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地域の未来を観光に頼っちゃって大丈夫?

観光産業は税収につながりにくいと言われています。その証拠の一つに、京都市はこれほど多くの観光客が来ているのに、財政ワースト市町村の上位に名を連ねています。しかし、多くの自治体が今後の税収の期待を観光と移住に求めているという現状があります。移住は国内での人の取り合いにすぎないので、どこかが出っ張ればどこかがへっこむだけです。だから国としての頼みの綱は観光になるのですが、それは100年後の未来から振り返って、良いインパクトを生み出すものになるのでしょうか。


観光客の数の競争ではない

次の記事は、「北海道がハワイを超える観光地に」という鼻息が荒いものです。記事によると、北海道観光振興機構の小金澤健司会長は「国内のライバルは京都、国外はハワイ。北海道がハワイを超える日は近い」と語っているとのこと。新型コロナウイルスの感染が拡大する前の年間観光客数は、北海道の836万人に対し、ハワイは約1000万人だったといいます。

正直なところ、観光客数を目標値に掲げること自体、時代遅れさを感じざるを得ません。ライバル視している京都が、これだけオーバーツーリズムの割には税収が上がっていない現状があるのにも関わらず。

ハワイも、観光客数をただ増やせばいいとは思っていません。次の記事では、ハワイが観光のもたらす「経済と文化の対立」を超えるための取り組みについて紹介しています。「島ごとに住民ら様々なステークホルダーと、中立的なモデレーターが加わりながら協議を重ね活動計画を決めた。ハナウマ湾自然保護区では、2021年夏に入場料を12ドルから25ドルに引き上げ、1日に入場できる人数を1400人(10分ごとに40人まで)とした。予約が必須で入場前にはオリエンテーションビデオの視聴を義務付ける。ダイヤモンドヘッドも事前予約制になった。」とのことです。

北海道含め、まだキャパシティのある地域は、「とにかく観光客にきてほしい」という政策を打ちがちです。観光客増大の副作用が出始めてから、はじめて「オーバーツーリズム対策」を始めることになるのでしょう。最初から分かっているのに、どうして短期視点でしか考えられないのでしょうか。

自然資本と文化資本への投資

日本は、四季の自然と文化のすばらしさに加え、これほど小さな国土の中を移動するだけで、まったく異なる地域の表情を楽しむことができます。もともと自然資本、文化資本がとても豊かな国なのです。

それが、電子機器や自動車の二次産業でジャパンアズナンバーワンを経験したため、そのビジネスモデルを忘れられず、「安く大量に売る」ということが良いことだという考えに凝り固まってしまっているのだと思います。それが「観光客数ナンバーワン」をめざす迷走を生み出しているのです。

安易に観光客を増やすのではなく、失ったら二度と取り戻せない「自然資本と文化資本に投資」することが、長期的な戦略の柱となるべきです。

しかし、起きていることは、その逆のことばかりです。次の記事では、観光客だけでなく、海外の観光産業が大きく流入していることが報じられています。「北海道では世界的なスノーリゾートである倶知安町やニセコ町といったニセコ地域の2023年の基準地価が、バブル期の1990年の価格を大きく上回った。背景には外資系企業による開発がある。千歳市も最先端半導体の量産を目指すラピダス進出で地価が上がった。」とあります。

なぜ「持続可能な観光」が必要となったか

「持続可能な観光」(サステナブルツーリズム)という考えが広がった理由から考えてみたいと思います。途上国に先進国のホテルが建ち並び、大勢の観光客が押し寄せ、自然は少しずつ破壊され、汚染も進みました。先進国は経済的に大きな利益を得て、途上国は貧しいままでした。そのような背景から、持続可能な観光が必要だという議論になったのです。

私たちは、先進国の日本で、まさかこれと同じ事態がいま起き始めていることに気づかずにいます。海外の観光客がいま日本に訪れている理由は、もちろん日本の魅力もさることながら、「割安だから」というところにあります。京都の観光産業でも、インバウンド顧客が体験に数万円出してくれるが、国内観光客はほとんどお金を払ってくれないと言われています。これは価値観の違いもあると思いますが、そもそも旅行にかける予算の桁が違うのです。

海外に消費される日本の都市

この先にあるバッドシナリオは、京都や北海道などの人気観光地の土地やホテル、さらには料亭なども、日本人には手の届かない価格になってしまい、外国人の消費地になってしまうということです。観光客が増えればいい、観光でたくさんお金を落としてもらえばいい、海外資本が進出して地価が上がればいいと考えていると、いつの間にか日本は他人の手に渡ってしまうかもしれません。

失ったら二度と取り戻せない「自然資本と文化資本に投資」することを観光庁も、京都市も、北海道も、その他のたくさんの自然と文化をもつ地域も、考えるべきではないでしょうか。

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