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カス化するインターネット
テック業界において「enshittification(エンシッティフィケーション、カス化)」という言葉は数年前から注目されている(2023年にはAmerican Dialect Societyによって”今年の単語”に選ばれた)が、改めてXのカス化に伴い、この減少について考え直したい。
この造語は作家でありテック評論家のコリー・ドクトロウ(Cory Doctorow)が提唱したもので、主にプラットフォーム型ビジネスの衰退パターンを指す。この概念は、大手テック企業がユーザーとビジネスパートナーを犠牲にして利益を最大化することで、最終的にそのプラットフォーム自体が機能不全に陥るプロセスを可視化させる。
エンシッティフィケーションは、主に以下の三段階で進行する。第一段階では、プラットフォームはユーザーにとって魅力的なサービスを提供し、利用者を増やす。たとえば、Facebook、Amazon、Googleなどは初期において無料もしくは低コストで利便性の高いサービスを提供し、多くの忠実なユーザーを引き付けることに成功した。第二段階では、プラットフォームがビジネスパートナー(クリエイター、販売者、広告主など)に対して有利な条件を提示し、さらなるエコシステムの成長や拡大を促す。しかし、第三段階では、企業が収益を最大化するためにアルゴリズムを変更したり、広告や手数料の増加させるなどして、ユーザー体験の劣化を招いてしまう。結果として、ユーザーやビジネスパートナーが不満を抱くようになり、最終的にはプラットフォームの価値が低下する。しかし、ユーザーはそのプラットフォームに半ば依存しているため、なかなかプラットフォームから離れることができない。イライラや不満を抱えたまま、(現在の私のように)そのサービスを利用し続けることになるのだ。
この現象の最も象徴的な例が、SNSの変化である。例えばFacebookは初期には家族や友人とつながる場として機能していたが、現在では広告やアルゴリズム変更によって企業コンテンツが優先され、ゴミのようなAIコンテンツで溢れている。同様に、かつてのTwitter(現在のX)も、ユーザーにとってのコミュニティ性や情報環境としての機能が損なわれ、過激なコンテンツばかりが拡散しやすい環境へと変化してしまった。
Amazonもまた、エンシッティフィケーションの典型例として挙げられる。初期のAmazonは低価格かつ迅速な配送で顧客を獲得し、インディペンデント系販売者にとっても魅力的なマーケットプレイスであった。しかし現在では、検索結果における広告の優先表示、プライム会員の特典縮小、販売手数料の増加などにより、消費者の負担が増し、販売者も厳しい条件を強いられるようになっていると言われている。
エンシッティフィケーションの問題は、単なる企業の成長戦略の副産物ではなく、現代のテック業界全体の構造的な問題を浮き彫りにしている。特に、株主利益を最優先するビジネスモデルにおいては、プラットフォームの短期的な収益を高めるために、ユーザーやクリエイターがないがしろにされる傾向が強まる。その結果、ユーザーは代替プラットフォームを求めるが、市場が寡占状態にあるため、他の選択肢が限られているという問題が生じる。
持続可能なプラットフォームの構築には、単なる短期的な利益追求ではなく、ユーザーの信頼を維持し、健全なエコシステムを保つための長期的な視点が不可欠なはずだ。アメリカの若者たち(そもそも若者に限らない)を見ていると、いかにSNSのプラットフォームの変化に私生活やメンタルヘルスが振り回されているかを実感する。Instagramはモノを買わせるためのプラットフォームとしては秀逸だが、意識的にならないとトレンドを追ったり、自分のボディイメージの悪化に簡単に陥ってしまう。
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