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B2Bマーケティングの成功にはB2Bセールスの科学が欠かせない

顧客と物理的につながれない分、ウェビナーでそれを補おうとする企業。在宅勤務の時間を有効な情報収集に充てようとする利用企業の担当社員。双方のマインドがかみ合ってウェビナーの盛況につながっている。筆者の知り合いのデザイン事務所も今の顧客ためだけでなく、これからの顧客を掘り起こすために活用していると言っていた。


B2Bマーケティングが成功するには?

コロナ禍で、B2Bビジネスのルールは激変しました。そもそも顧客はオフィスに出社しておらず、対面で会えないのですから、変化して当然です。商談はオンライン会議に、展示会はウェビナーに、架電はメールに強制移行となりました。

「こんな劇的に変化してビジネスは上手い具合に回るんかいな」と思っていましたが、人間の「慣れる能力」は凄まじい。始めは手こずったZoom会議も、ウェビナー視聴も、今では当たり前となりました。これを「適者生存」と言うのでしょう。

昔はリアルのイベントで80人も参加すれば「おぉ、すごい!」と思っていましたが、今ではウェビナーの参加者が200人を超えたとしても「ちょっと少ないかな」と焦ります。本当、傲慢な話です。

ただし、コロナ禍でビジネスを取り巻く「現象」は変わっても、「本質」は変わらないと思っています。B2Bマーケティングが成功を収めるには、やるべきことは沢山あれど、デマンドジェネレーションに収斂されると私は考えています。(※B2Bマーケティング自体、様々な意味合いを包容しますが)

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デマンドジェネレーションの説明図、これで良いんだろうか。「漏斗図じゃ無い」って主張する人もいますよね。この記事読んで、いきなりTwitterで殴りかからないで下さいね。ひぃぃ、怖ぃぃ…。

最近読んだ「コトラーのB2Bブランド・マネジメント」の中で、次のような一文がありました。


「新規購買(new task)の状況とは、企業が新しい製品やサービスを必要とする状況である。初回の購買時は経験もないため、そうした購買状況では不確実性やリスクの水準が高まるのが普通だ。新規購買のコストやリスクが大きいほど、購買意思決定に関わる写真が増え、決定に要する時間も長くなる。利用可能な全情報を収集・確認・評価し、最終的に最適解が選択できれば理想的だ。ブランディングは、このプロセスを加速化できるため、時間的に制約がある場合には、とくに重要となる。」

「ITのB2B分野の保守的な意思決定者でさえ、一貫して情緒的なブランド属性を意思決定要因としていたのである。もちろん、製品には信頼性と安全性が必要だ。しかし、合理的な基準を満たしたベンダーの場には、感情的なつながりが決定的な要因となる」


B2Bビジネスにおいてもブランド・マネジメントが必要である点は、B2Bビジネス従事者こそ強く理解しているでしょうし、だからこそB2Bマーケターはブランディングを実践せねばならんとも感じているはずです。

だからと言って、デマンドジェネレーションの構築を後回しにしてでも必要かと言われたら「それは違うのではないか?」と異を唱えます。野球で例えるなら、デマンドジェネレーションは4番打者&エースです。コアです。

したがってB2Bマーケターは何よりも、デマンドジェネレーションの構築を優先するべきだと私は考えます。

ただし、これが難しいんですよ。「やれば良いじゃん」で済む話では無い。過去に何度もデマンドジェネレーションの構築でトラブルを見ました。

1つ目。商談(アポ)さえ作れれば良いのか。すなわちマーケ側(或いはインサイドセールス側)で「とりあえず1回会うだけ、話だけでも聞いて下さい」とDr.ストレッチのような誘い文句で商談の場を無理くり作ったとして、その先に繋がらないのは間違いない。それでも商談1件には違いない。

マーケとセールスの対立の原点は「商談が少ないこと」ではなく「トスされた商談の質が悪いこと」に尽きる気がします。だから「商談が少ない」と感じるのではないか。

2つ目。成約に至らなければ営業の責任なのか。すなわちマーケ側(或いはインサイドセールス側)は売上見込みに至らなかったとして、自分たちのKPIさえ達成できていれば「それは受注率を高められない営業が悪い」と言ってしまっていいのか。

もちろん、いずれも「NO」です。マーケティング部門は商談製造機のみが担当ではありません。セールス部門と手を合わせて受注に至るために、あえてチームに分かれて前工程を担当しているに過ぎません。

「デマンドジェネレーション」よりさらに全体を見通すべきですし、言ってしまえば始めから終わりまで1本の線でつなげるべきです。有り体に言ってしまえば適切なパイプライン管理が求められます。

それこそがB2Bマーケティングが成功を収める鍵だと私は考えます。


デマンドウォーターフォールの実現性

現在勤めているJX通信社にマーケティング職として入社した際、仕事の難易度を社内に知ってもらうために「B2Cはこんにゃく、B2Bは中華料理」と表現しました。

こんにゃくとは素材であり、どうにでも料理できます。和風、中華、洋風何でもありです。B2Cマーケティングもその通りで「決まった型」があるわけでもありません。今はP&Gマフィアの方々の流儀をよく目にしますが「炎の呼吸と水の呼吸、どっちが強い?」議論と同じで「だからファンベースは劣っている」なんて話でもありません。

一方で中華料理とは枠であり型であり、素材は何であれ中華であることだけは決まっています。B2Bマーケティングもその通りで、先人たちの知恵により「リードジェネレーションの手法がもっとも効果的かつ効率的」だと分かっています。「炎の呼吸も水の呼吸もあるけど、日の呼吸から始まってる」みたいな話で、大まかな決まった手順が既にあるのです。

その中でも「ちゃんと勉強せなあかんな」と思い、キャッチアップしているのがデマンドウォーターフォールです。「BtoBマーケティング偏差値UP」で次のように紹介されています。


BtoBマーケティング活動と営業を包含した初めてのモデルで、その後2012年に大きく改訂しました。BtoB企業のマーケティングとセールスを構造化し、名前を付け、それぞれのコンバージョンからマーケティングを実数で設計、評価できるようにした、とても実用的なモデルです。

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デマンドウォーターフォールでは、まずリードジェネレーション活動を、web問い合わせなどのインバウンドとリスト購入や展示会出展などのアウトバンドに分け、そこからナーチャリングとスコアリングを経てMQLとして営業に渡し、その中から営業が受け入れたものがSALとなります。SALと、マーケティング由来ではなく営業が日頃の活動から作った案件SGLの合計を、パイプラインで管理すべきSQLと呼びます。このモデルは階層的で分かりやすく、特に年間のマーケティングプランの作成やキャンペーンの設計や実施する際にとても使いやすいもので、世界中のBtoBマーケティングのスタンダードモデルになっています。


恐らくはB2Bマーケティングに取り組まれている企業であれば、デマンドウォーターフォールをベースにリード生成〜受注まで横断して計画を立てるのは「当たり前」でしょう。

ただし、計画の実行フェーズ中に「想定より売上が不足している」と分かっても、デマンドウォーターフォールを逆流して遡って「どのプロセスで滞留が発生しているか」と解像度高く指摘できるケースを、過去に在籍した企業では遭遇しませんでした。

その理由として、以下2つの理由があるなーと気付きました。


①SQフェーズの「Sales Qualified Leads」が実際には滞留時間が長い。結果、成約に至らない商談(Leads)が増え続けているように見える。

②デマンドウォーターフォールを1本の線で作っても、結局はMQフェーズとSQフェーズで部署が分断されてしまう。


①について、実際にはSQLという大きな括りではなく、営業フェーズが5〜8ぐらいに分かれフェーズによる管理が行われているはずです。それぞれに決まった導入確度に対して見込み受注金額が掛け算され、いわゆる「読み会」が行われているでしょう。

ただし、この「読み会」は「想定受注金額」が分かるだけではダメで(だったらSalesForce等ツールを導入して自動化すれば良い)、相当な「セールスの科学」が必要だと感じています。具体的には期末の目標達成のために、フェーズ4の案件が何ヶ月前までにX件必要で、そのために逆算してフェーズ2の案件が何ヶ月前までにY件必要で…と逆算できるべきです。

フェーズが7〜8つあると、さすがにフェーズ移行率を算出してもバラツキが激しいでしょうから、たぶん2〜3つに収斂させるべきなのでしょう。それでも、そこまで深く潜って科学やってるよ〜という会社はあまり聞きません。

そこまでやった方が良いと感じるのは「X件受注不足」に対して、デマンドウォーターフォールの前工程に遡って「フェーズ4の商談がX件必要」「フェーズ1の新規訪問がY件必要」「架電件数がZ件必要」「予算追加が最低α万円必要」と供給量を変化できるからです。

言い換えると、マーケティング部門は当初立てた目標に固執せず、後工程に準拠して供給量を増減できなければならないと思うのです。商談が多過ぎれば後工程に立つセールスが「フェーズ4の商談を動かさないといけないのに新規商談がいっぱい来る」とリソース配分に苦戦します。

私は「B2Bマーケティングに必要なのはセールスの科学であり、究極的に言ってしまえばトヨタ生産方式の導入」だろうと考えています。最終工程の受注に合わせて前工程は変わらなければならんと思うからです。

ただし、ここで②が引っかかります。マーケとセールスで責任者が分断されている以上、仮に「フェーズ4の件数がX件足りないから、商談をY件増やして欲しい」とセールス責任者が思っても、果たしてマーケ責任者は納得できるでしょうか。

「まずは、営業で何とかして欲しい。セールスのフェーズ1には滞留している商談がいっぱいあるじゃないか(えなりかずき風に)」

こんな会話にならないでしょうか。プロセスが製造ではないので移行率のバラツキは「もう少し操作できるだろう」と思いがちですが、実際にはそう簡単ではありません。ただし、こういう会話になりがちなのは、マーケ側から見れば「単なる数字」になっているからでしょう。血を流した経験が無ければ、どんな歴史もいずれ単なる文字になってしまう問題です。

私自身の思想として、①②の複合要因を解決するには、マーケティングとセールスの責任者は同一にした方が良い、仮にマーケティング側に責任者がいたとしても偉いのはセールス側にした方が良いと考えています。


B2Bマーケの責任者はセールスが良いかもしれない

私が「B2Bマーケの責任者はセールスが良い」と思う理由は、もう1つあります。「商談が少ない」「商談の質をもっと高めて欲しい」なんて会話が飛び交う場面に過去の会社で何度か遭遇しました。そうなると、必ず「Webサイトで商品説明をもっとしっかりとして自社サービスを良く理解した顧客に巡り合いたい」という声が出てきます。

しかし、超バーティカルな展示会やウェビナー以外で獲得したリードから生まれた商談(WEBサイトとか)に、品質を求めるのは難しいと思うのです。私は「商談ガチャ理論」を提唱していて、問い合わせが来るまで「顧客のコントロールはできない(中身は分からない)」と思っています。

つまり、月200件Webサイトから問い合わせ・資料請求があったとして、商談は50件作成できたけど、フェーズ2以降に移行できた商談が5件しか無かった場合に「もうちょっと事前に絞り込めない?」という声は当然起きます。

しかし、それでWebサイトをえっせらおっせら作り込み、問い合わせ・資料請求が月150件に減り、商談は37件作成できたとして、それでもやっぱりフェーズ2以降に移行できた商談は3〜5件と大きく増えない。

質の高い商談のみを作るのは無理で、ある程度の量が(しかも思っている以上の量が)必要なのは間違いないと思うのです。フェーズ3〜4の質を担保する(数合わせで無理やり移行させない)ために、前工程の量の許容が欠かせないと思うのです。

理論と偉そうに言っていますが、単なる経験値です。まだ裏付けが必要だと考えています。こうした経験、私だけでしょうか?

基本的にはInquiry〜Marketing Qualificationフェーズは、物量が物を言う世界なのだと思っています。実際には、意味合いとしては「質より量」ではなく「先に量」に過ぎないのですが。

そうなると、今度は「マーケ側の言い分が正しいよね」と言えるセールス責任者の存在が重要になってきます。だからこそ、B2Bマーケの責任者はセールスが良いと思う次第です。


B2Bマーケティングの成功にはB2Bセールスの科学が欠かせない

まとめます。

B2Bマーケティング(特に重要なデマンドジェネレーション機能の確立)において、何をもって成功とするか。それは商談件数の目標達成ではなく、商談成立件数であり受注金額であるべきです。

そのためには、広告の入稿(入札)〜商談成立(受注)まで1本の線で繋がっているべきです。しかも、机上の計画として「言っていることは分かる」レベルではなく、フェーズ4が不足したら前工程に遡ってチューニングできる必要があります。それが私が目指すべき「セールスの科学」です。

繰り返しになりますが理想はトヨタ生産方式です。以前に以下のようなnoteに書いたのですが、「ザ・ゴール」のような発想も必要になるでしょう。

必要な売上のために、必要な商談を、必要なハウスリードを…と遡るためには横断した管理が必要です。いわゆるパイプライン管理です。マーケ→セールスへ供給量のコントロールができるためにも、いつでも蛇口を開けたり閉めたりできた方が良いでしょう。

そんなことを思いながら、日々仕事しとります。今は一番、科学できている状態かな…と思っています。

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松本健太郎
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