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クランチロール:日本国外アニメ配信大手の「射程」とは?=ドイツから考える

日本国外におけるアニメ配信大手のクランチロールをソニーGが買収してから1年が経過したそうです。これに関連して買収後の動向をまとめた記事を見かけましたが、もう少し内容を補いたいと思いました。というわけで、今回はドイツでの動向を紹介し、今後を展望してみたいと思います。

改めて注目されるクランチロール!

まず、きっかけとなったのは日経新聞のこちらの記事です。

ソニーGのアニメビジネス事業を「アニメファンに全集中」するとし、アニメ配信にとどまらず、既存の米ファニメーションとの統合、名称の統一からイベント開催、グッズ通販会社の買収までを紹介しています。クランチロールは世界で1億人超が視聴するらしいですが、米国発の記事らしく内容は米国内の動向にとどまっています。

物足りないなと思っていたら、アニメジャーナリストの数土直志氏が「KAI-YOU」で連載するコラムでも本件が取り上げられました。

こちらは、およそ、劇場アニメの映画館での公開状況からクランチロールが業界に与えるインパクトの強さをビジネス面から読み解こうという試みです。また、クランチロールへの名称統一でファニメーションのDVDやBlurayを販売するホームエンターテイメント事業もクランチロールになったことが触れられています。余談ですが、同氏はクランチロールの幹部スタッフへのインタビュー記事「クランチロールはどんな作品を世界に届けるのか? 末平アサ氏(チーフコンテンツオフィサー)インタビュー」も公開しています。

いずにせよ、クランチロールが今年3月に社名統一の際に掲げた「アルティメイト・アニメ・エクスペリエンス」の全容は、すくなくとも筆者が在住するドイツからは、まだはっきりと見えたとは言い難いです。

ドイツでのクランチロールをめぐる動向

では、ソニーGがクランチロールを買収することで、ドイツでは何が起こったのか、筆者が気になったポイントを挙げてみます。

アニメ配信の行方

まず、本業のアニメ配信ですが、ドイツでもクランチロールはすでにアニメ配信分野では有力なサービスのひとつでした。競合には、フランスのWakanimが手掛けるサービスがドイツでもシェアを競っていましたが、Wakanimは米ファニメーション傘下にあったため、ともに親会社がソニーGとなり、統合が発表(ドイツ語)されました。

次にこちらもフランスの会社ですが、アニメとマンガを販売するKazéも、ドイツ事業をクランチロールに名称を統一することが告知(ドイツ語)されました。

物理メディアの行方、アニメもマンガも

Kazéは、アニメのいわゆる円盤となるDVDとBlurayのドイツ語版を販売してきました。つまり、クランチロールは、アニメ配信だけでなく物理メディアでもアニメを抑えたことになります。しかし、Kazéは、ドイツ語版のマンガも出版しています。

サムネイルが表示されないのでクリックしないと確認できませんが、Kazéのマンガは新たに刊行されるタイトルについては、ロゴマークがKazéからクランチロールに差し替わっているのが確認できます。

つまり、ドイツでは、紙のマンガも物理メディアのBlurayもクランチロールが手掛けることになったわけです。

他社との協力関係、TV放送も?

さらにです。5月のニュース記事(ドイツ語)によると、クランチロールのドイツ法人は、自社レーベルとなったKazéのアニメとマンガ以外にも他社の製品も扱うことになったそうです。この他社には、アニメ販売会社の、
・Anime House
・Peppermint Anime
・AniMoon Publishing
・Hardball Films
・Nipponart
および、マンガ出版社の、
Manga Cult、Manga JAM SEssionとあります。

ソニーGのアニプレックスとの合弁によるPeppermintの名前があるのは理解できるとして、Anime House、Nipponartといったドイツ語圏での老舗アニメ販売会社といってよいメーカーが含まれているとこも気になりますし、Hardball FilmsとAniMoonに関しては、新興のアニメ販売会社です。そこに、マンガ出版社として登場する2社はいずれも近年参入した新興ブランドです。

このように、アニメとマンガの物理メディア部門でも広く展開を見せるクランチロールですが、近年筆者も注目しているドイツのアニメ販売会社の販促プロモーション(だと思われる)ひとつに、TV放送が挙げられます。つまり、クランチロールが今後、どのようにTV放送を活用していくのかは分かりませんが、現地企業との協業によりTV放送枠の確保も見えてきそうです。

劇場公開イベントの行方

物理メディアの次に注目する動向は、映画館でのイベント上映事業です。Kazéは近年、毎月最新のアニメ映画をドイツ語圏の映画館で一斉上映するという1日限り(基本的に)の上映イベント「Kazé Anime Night」を開催してきました。このイベントの名称が「Crunchyrool Anime Night」に変わりました。

これとは別にPeppermintは、毎年、年初に「Akiba Pass Festival」という映画館でのアニメ映画の上映イベントを開催してきました。こちらは、都市巡回型と筆者は呼んでいるイベント形式なのですが、各都市の映画館で複数のスクリーンを貸し切り、一日中、アニメ映画を上映するというものです。日程は、ドイツ統一ではなく、今日はフランクフルト、来週はベルリンといったふうに都市を巡回するような形で開催地を移動してきます。コロナ禍により中断していましたが、10月に開催される大型アニメファンイベント「コンニチ」の会場の一部が「Akiba Pass Festival @ Connichi 2022」と名付けられており、今年春に予定されていた作品を上映するようです。

アニメコンベンションの行方

以上、ドイツにおけるクランチロールの動向を駆け足でご紹介してきたわけですが、最後は筆者が気になっている「クランチロール・エキスポ」にも触れておきたいと思います。

「クランチロール・エキスポ」は、クランチロールが米サンノゼで年に一度開催するイベントです。いわゆる、ファンが主導して開催されることの多いアニメコンベンションと呼ばれるステージやワークショップが同時進行する総合イベントです。日本からアニメ制作関係者などをゲストとして招聘するなどソニーGとしての強みを生かした企画が注目されているようです。(筆者はまだ現地を訪れたことがないので、あくまでネットの情報からの推測です)

コロナ禍によりイベントの中断はありましたが、筆者はこの「クランチロール・エキスポ」の動向に注目しています。というのも、クランチロールの「インパクト」は、アンメファンを全方位で取り込んでいくという方針のもと、ドイツでは、物理メディアも劇場配給も抑えてしまったといってよい状態です。

もし、クランチロールがドイツでさらに攻勢を強めるとすれば、それはアニメコンベンションではないかと筆者は見ています。現状は、米国で1都市で開催されているだけの「クランチロール・エキスポ」ですが、もし、これがイベントのフォーマットを固めるための助走期間だとすれば、ドイツやその他の国でも今後、「クランチロール・エキスポ」が開催されるのではないかと。。。

筆者の勝手な妄想ですが、もし、そうなればドイツのアニメイベント界隈に注目してきた筆者としても、「クランチロール・エキスポ」は注目度を増していきそうです。

そして、こういった諸々の展開は、米国やドイツだけではなく他の国でも起こっているかもしれません。皆さんはこのクランチロールの世界展開についてどう思われますか?


タイトル画像:今年3月に報道関係者に配布された画像資料。

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