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コロナ禍をきっかけに生まれる新しいニュース消費習慣〜米老舗メディア『アトランティック』

新型コロナウィルスの感染がいつ収束するのか誰も分からない状況の中、私たちは今までにになくニュースやSNSが気になる日常が続いています。

そんな中、時々印象に残る、新しい視点を提供してくれるメディアとの出会いに恵まれることがあります。2月頃から何度となく目に触れる機会が増えてきたメディアのひとつが米国の老舗メディア『アトランティック(The Atlantic)』です。一つの記事がとても長いので正直今まであまり読む機会は多くはなかったのですが、自分がフォローしている海外の識者のツイッター経由などで多くの人が「must-read(必読)」と言葉を添えて記事をシェア、リツイートすることも多く、意識して読む中でメディアに対する信頼度がとても上がってきた感覚があります。

例えば記憶に残った記事には以下の様なものがあります。2月後半にいち早く新型コロナウィルスに感染する深刻さに警鐘を鳴らし、3月上旬には全てのイベントや通常の生活をキャンセルするなどの「ソーシャル・ディスタンス」の重要性を訴え、3月後半には感染が今後どのように収束しうるか、という点について、医療分野の専門的な知見を踏まえ俯瞰的な理解を促進する内容でした。

【2月24日】You’re Likely to Get the Coronavirus(あなたはコロナウイルスに感染する可能性が高い)〜ほとんどの症例は生命を脅かすものではなく、このことがウイルスを封じ込める歴史的な課題となっています。』

【3月10日】Cancel Everything(すべてをキャンセルしてください)〜社会的距離を保つことがコロナウイルスを防ぐ唯一の方法です。私たちはすぐに始めなければならない』

【3月25日】How the Pandemic Will End(いかにパンデミックが収束するか)〜米国は先進工業国で最悪のCOVID-19の感染を経験するかもしれない。今後はこのように展開するでしょう。』

編集部としても新型コロナ関連の記事に注力することを早期に決断し、医療分野の専門知識を持つ編集者やライターによる良質の無料記事が今も次から次へと公開されています。それぞれの記事がSNS上で数十万から100万回以上のエンゲージメントがあり、英語圏においてはコロナウィルス関連情報の議論をリードするメディアの一つになりつつあります。

感染者数や経済政策についての短期的な日々のニュースの速報というより、専門的な知見を踏まえた質の高いコンテンツを通じて、先見性のある視点を提供している点が際立っているようです。

アトランティックは詩人ラルフ・エマーソンらによって、文芸誌として1857年にボストンで創刊、作家マーク・トウェインの作品も数多く掲載され、外交や経済も扱う中道で硬派な、163年の歴史を持つ老舗評論メディア誌です。2017年7月にスティーブ・ジョブズ氏の妻、ローリーン・パウエル・ジョブズ氏が会長を務める慈善団体(エマーソン・コレクティブ)がアトランティックの経営権を取得し、デジタル化にも大きく舵を切っていることで知られています。

アトランティックの編集長であるジェフリー・ゴールドバーグ(Jeffrey Goldberg)氏が先日明かしたところによると、今年3月には月間8,700万人のユニークビジターを獲得、1億6,800万以上のページビューがあったそうです。さらに昨年9月に有料課金制を始めたばかりにも関わらず、またコロナウィルス関連の記事を無料で提供しているにも関わらず、3月中の4週間で3.6万人以上の新規有料購読者を獲得したそうです(デジタル版の購読料は年間49.99ドル)。

以下はSNS分析サイトBuzzSumoによる過去1年間のアトランティックの掲載記事数(青いグラフ)とエンゲージメント(黒い線)の推移を示しています。1月から3月にかけてエンゲージメント(SNS上のシェア、リツイート、いいね等)が4倍以上にも急増していることが分かります

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今のような未来予測が困難で価値観が大きく変容する時代において、多くの人がアトランティックに求めていることは俯瞰的な未来予想をするための視座、視点なのではないかと思います。硬派で、しかも長い記事が多いですが、今後も意識して読んでいきたいメディアの一つになりそうです。

Photo by Ewan Robertson on Unsplash

参考:メディア業界に特化したポッドキャストRecode Mediaでのアトランティック編集長ジェフリー・ゴールドバーグ氏のインタビュー(4月16日)


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