大型買収がもたらす為替への影響【論点整理】
こうした本邦企業による大規模な対外直接投資が明るみに出ると、為替市場ではそれに付随する円売りの程度が必ず話題になります。海外企業買収に伴う円売り・外貨買いのフローは短期的には円の売り切りですから、その影響が注目されるのは当然です。「短期的には」と付けるのは、中長期的には被買収企業からの配当まで視野に入れる必要があり、第一次所得収支黒字が膨らむためです。要するに投資段階は円売りだが、結果段階である利益は円買いを伴うため、ネットで見ればその影響は相殺されるわけです。
また、そもそも公表されている買収額に関し、どの程度の割合で為替取引が発生し、しかも元手を円とした取引になるのかは分かるものではありませんし、取引が発生する金額や通貨が分かったとしても、それがいつ、どういった頻度で市場に出てくるのかも推測の域を出ません。過去の大型買収案件を見ても、それだけをもって円安効果があったのかどうかは判断が難しいです。
とはいえ、今回の買収金額(約7兆円)は過去2番目の大きさとなった2017年暦年の経常黒字額(21.8兆円)の3分の1に相当します。需給環境への影響はこれまでの案件に比べて段違いに大きい可能性はあるでしょう。最近10余年の増勢の結果、日本の対外リスクテイクの主役は証券投資から直接投資に変わりつつあり、2016年時点の対外純資産の比率で言えば、直接投資が37.6%に対し証券投資が36.8%と逆転しています。やはり縮小する国内市場に限界を感じる本邦企業が多いのでしょう。為替市場への影響という観点からは為替ヘッジ付きのフローが少なくない証券投資に比べて、直接投資は円の売り切り(外貨の買い切り)が基本だとすると、円の需給構造が構造的に円安をもたらしやすくなっている面は否定できないものがあります。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30243700Z00C18A5000000/