個人投資家はトレーディングで本当に投資リターンを出しているのか?〜損失要因をデータから探る〜
ブラックマンデーという言葉が、久々にメディアから聞こえてきました。8月5日の日経平均株価が歴史的な暴落により、過去の株価暴落との比較のために使われました。その値下がり幅だけでなく、その後の値下がり率も歴史的なものとなりました。このコラムを執筆している8月16日現在は、日経平均は3万6千円を回復しており、少しづつ日常を取り戻しつつあります。
とはいえ、新NISAで投資を始めてみた方、私のように昔から投資をしている方も、また暴落が来たら・・とドキドキしている方は少なくないと思います。長期投資はいつかは花開くような言い方がされていますが、全ての資産価格が元の値段に戻るか(=平均回帰性)は研究でも明らかになっておらず確証は持てませんし、やはり投資リターンには頻繁なトレーディングが必要なのではないかといった声も出ています。そこで、今回は、そもそも個人投資家は頻繁なトレーディングで本当に投資で利益を上げているのか、それとも負けているかについて、データから検証した学術研究を紹介します!
なぜ個人投資家のパフォーマンスを計測するのは難しいのか?
個人投資家が実際に投資リターンを生み出しているかどうかは、誰がどのように証券会社に発注を行い、株式を購入しているのかを知る必要があります。しかし、このようなデータは個人情報保護の観点からも、入手は非常に難しいです。なぜなら、投資リターンを生み出したかどうかは、特定の個人に関する長期間の追跡データが必要で、個人名を伏せるための処理も必要であり、証券会社が提供してくれる可能性は小さいからです。しかし、台湾のファイナンス研究者等が、台湾における大規模トレーディングデータを入手したことで、一気に研究が進みました。それが下記の実証研究です。
Brad M. Barber, Yi-Tsung Lee, Yu-Jane Liu, Terrance Odean, "Just How Much Do Individual Investors Lose by Trading?", The Review of Financial Studies, Volume 22, Issue 2, February 2009, Pages 609–632,
個人投資家のトレーディングデータ
これらのデータには、台湾における1995年から1999年までの取引が含まれており、各主体の利益と損失を包括的に説明することが可能となっています。ここでは、個人による取引と、法人、ディーラー、外国人、投資信託の4つの主体に分類されており、個人だけでなく機関投資家の取引を特定することができます。つまり、頻繁な株式売買(トレーディング)によって誰が得をし、誰が損をしたかを分析するのです。各投資家グループの売買を模倣したポートフォリオを構築する。ある投資家グループが購入した銘柄が、違う投資家グループが売却した銘柄を確実にアウトパフォームしていれば、その投資家グループはトレードから利益を得ていることになります。つまり、個人投資家の頻繁トレーディングと、機関投資家の頻繁トレーディングの、投資リターンを比較できるということなんですね。
個人投資家による頻繁トレーディングの成績
そして、結果を見てみると・・
頻繁にトレーディングをしている個人投資家のポートフォリオ全体で、年間3.8%のマイナスパフォーマンスを被っていることが判明しました。しかも、この個人投資家の損失は、台湾の国内総生産の2.2%、個人所得の2.8%に相当するという大規模なものでした。そして、個人投資家の損失はほぼすべて、積極的な注文に起因していることも判明したのです。さらには、この損失の内訳は、トレーディング損失(27%)、手数料(32%)、取引税(34%)、マーケット・タイミングロス(7%)の4つに起因していることも判明したのです。
機関投資家はどうなのか?
一方で、機関投資家による頻繁トレーディングによる成績はどうかというと、平均的に投資リターンを上げているという結果でした。そして、その好成績の要因の大部分は、個人投資家による売買をものにして、利益にしているという辛い現実が・・
この結果をどうみるべきか?
私は、今回の結果から、やはり頻繁に短期売買をするのは、趣味で行う人や、専業投資家で行なっている個人投資家だけがすべきものと痛感しました。だからと言って、長期投資を盲目的に信じるのも学術研究の視点からは違うとは感じています。投資に入れるのは、最低でも5年は使わないお金、そしてポートフォリオの見直しは、半年から1年など、マイルールを決めて投資ばかりを追いかけないことが必要かもしれません。私自身も、しっかり意識しながら資産形成を行いたいと思います!
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
応援いつもありがとうございます!
*冒頭の画像は、崔真淑著「投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本」(大和書房)より抜粋。無断転載はおやめくださいね♪