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ワイトマンの辞任を考える

ワイトマン独連銀総裁が任期を5年以上残して辞任すると発表した。IMFやドイツ連銀でのキャリアが長く、メルケル首相にとっての懐刀であったこともあり、表舞台に随分長くいた印象があるためか、まだ53歳であることに軽く驚いた。「個人的な理由」「10年以上総裁を務め、心機一転を図ることが連銀にとっても自分にとっても好ましい」という結論がいかにも唐突に見えるため、多少なりとも影響をもたらすかも知れない。三つある。

第一に、金融政策への影響である。辞任は12月31日付。そのため12月の重要な決定事項に関する決議に参加し、将来の資産購入政策に関する決定に関与するであろう。しかしながら、そもそも金融緩和から引き締めへの方向転換を常に促す側にいて、そこへ持ってはいけなかった。信条に合わない金融緩和の継続に辟易したというだけでもなかろうが、タカ派として有名なワイトマンが辞任すれば、タカ派色が薄まることは考えられる。とはいえ、過去からの経緯で、ドイツ連銀総裁は、「どちらかといえばタカ派的な人物」が選ばれる可能性も高いとも言われており、金融政策が勢い変化するとは考え難いのも事実だ。

第二に、気候変動の捉え方に対する影響である。ECBはグリーンQEを考える程積極的だが、それに異を唱えてきた人のひとりがワイトマンであった。ワイトマンはあくまでも中央銀行の使命は物価の安定にあり、市場の中立を尊重する必要がある、としてきた。ラガルドECB総裁は積極的にグリーン政策を取り入れる構えであり、その意味ではワイトマンの去就によりECBがさらに気候変動に傾注する可能性はあるということになる。

第三に、連立協議の交渉材料になりうる。ドイツ連銀総裁は、ドイツ政府によって指名される。社会民主党SPD、緑の党、自由民主党FDPの信号連立による政権が後継者を決めることになるため、連立政党間の交渉材料となる可能性がある。中道左派2党は緩和維持に傾注するため、ワイトマンよりもハト派的な人物を選ぼうとするかも知れない。そうはいえ、大臣などの重要ポストとの駆け引きでいえば、政党間の争いはそちら側にウェイトを置くとは思われる。

「デフレリスクだけに注目せず、将来的なインフレの危険性も見失わないように」ワイトマンのメッセージを予防措置として肝に銘じなければなるまい。インフレを一過性と片づけ続けていいのかどうか。将来金利急騰でバブル崩壊になどなれば、ワイトマンのメッセージが悪い予言になってしまいかねない。

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