中国でデジタル人民元の活用例が続々。SDGsでデジタル通貨が活躍か
デジタル人民元の試験運用が開始されてから1年以上が経過し、生活のなかで目にすることも増えてきました。最近ではSDGsの取り組み促進にも活用されている事例まで登場しています。
ツイッターでデジタル人民元の仕組みと経緯を知りたいとのメッセージをもらいました。今回は自分自身への情報整理も含めて、ここまでの発展の経緯と、今後どうなっていくのかについてまとめてみたいと思います。
■デジタル人民元の取り組みをラップアップ
実は、デジタル人民元の取り組みはかなり前から始まっていました。中国の中央銀行でデジタル通貨に関する専門研究チームが設立されたのは2014年です。
デジタル人民元に限らず、中国では仮想通貨の活用も早い段階から盛んに行われていて、2014年にビットコインを使って北京のバーで支払いをしたことを今でも覚えています。(最近仮想通貨は完全禁止の方向ですが、対策が生まれるでしょうから、これについても後日note書きます)
その後、そこまで話題になることはなかったですが、ずーっと研究や実験、検討が行われていて、昨年くらいからデジタル人民元の報道を目にする機会が激増しました。2020年の夏ころから深センや蘇州、北京などでデジタル人民元のテスト運用が実施されていきます。(テスト運用の状況などについては過去にnoteで紹介してきましたのでよかったらお読みください↓)
ボクの住む北京の場合は、2022年の冬季オリンピックに向けて準備が進んでいます。デジタル人民元利用者への抽選(既に2回の大規模抽選を実施)なども行われていて、コロナ感染対策で北京で春節を迎える市民たちへのお年玉抽選キャンペーンでは一人当たり200元分のデジタル人民元を5万人分提供したり、2021年6月には北京市民に向けて一人当たり200元分のデジタル人民元20万人分の抽選が行われました。
今では、北京市内の交通機関や飲食店、ホテル、デパート、映画館など合計約2000箇所で利用できます。
また、2021年3月下旬からは中国の主要な銀行でもアプリ内で「デジタル人民元財布サービス」が次々と開始されました。利用可能な都市では個人が銀行アプリを通じて財布機能の利用申し込みと口座内預金とデジタル人民元との引き換えが可能です。
↑これは中国工商銀行のアプリ内でデジタル財布サービスを利用する画面。すでにインフラとして普及しているアリペイやWechatペイと大差がないUIで、QRを読み取り、提示、他人への送金、デジタル人民元をチャージ、銀行に預金するなどの機能がトップページに表示されている。
利用時もQRコードをスキャンしたりされたり、NFC方式など、消費者側も経営側も他のオンライン決済とあまり変わらない使用感です。
■デジタル人民元活用の事例
なぜ中国がデジタル人民元の普及に取り組んでいるかについては、たくさんのメディアが各々分析しているのでここでは特に網羅的には記載しません。
今でも現金決済が主流??の日本での生活では、デジタル通貨と言われてもあまり実感がないかもしれません。また、日本のメディアやSNSを見ているとデジタル人民元の狙いは人民元が国際化されることやドルとの通貨競争について、また政府による金融監視の強化ばかりが取り上げられているように思います。
一方中国では、生活の利便性を大きく高める可能性が盛んに議論されてます。また、今はまだデジタル人民元のトライアル期間であるにも関わらず、さまざまなサービスへの応用例が出てきています。皆さんは「绿色金融」(グリーンファイナンス)という言葉を聞いたことはありますか?
デリバリーサービス大手の「美団」(シェアバイクも運用しています)と、いくつかの銀行が共同での「デジタル人民元を使って、低炭素サイクリングシーズンを楽しもう」というデジタル人民元パイロットキャンペーン。北京や上海など9つのデジタル人民元テスト地域でキャンペーンに申し込むことができるようになっています。
内容は今のところ、「美団」のデジタル人民元サブウォレットを使って、自転車に乗ったり、自転車クーポンを購入したりすることができます。 その特典として、登録時にデジタルボーナスがもらえたり、毎日のシェアバイクへの乗車でデジタル人民元のキャッシュバック特典が得られるというもの。
美団のシェアバイクは利用者がたくさんいるので、このキャンペーンはデジタル人民元の普及にも大きく貢献すると考えられます。また、より金額が大きくなるデリバリーサービスへの利用にも繋げようとしていることは想像できますね。
そして環境改善について。自転車に乗る人が多少増えたところで...と思われるかもしれませんが、北京や上海など大都市の交通渋滞はとても大きな問題だし、こうした取り組みがみんなの意識改革につながることは大切だと感じています。
■近い未来どんなことになるのか?
中央銀行が発表した「中国数字人民币的研发进展白皮书(デジタル人民元研究開発の進捗状況の発表)」によると、2021年6月30日時点ですでに、卸売・小売、飲食・文化観光、教育・医療、公共交通、政府決済、徴税などの分野をカバーする132万件以上のデジタル人民元のオンライン・オフラインのパイロットシナリオがあるとのことでした。
また、「支付百科」という決算についての専門メディアによると「美団」の試験運用に続くものが次々と準備されているとのこと。なかでも、
・高額通貨の取引シナリオの普及を加速させること
・支払い習慣の育成(ユーザーがデジタル人民元という新しい支払い方法に慣れ、高頻度のやり取りの中で受け入れることができるようにすること
・グリーンファイナンス志向。デジタル支払い手段を「カーボンニュートラル」戦略に組み込むことで、商業者やユーザーが便利で安全な支払い体験をしながら、低炭素排出削減のコンセプトを育成すること
がシナリオとしてあげられていました。
冬季オリンピックまでに次々とデジタル人民元の活用例が出てくることが期待されます。ところで、数年前まではPM2.5で横断歩道の反対側も見れない日もあった北京の空気はだいぶ改善されてきています。中国ではここ最近SDGsの取り組みがたくさんフィーチャーされているし、実際のところのどうなの?ってのは気になります。これもまたの機会に取り上げたいと思います。
(参考資料)