えれば、そのオフィスから離れて働くという「リモートワーク」という対概念もまた消える。リモートワークに対応しやすいIT企業やスタートアップから、都心のオフィスを縮小したり、中には完全に都心からオフィスをなくしてしまう動きも出ており、空室率が上昇し始めているという。

そしてもう一つはリモートワークをせざるを得ない要素を含んだ仕事をすることである。具体的には、例えば普段会うことのできない人と仕事を進めることが、リモートワークをせざるを得ない条件になるだろう。

実際に、私自身も、緊急事態宣言が発令されて以降の4月から3ヶ月弱で、1つの新しいプロジェクトを準備し、最近ローンチにこぎつけた。このプロジェクトのメンバーは、少人数とはいえ誰一人として直接対面する事はなく、全てリモートでプロジェクトを進めてきた。そもそも遠隔地にいるメンバーがいることもあって、仮にビフォーコロナの状況であったとしても日常的に対面のミーティングをするということは現実的ではなかった。だからこそ、対面したいという気持ちが起きず、むしろ世界的に外出が制限された影響で各メンバーの移動時間や会食などが減り、そのぶんの時間を活用できたことも、このプロジェクトが約3ヶ月の間で一つの結果を出せた要因ではないかと考えている。

厳しい言い方になるが、リモートワークで仕事をするしかない組織であるなら、それがうまくいかなければその組織が存続できないというだけのことになる。冒頭に思考実験として書いたように、そもそもビフォーコロナのワークスタイルが存在しないとするならば、否応なくリモートワークで成果を出す必要があるし、それができなければビジネスとして成立しないというそれだけのことだ。実はこれはビフォーコロナの世界でも同じであって、リモートワークでなくても、うまくいかないビジネスというのはいくらでもあったことを考えるなら、リモートワークが何か特別なことであるという考え方は、ビフォーコロナを知っているからこそ生まれるもので、「新参者」のリモートワークをスケープゴートにしているだけだ、ということに気づくのではないだろうか。

ところで、なぜスタートアップは、リモートワークがもともと根付いていたり、今回のような事態に柔軟に対応できているのだろうか?

実際にスタートアップ企業の一員としても働いている私なりに、思い当たる理由は、

 ・リソースが限られている
 ・スピード感を持ったグロース(事業の急成長)が求められる
 ・そのためにもグローバルなビジネス展開を求められがち

といったところにある。リモートワークに好き嫌いを言っていられない、やむにやまれぬ事業環境があるということだ。人的物的リソースが限られれば、一人が複数の役割を果たさなければならないし、リスクマネーの投資を受けている以上、スピード感をもって事業成長を図らなければならない。そのためには、近場のマーケット、国内に限らず、可能性のある市場に積極的に展開していくことも求められる。そうなれば、対面でだけビジネスを進める、ということでは間に合わない。

裏返せば、リモートワークに苦労している組織は、上記のような動機づけが弱い組織、とも言えるのかもしれない。

もちろん、労働法制の問題もあり、またハンコや紙書類、名刺交換といったビジネス文化の影響もあり、要因は複合的なのだが、こうした文化が頑なに守り続けられる背景は、ひょっとすると、お互いに他社が出し抜かないための相互監視の一環であり、そういう無意識が働いていると捉えることもできるのかもしれない。

リモートワークになじめないでいる組織と組織人に対しては厳しいものの言い方になってしまったが、これだけ生産性の低さが指摘され、変革が叫ばれ続けてきた中で、今回のCOVID-19への対処においても、完全移行とまではいかなくてよいが、リモートワークが部分的・選択的にすら定着しないのだとすれば、それは大変に残念なことだと思う。

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