商業化の功罪?ーTOA19で感じた変化
ベルリンで開催されているTOAに来ている。TOAはTech Open Air の略なのだけれど、みんなティーオーエーとかトアと呼んでいる。カンファレンスのモデレータもトアと呼んでいた。
TOAのテーマは Future Proof。日本語にするなら「未来への備え」という感じだろうか。Future Ready という表現も散見される。要は、社会や生活の未来の姿を議論しシェアして、それにどう対応するか考えたり、それをビジネスにしたり、起業したりしよう、ということなのだと、私は解釈している。
TOAの特徴は、展示ではなくカンファレンスが主体であることと、ベルリンの街中で開催されるサテライトイベント。カンファレンスは、開催地はドイツだがすべて英語で行われる。そしてカンファレンスのスピーカーとして、隣国フランスのVIVA Technologyのように首相や大統領クラスが来たり、業界外でも名を知られているようなビッグネームが来たりすることはほとんどない。そしてサテライトイベントも、ベルリンの街中に分散して開催されているため非常に全体像を把握することが難しい。そのため、写真を撮っても「映え」ないし、業界を超えた重要人物の発言が飛び出したりもしないので、記事にしにくいせいだろう、特に日本のメディアではほとんどとりあげられない。今年もざっと検索してみたものの、記事にしているメディアは少なくても今のところないようだ。
そんなTOAに今年3回目の参加をした。定点観測的に、話されているテーマのジャンルを意識しながら聞いているのだが、昨年まで多かったブロックチェーン関連セッションが、今年はさほど多く感じなかったが、それはブロックチェーンが実際のビジネスに取り入れられ始めているからかもしれない。IOT ではなくBOT(Blockchain of Things)という言葉が聞かれたのは、そうした現れとも思える。
また、昨年から施行されたGDPRについては、今年はその具体的な成果について触れられているものが多かった。
一方、昨年とても多かったマインドフルネスに関するカンファレンスはかなり数が減ったように思う。そのかわり、昨年まではTOAであまり目立たないテーマだったと思う、マイノリティーや女性の、特にテック系の仕事での活躍増進に関するカンファレンスの内容が目立った。
特に印象的だったのは、ゲイコミュニティーの出会い系サービスであるSCRUFFのCEOが登壇したセッションで、データが共有されることの懸念からサードパーティーのアドネットワークの利用を止めたところ、結果的に50%以上の広告収入の増加が起きたというエピソードだ。
ゲイというプライバシーに特にセンシティブな人たちを相手にするサービスが、データセキュリティの問題に取り組んだところ結果として広告の収入が伸びたということ、またデータを活用して配信された広告が自分たちにとって的確なものであったことがなかったと言う指摘には、非常に考えさせられるものがあった。
こうした印象的なセッションもあったのだが、一方で全般的には、今年のTOAのカンファレンスに少し物足りなさを感じたことも正直なところである。これまでカンファレンスには、スタートアップであればCEOが来て、目先の当座のビジネスの事はひとまず置いて遠い未来や自社のビジョンを語っていたように思うのだが、今年はスタートアップのスピーカーでもCEOより下の役職者が多かったように感じる(昨年とデータを取って比較すれば良いのだが、そこまで手が回っていない)。またスポンサーである大企業のスピーカーも増えていると感じた。
こうしたスピーカーが話す内容は、未来のことを語ってはいるのだが、遠い未来のことではなくこの半年1年程度で起きていること、あるいは起きる予定のことについて語られることが多い。その結果、未来に備えるというよりは、ここしばらくで何が起きるかと言う事について、やや自社のプロモーション的な内容になってしまっていたのではないか。
TOAは多くのカンファレンスが、開始終了時間もまちまちで同時多発的に実施するスタイルをとっているので1人の人間が全てを聞くことはできない。このため、私も自分の興味関心に従ってカンファレンスを選択して聞いているので、全てのセッションがそうであったかどうかということについては判断ができない。ただ昨年までも同じようにしてカンファレンスを聞いてきたことからすると、今年のカンファレンスのあり方は少し変化している可能性があるか、あるいは私自身が変化してカンファレンスに対する受け取り方が変わったのかもしれない。
もちろん、同じ志向を持つたくさんの関係者が一堂に介することでネットワーキングが出来ることの価値や、サテライトのイベントに参加することなど、カンファレンスの他にもTOAの楽しみ方あるいは役立て方はたくさんある。
ただ私の場合は、これまでカンファレンスを主体に参加してきたので、その意味では今年のTOAについては少し変質してしまったのではないかと感じ、やや残念に思う。こうしたカンファレンスを開催する事は、非常にお金も時間もかかることであり、運営にスポンサー等の意向を取り入れざるを得ないという側面もあることだとは思うのだが、せっかく、これまで手作り感のあるカンファレンスをしてきたことを考えると、私の感じていることが実際にそうであるのだとしたらもったいない気がする。
メディアにはあまり取り上げられないにもかかわらず日本人の参加も増えているようで会場内で多くそれらしき人たちを見かけたし、知っている人とも出会った。アジア人の中では1番人数が多いのではないかと思う。こんなバスも駐車場で見かけた。
もちろん私の感覚が全てではないが、遠路参加する日本人にとって、意義のあるものだと感じられるようにTOAが発展してほしい。来年がどうなるのか、少し心配しながらも期待している。