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2021年、あなたはどんな旅に行きますか? 〜消費者から探検家になろう

(Photo by Square Lab on Unsplash)

今年はコロナ禍で、観光業界は大きく揺れた。増え続けていた海外観光客が姿を消し、静寂な京都を市民は一時的に取り戻した。同時に、マス観光から分散型観光へのシフトという健全化への兆しも見え始めた。観光という地域を越えた人の動きは、地域経済の柱の一つであることは確かだ。私たちは、日本経済、地方創生、そして豊かな暮らしをつくっていく上で、観光というものをもっと深く考える必要があるだろう。

現代の社会にとって、旅の持つ意味は何だろうか?なんでもネットで手に入る時代に、ガソリンを燃やして移動して、温泉に入ってリラックスする、そんな単なる消費行動なのだろうか。コロナ禍の外出規制、Go Toトラベル、カーボンニュートラル、ワーケーションなど、旅をめぐる話題に事欠かなかった一年をじっくりと振り返り、来年はどんな旅をしようかと考えてみたい。観光の未来をつくるのは、私たち一人ひとりがどんな旅に行きたいと考えるかにかかっているからだ。


観光業界はどうなる?

2020年ほど、観光業界や飲食業界が注目された年はなかったのではないだろう。気分を変えて旅行や食事に行こうと思えば、ホテルもレストランも、オープンして私たちをいつも待っていてくれた。それが当たり前だった。しかしコロナ禍で、その風景は決して当たり前ではなく、消費者が定期的に訪れることによって成立するビジネスモデルに過ぎないことが誰の目にも明らかになった。

次の記事は、人が集まる有名な観光地や名所旧跡よりも、自然や知られていない街などに目を向け、家族や極めて親しい仲間、単身など少人数で旅を楽しむ人が増える傾向があることを指摘している。コロナの流行は期せずして旅を巡る消費行動の変化を加速しただけで、コロナ後も、この変化が元に戻ることは考えにくいと言う。

観光庁は、分散型観光を呼びかける。分散型のきっかけはコロナ禍に過ぎないが、期せずして新しい観光業界のスタンダードになる可能性がある。

消費者行動が変わることで、観光業界は効率を上げることができる。これまで消費者はわがままな存在で、その市場の変化に企業は対応してきた。しかし消費者が協力することで、企業の生産性向上を支援できる。たとえば、空いている平日に宿泊することもその一つだ。時間的に分散することで、定常的に人を雇用することができる。ランチタイムだけにお客さんがくる店は、その時間だけ働くパートを雇うのと一緒だ。

しかし、観光業界を経済のエンジンとしてだけ捉えてしまうのは危険だ。大規模開発、大量集客、マス観光を繰り返すと、地域の手付かずの自然やホンモノの文化などの資源は浪費される。例えば気仙沼市に、大島という小さな島がある。手付かずの自然の残る、何か懐かしさを感じる島だ。昨年、島民にとっては悲願の大橋がつながると、車で多くの人が気軽に訪れられるようになった。彼らが口々に言うのが、ご飯食べるとこ少ないよね、駐車場がないよね、ということ。経済価値が得られるので、地元はこのニーズに応えようとしてしまう。その大きな代償に気付くのは次の世代だ。もし手付かずの自然が、便利な街に塗り替えられていったら。その結果、観光としての魅力すら失う日が来たら。そんなことを想像すると恐ろしい。観光という害虫がこの島を食い潰そうとしているようにしか見えない。

なんのための旅行か

では旅行者の視点で、「旅行のもつ社会インパクト」を考えてみたい。よく言われるのが、「観光で地域にお金を落とすだけでも貢献である」という経済インパクトの話がある。Go Toトラベルでも、もちろんそのような効果は絶大であった。しかし社会インパクトとしては、経済インパクトに加えて、地域の文化へのインパクト、地球環境へのインパクトとのバランスを考慮する必要がある。

経済インパクトは本当か

京都に住んでいると、コロナ禍で渋滞が減った、バスが時間通りに来るなど、いわゆる観光公害の消失はよく話題になる。さぞかし京都は、観光の大きな経済インパクトの恩恵を得てきたことだろうと外からは見える。しかしその実態として、京都市の財政は赤字である。観光産業は利益を稼ぐどころか、オーバーツーリズム(観光客が押し寄せることで地域にネガティブなインパクトが生まれること)によって、余計な社会コストを背負い込むことになっている。そして今度は急に観光がゼロになって、京都市の財政はもっと苦しくなった。

京都市の観光は、この機会に大きな転換が迫られている。観光客が大量に訪れても赤字なのであれば、数を追うことをやめて、質への転換が必要だ。観光客の総量規制も検討しなければならないだろう。そして何より、京都市民にとっての観光、長期滞在して京都の自然や文化を守ろうとする人の比率を増やすなど、「なんのための観光」かを地域全体として考える必要がある。

地球環境へのインパクト

地球環境へのインパクトについては、日本政府は2050年にカーボンニュートラル、つまり使ったCO2と生み出すCO2をバランスさせることを決めている。これに対する、旅行のインパクトは大きい。極端な話、飛行機で札幌や福岡に飛んでラーメンを食べて帰るのは、経済インパクトに比べて地球環境のインパクトが大きすぎる。どうせならば、せっかく大量のCO2を排出して札幌や福岡に行ったのだから、2週間くらいは長期滞在してきたほうがいい。そのうち、炭素税がかかるようになれば、日本人特有の短期旅行は割高なものになるだろう。

地域の文化へのインパクト

それぞれの地域には、その地域特有の文化がある。それは観光資源になっているものにも、なっていないものの中にもある。有名な神社に行くのも文化だし、地域の人の地元料理や日常の暮らしを味わうのも文化である。このようないわゆる「体験」は、インターネット上の各種プラットフォームによって「コンテンツ化」され、アクセスしやすくなってきている。旅行者が地域の日常文化にアクセスすることは、旅行者にとっての楽しみであると同時に、地域の文化の保存に役立つ。

次の記事では、1970年代の旅は今よりもずっと冒険で、宿のない町にも若者が訪ね、そのニーズに応えるために民宿が生まれた経緯なども記されている。そう、旅行者は消費者である前は、探検家だったのだ。地域の文化を発見し、それを発信してきた。

消費者から探検家へ

消費者は、観光業界の顧客である。観光業界の一義的な目的は、利益の追求だ。利益を追求することで自然や文化を浪費してしまうメカニズムをもつ。だから、私たちは観光の消費者になってはいけない。

探検家は、観光業界をツールとして使う。探検家の目的は、美しい自然、豊かな文化を発見し、それを広めることだ。観光によって自然や文化が棄損されることを探検家は望まない。だからこそ、探検家はサステナビリティの視点をもつ必要がある。この地域の未来は、どのように持続可能なのだろうか?私たち旅行者は、そのために何が貢献できるのだろうか?

探検家のもつ問いは、消費者のもつ問いとは真逆だ。消費者はお金を払った分だけのリターンを求める。探検家は、自分が使った労力に対する地域でのインパクトを求める。リターンが自分の利益であるのに対して、インパクトは社会の利益、あるいは次世代の人たちの利益だ。

旅に出よう。分散型旅行とか消費者の使う言葉ではなく、この地球上にある美しいもの、豊かなものを探しに。そして、その自然や文化が持続可能なものになるために、私たちが何ができるかを考えて旅をデザインしよう。それが、探検家としての喜びなのだから。

探検家としての旅の原則

1. 顧客視点:責任ある旅行者として振る舞う
2. 地域視点:地域に関わり、地域の持続可能性に貢献する
3. 企業視点:事業者にインパクトを求める

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