経済にも影落とす英国・EUの緊張関係
英国とEUの関係は北アイルランド議定書の一方的な破棄も辞さない英国の強硬姿勢を反映し悪化している。それが英国経済やポンドの見通しに暗い影を落としている。
もっとも、見せかけの要素はあるのかもしれない。英国は過去にも同様に議定書第16条の発動を仄めかしながら、実行しなかったことがある。しかし、英国のトラス外相と欧州委員会のシェフチョビッチ副委員長の電話会談でも進展は見られておらず、懸念材料となっている。
国内法を通じ北アイルランド議定書の一部破棄も辞さないとする英国のスタンスは、深刻に受け止めておく必要がある。北アイルランド議会選挙の結果を受け、議定書の相当な修正がない限り政権に加わらないという民主統一党(DUP)の姿勢が、英国側の過激な行動の口実に用いられることになる。しかし、口実がどうであれ、一方的な英国の行動に対し、EUの反応は厳しくなる。(1)北アイルランド議会の過半数の議員が議定書を支持する可能性が高いことや、(2)地方選や最近のスキャンダルを受けた英首相の求心力の低下、(3)信頼関係の崩壊―を踏まえると、EU側の大きな譲歩は考えにくい。
そうなると、悪くすれば、関税合戦や、英国・EUの貿易協定の停止にも発展しかねない、ということになる。そうしたシナリオに至るには、数カ月かかることになろうが、それでも景気見通しはさらに悪化することになるのではないか。一連の悪材料により、通貨ポンドにも下落リスクをもたらすことになろう。ここ数カ月は、他のマクロ経済テーマが支配的だったことにより、市場はまだ英国・北アイルランドの通商関係の未解決問題について、然程リスクプレミアムを織り込んでいないと考えられるためである。
英国の景気見通しがすでに厳しい中で生じているこの下振れリスクは注視が必要である。英国の経常赤字が新たな不安要素となれば、目下の不透明な世界経済環境を背景に、対内証券投資にブレーキがかかる可能性もある。2022年下期の金融市場動向に新たな火種とならないよう、英国・EUの緊張関係がいたずらにエスカレートしないことを望みたい。