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不正が起こりやすい組織の6つの特徴。構造的に人の目を増やす取り組みが必要。

皆さん、こんにちは。今回は「不正が起こりやすい組織」について書かせていただきます。

中古車販売大手ビッグモーターの保険金不正請求問題が連日報道されています。前社長は記者会見で、不正が相次いだ原因としては「従業員への過剰なノルマ」を挙げていましたが、本当にそれだけでしょうか。それ以外にも不正が起こってしまうような要因は複数あったのではないでしょうか。

私たちは、このような問題を他山の石としながら、何を学んでいけば良いのでしょうか。具体的に考えていきます。

ビッグモーターは損害保険会社に保険金を水増し請求していた。金融庁は保険代理店としての同社の実態調査に乗り出した。関係省庁による不正の解明が本格化する。

■不正が起こりやすい組織の特徴

今回の件で、経営陣が現場で蔓延していた不正の実態を把握していなかったなど「内部統制の不備」が明らかになりましたが、このような組織に共通している特徴は大きく以下の6つです。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC257O60V20C23A7000000/
【不正が起こりやすい組織の特徴】

①目標を達成するためには手段を選ばないという価値観が蔓延している
組織の中で、不正を「容認」したり、容認とまではいかなくても「見て見ぬふりをする」状況があると、不正を行っても咎められないと感じ、不正行為を助長してしまうことがあります。また、多少の不正は当たり前であり、業界や企業の常識・慣習であると思い込んでいるパターンもあります。特に、激しい競争がある産業や組織においては、成果を出すためのプレッシャーがかかり、そのプレッシャーから違法行為や不正行為が実行される可能性が高まります。不正を行わざるを得ないと考えることが常態化してしまうのです。

②内部統制が効かず、適切な監査やコントロールが行われていない
社内監査やリスクマネジメントへの姿勢が消極的で、企業内の監視体制が不十分だと不正のリスクが高まります。万が一、不正や不祥事が発生してしまうと、社会的信用は大きく失墜し、経営不振をもたらしかねません。社内外から不正やリスクを指摘する声が上がっても、実態把握のための調査や改善のためのアクションをとらないようなケースは、適切なガバナンス体制を整備・構築できていないと判断されてしまいます。

③組織のモラルが明らかに欠如していて、不正を正当化している
→経営層のモラルの欠如により、倫理的な観点を重視しない意思決定を行う場合は、組織全体にその判断基準が浸透していきます。特に、管理職の危機意識が低く、過去に「特定の不正行為が特に問題視されなかった」というような状況があると、気が付かないうちに従業員(特に権限を持った管理職)が不正行為を黙認したり、助長するような行動に走りやすくなります。不正さえ行えば、目の前の問題が解決するというケースがある場合に、問題解決の優先度が高くなり、良心や不正発覚リスクなどの葛藤を経た上で、不正を「正当化」してしまう可能性は、誰にとっても決してゼロではありません。

④情報の流通が制限されていて、意思決定が不透明な状態になっている
→引用した記事のように、たとえば未上場企業であるがゆえに情報の開示義務がなく、情報の透明性が著しく低いことが、長期間にわたって不正が蔓延してしまった理由の一つだと思います。情報の透明性が低く、なぜそのような意思決定がされたのかなどの説明が一切ないような企業は、情報が遮断され、発見されにくい状態となり、不正が行われやすくなってしまいます。

⑤組織全体に隠ぺい体質があり、悪い情報が経営者や管理職に届かない
→人事評価における減点主義がある場合、または現場で失敗をかばい合い、上司に悪い情報を隠すような傾向がある場合、さらに、「それは報告しなくていいでしょ」というような組織内の同調圧力がある場合には、本来一刻も早く報告すべき重要な情報が経営層や管理職に届かないといった状況が発生します。経営層にまで情報が届いているにも関わらず、見て見ぬふりをしたり、何も手を打たないのであれば目も当てられませんが、多くの場合は「評価が下がる」という理由で失敗を隠そうとするのは現場社員です。悪い情報ほど早期にエスカレーションさせる仕組みが確実に必要です。

⑥不正を行う機会そのものが存在し、少ないリスクで大きな利益を得られる状態にある
→得られる報酬とリスクとのバランスにおいて、仮にローリスクハイリターンな状態がある場合は、不正が起きやすくなります。たとえば「誰にも指摘されず、発覚する可能性が低い」「承認フローが形骸化している」「業務が属人的である」など、不正を行う機会そのものが存在する環境があると、不正が起こりやすくなります。また、リモートワークなどの普及により、上司や同僚の目が細部にまで行き届かない労働環境下において、不正を行う機会そのものが増加していると思った方が良いと思います。逆に大きなリスクを伴う場合は不正が起きにくくなるため、そもそも不正ができない環境を整えることはもちろん、不正行為によってどのようなリスクが生じるのかを、しっかりと社員に対して啓蒙していく必要があります。


つまり、組織の不正が起きにくい状態を構築するためには、「健全な組織文化の醸成」「内部統制の仕組みや体制強化」「倫理的なリーダーシップの育成」「情報の透明性の担保」「隠ぺい体質の徹底排除」「不正機会そのものの撲滅」などに取り組むことが必要になります。

■不正を防止するための2つのポイント

不正を防止するには、

①不正行為そのものを行えない環境を作ること
②不正行為を見逃さない仕組みを導入すること

という2つのポイントが必要になります。前述したように、不正を行う人は、成果や目標、組織からのプレッシャー、または目先の利益などによって、通常の判断ができなくなっているケースが多いです。組織内の啓蒙や注意喚起だけでは不十分のため、不正を行おうとするとシステムによってそれを防ぐなど、属人的な業務フローや承認フローから脱却する必要があります。

また、業務を遂行する上で正当な理由で取得した情報などを不正に利用するケースなどもあります。その場合は、業務を止めることはできないため、監視を強化するか、特定の従業員に業務を集中させずに複数人で対応するなど、相互監視を行える環境を整えることが重要です。

個々人が抱えている状況がブラックボックス化してしまうと、不正が起きやすくなるという仮説を立てると、「人のつながりの密度を上げていく」ことで、不正を防止する確率を上げることができるかもしれません。コーポレート・ガバナンスにおいては、主に経営陣における社内外モニタリングが議論の中心となりますが、現場レベルにおいてもそのような従業員同士のつながりやネットワークを強化することによって、構造的に人の目を増やす取り組みが必要だと思います。

「一つのチーム」「一つの部門」「一つの会社」に目を向けて、内向きな視点や内輪の基準に留まることなく、外にも目を向ける機会を増やしていき、価値観の違いや仕事の進め方の違いを理解し、外部の視点を取り入れることで、不正に対する意識も引き上がっていくのではないでしょうか。

こちらの記事には、

中古車販売大手ビッグモーターが28日、国土交通省の立ち入り検査を受けた。従業員への過大なノルマと達成への圧力が不正を招いたとされる。「日常的に罵倒された」「不正な指示に逆らえない雰囲気だった」。同社の特別調査委員会は経営陣に忖度する「いびつな企業風土」を問題視しており、現場からは組織改革を求める声が上がる。

とあります。不正が起こってしまった原因は、

  • 不合理な目標設定

  • 企業統治の機能不全

  • 組織全体のコンプライアンスへの意識の低さ

  • 経営陣に盲従し、忖度するいびつな企業風土

  • 現場の声を拾い上げようとする意識の欠如

など複数あります。事業を拡大後、市場が変化しても過去のビジネスモデルから脱却できず、拡大路線に固執してしまった結果、高い目標に帳尻を合わせるために不正行為に走ってしまったり、過重労働を強いられてしまったりするのです。

今回の事件で、組織的な関与があったのかどうか本当のところは分かりませんが、このような状況が常態化してしまった理由の一つは、「経営陣の意向に逆らうと降格処分を受けるなどの人事が蔓延した」という、一朝一夕にではなく長い年月をかけて出来上がってきた、不正につながるような「企業風土」そのものにあると思います。この企業風土を根本的に変えていかない限り、悪質な不正行為はゼロにはならないはずです。

■不正からどのように立ち直るか

不正や不祥事が発生すると、株価や業績の低下や、消費者や投資家など企業外のプレイヤー、業界全体へのネガティブな影響が考えられます。さらに、社外からのネガティブな声が大きくなればなるほど、従業員の企業に対する信頼や帰属意識も薄れていきます。一度起こってしまった不正を乗り越えて、健全な状態を構築し直すには、どのようなステップを踏んでいけば良いのでしょうか。

不正が起こった場合にこそ、企業と従業員の密なコミュニケーションや情報のオープン化が必要です。不正そのものだけでなく、不正への具体的な対応を隠したり、穏便に済ませることだけを優先したり、一方的な説明で終わらせてしまうと、従業員の企業に対する不信感は消えないままになってしまいます。本当に組織を根本的に立ち直らせるためには、組織で働く従業員にも真摯に向き合う必要があるのです。その際「これからこの組織は確実に良くなっていく」という希望を従業員が持てるようにしていくことが重要で、それを怠ると離職に歯止めがかからない状況に陥ることは間違いありません。

従業員に対し、

  • 不正が起こった経緯や対応について、しっかりと説明を行う

  • 今後、不正を防止するためにはどうすべきか意見を吸い上げる

  • それ以外に起こりそうな不正行為やリスクを徹底的に洗い出す

  • それらの対策について現場を巻き込んで議論する

というプロセスを踏み、従業員の理解と納得を深めるとともに、コンプライアンス対する当事者意識を引き出すことが重要ではないかと思います。



最後に、不正が起きやすい組織は、必ずしも業績が悪かったり、組織風土が劣悪だったり、労働環境が過酷な、いわゆるブラック企業のような会社ばかりではありません

たとえば、絶好調な時にさらに結果を出せば「昇進や昇格などによって給与が増える」「プロダクトに大きな優位性が生まれる」「全社業績に貢献し評価される」というようなポジティブな状況においても、不正の許容度が高まり、不正行為であると分かりつつ行動に移してしまいがちです。業績が好調で、社員が慢心してしまっている状態の時こそ、驕ることなく気を引き締めていかなければならないと思います。

そして、経営層や管理職は、個人の視野を広げ、市場や事業環境などの機微な「変化」に気づくことが何よりも重要です。過去の栄光にしがみつき、昔の成功事例をそのまま今の時代に当てはめようとしても、自分たちが気づかない間に様々な変化が起こっているのではないかと思うのです。「上り調子で絶好調」という前提でつい数年前まで描いていた事業戦略が、少子高齢化やテクノロジーの進化、または予測不能な様々な外部要因により、いつの間にか拡大路線に固執すること自体がリスクになっているケースも多々あります

「気づかなかった」「知らなかった」では済まされないということを、改めて肝に銘じなければなりません。


#日経COMEMO #NIKKEI

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