春闘賃上げの合格ラインと中小企業の行方
消費冷やす食品高 エンゲル係数最高、日銀は賃上げ注視 - 日本経済新聞 (nikkei.com)
岸田政権は 2021年10月の政権発足以来、デフレ脱却を政権の最優先課題としてきました。
そして、岸田政権発足以前から政府はデフレ脱却の目安として4指標を重視しているとされていますが、直近2023年10-12月期時点では依然として1指標がマイナスとなっています。
具体的には、小売り段階の物価動向を示す①消費者物価指数に加えて、国内付加価値の単価を示す②GDP(国内総生産)デフレーターはプラスとなっています。
しかし、国内経済の需要と供給のバランスを示す④GDPギャップは依然としてマイナスです。
こうしたこともあり、政府は依然としてデフレ脱却宣言はしていません。
特に、1-3月期の経済成長率は3期連続マイナス成長の可能性が高く、脱デフレからは遠のいた格好となっています。
背景には、23年の春闘では30年ぶりの賃上げが実現したにもかかわらず、名目賃金の上昇が芳しくないこと等があります。
従って脱デフレ宣言には、インフレにも耐えうる購買力を確保するためにも、賃金が持続的に物価上昇率を上回って上昇する、すなわち実質賃金がプラスを維持できるかがカギを握っています。
そうした意味では、脱デフレ宣言に向けて最大の注目イベントが今年の春闘となります。
岸田政権は 2024年度の税制改正大綱に賃上げ3%以上と設備投資を行う大企業の法人税を軽減する一方で、賃金と設備投資の伸び率がいずれも不十分な大企業は法人税の優遇措置を停止することを盛り込みました。
また、中小企業も賃上げをすれば税負担を軽減することも打ち出しました。
各経済団体も社会的要請として賃上げを推奨していま。
しかし、今回の春闘に過大な期待は禁物でしょう。
というのも、日経センターが公表する直近のESPフォーキャスト調査(24年2月)によれば、今年の賃上げ率見通しは主要企業ベースで30年ぶりの賃上げ率が実現した昨年3.6%をやや上回る3.9%にとどまっています。
一方、同調査のインフレ率見通しは24年度に+2.2%となっています。
従って、賃上げ率の定期昇給分が1.8%程度とされていることからすれば、エコノミストコンセンサスに基づく名目賃金の代理変数となるベースアップ分は2.1%程度にとどまり、エコノミストコンセンサスの24年度インフレ率2.2%を下回ることになります。
24年度は定額減税が控えており、それを加味すれば実質可処分所得ベースではプラスに転じる可能性が高いものの、純粋な厚労省の毎月勤労統計ベースの実質賃金のデータがプラスになるには主要企業ベースで+4%程度の賃上げ率が必要な状況と言えるでしょう。
つまり、主要企業の春闘賃上げ率が+4%を上回ることになれば、足元まで20カ月以上連続でマイナスを記録している実質賃金は24年度中にプラスに転じる可能性があります。
しかし、総務省の労働力調査によれば、主要企業の多くが含まれる非農林業の雇用者数に占める大企業(従業員500人以上)の割合は上昇傾向にあるものの23年時点で32%弱程度であり、依然として雇用に占める68%以上が中堅・中小企業に属しています。
このため、中小企業の賃上げ率が重要になってくるでしょう。
そして、連合の調査に基づけば、昨年の春闘賃上げ率は全産業ベースで3.6%に対して、中小企業ベースでは3.2%にとどまっています。
もちろん、中小企業の賃上げ率水準も30年ぶりであり、中小企業でも昨年を上回る賃上げ率が期待されます。
しかし、財務省の法人企業統計季報を基に、大企業と中堅・中小企業の労働分配率(=人件費/(人件費+営業利益))を計測すると、大企業は直近23年7-9月期時点で約55%と50年ぶりの低水準まで下がっている一方で、中堅・中小企業でも30年ぶりの水準まで下がっているものの、その水準は依然として約78%と高く、大企業と中小企業の労働分配率格差は過去最高水準に拡大しています。
そうなると、中小企業の経営者は今年も限られた利益の中から大企業を超える割合で給与を捻出しなければならない可能性が高いでしょう。
そして、先の連合の賃上げ率データに基づけば、中小企業の賃上げ率が主要企業に比べて▲0.4ポイント程度低い水準、すなわち+3%台後半程度まで上昇すれば、実質賃金のプラス転換の可能性がより高まるでしょう。
従って、実質賃金が安定的にプラスに転じ、岸田政権が24年度中にデフレ脱却宣言を実現できるか否かは、中小企業の賃上げ率が3%台後半を達成できるか否かにかかっていると言えるでしょう。
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