新しい大企業が生まれる機が熟しつつある、と捉えてみる
経済的には、あまり明るい見通しのないニュースが続いている。8月の景気動向指数は「悪化」となり、戦後最長の景気回復にもそろそろ終わりがでてくるのではないか、という。
月初に発表された求人倍率も、下げ止まりはしたものの年初の勢いはなく、新規求人は減少している。もちろん、現在の失業率は空前の低さであるが、人口減少のなかでのことであることには留意しておきたい。また、就業者はふえているのに、正社員が減っているという点も、気がかりなところだ。
また、出生数が、予想よりも2年早く年間90万人割れする可能性あり、というのは衝撃的だった。単に年金の支え手が減るという話にとどまらず、人材が輩出される確率の減少や、経済市場としての日本の縮小の加速なども意味するからだ。
こう並べると、あまり明るいニュースがない、と感じるかもしれない。
だが、本当のチャンスはこれからあるのかもしれない。
大企業の早期退職もそうだし、正社員の減少やあるいは若年層の離職の増加で、日本の人材市場の流動化は進んでいると考えられ、有能な人材が大企業に囲い込まれて市場に出てこない、という問題は、少なくても緩和される方向に動いているとみてよいと思う。大企業トップが終身雇用の終わりを口にしたのだから、新卒として就職する人も、よほどそうしたニュースに疎い人でない限り、転職を前提としたキャリアプランを考えるだろう。
また、事業承継の推進もそうだし、起業支援制度の拡充など、行政の新しい(ないしは再生される)企業への支援の動きも整ってきている。スタートアップが一定の市民権をえて、そこに資金を投じるVCやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)も増えた。
こうして、新しい大企業となりうる会社が日本で生まれ育つためのヒト・モノ・カネの条件は、この5年10年で格段に整ってきている、と言っていい。
もちろん、既存の大企業が取り組む自己変革にも期待したい。だが、大きな組織が舵を切るにはどうしても時間がかかる。総論として「今のままでは立ちいかない」という認識はほぼ共有されているように感じるが、各論として自分自身の日々の業務に影響が出るとなると大きな抵抗が生まれるというのは、ごく普通に多くの企業で起きている現象だ。
なかなか思うように見つからない新しい事業の芽を探すよりも、早く帰って、ないしは帰らせて残業代をカットし、「失敗」を避けた方が、個人の業績にも企業全体の収益にもプラスである、という、労使双方が納得できる施策として今の「働き方改革」が作用しているようにも見える。
そのぶん、新たに生まれる小さな企業が活躍できるチャンスは、一層広がってきているのだ、とも言える。
戦後の焼け野原の中で、ほとんどの人が茫然とし、あるいは失意の中にあるときに、精力的に電話をかけ続けて土地を買い、後の西武グループを築いた堤康次郎氏の話が「ミカドの肖像」のなかで紹介されている。ずいぶん前に読んだのだけれど、その部分はなぜか強く印象に残っていて忘れられない。
世界に知られるようになったHONDAやSONYにしても、敗戦直後の経済的には厳しい時期に生まれた企業だ。敗戦という逆境を、それまでのしきたりや常識から自由になれるチャンスとして活かした、という捉え方も出来ると思う。
米中貿易戦争をはじめ世界的な景気動向も含めて当面厳しい状況が続くのかもしれないが、ひょっとすると、そろそろ次の世代の日本の大企業の芽が出る条件が整ってきている、という捉え方もできるのかもしれない。
新しい大企業が生まれる機が熟しつつあるのかもしれない、というよりも、そうだと確信しながら日々を送りたいと思っているし、そういう野心をもった起業家の登場が楽しみだ。
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