見出し画像

ひと事と思えないトーマス・クック破綻

英国の伝統ある旅行会社のトーマス・クックが破綻した。

自分も子供のころに、欧州の鉄道時刻表を発行する会社の名前として、同社の名前を知った。昨今では、欧州の空港にくると、トーマス・クックの社名が書かれた航空機を見かけることなどから、その存在が引き続き感じられていたのだが、あっけなく178年の歴史の幕を閉じた。

経営破綻の理由は、記事によると、

トーマス・クックは業績悪化の理由について、英国のEU離脱に伴う不透明感で国外旅行を手控える傾向が続いていることを挙げた。大陸欧州での記録的な熱波や、格安なオンライン旅行会社の普及なども背景にあるという。英BBCは、ネットの普及により多くの旅行者が代理店に頼らずに自分で旅行を計画していると分析した。

ということなのだが、旅行業は戦乱をはじめとする政治や、天候不順などの影響を非常に受けやすい産業であり、EU離脱や熱波などといったことは、同社の200年近い歴史からすれば、これまでにも同様の問題は幾度となく経験しているレベルにすぎないはずだ。

やはり、問題の核心は、ネットの普及で、人々の旅行のスタイルが変わり、オンライン旅行会社が台頭するといった時代の変化に対応できていなかったことにあり、ビジネス基盤が脆弱になっていたところに、ちょっとした逆風が吹いたことで一気に崩壊してしまった、と見るべきなのではないか。

そうした破綻の背景を分析した下記の記事を読んでいて、ひと事だと思えなくなってしまった。

高度成長期に我が世の春を謳歌した後、バブル崩壊をきっかけに低迷を続けている日本の姿に、どうしても重なってしまうのだ。

敗戦後の日本は、朝鮮戦争の特需などもあって経済が成長しはじめ、一定の経済力を持った中間層の厚みが消費を支えることや人口の増加も相まって「高度成長」という時期を経験した。

しかし、バブルを頂点として、その崩壊のあとは、出口が見えない状況が続いている。いわば、国全体としての新たな「ビジネスモデル」が見いだせていない。表面的には最高益を出す企業などもあるが、実態としては非正社員の増大や早期退職などをふくめた人件費の抑制や(昨今の働き方改革も、じつはここに寄与している)、諸経費のコスト削減によって生み出されたものが大きく、例えば富士フイルムのようにまったく新たなビジネスモデルによる新たな収益源を生み出した大企業というのは、なくはないが少数派と言える。

そして、この時期はそのまま、インターネットの普及によって世の中が大きく変わった時期に当たる。フロアに数台だったスタンドアロンのパソコンは、モバイルでいつでもつながるかたちで一人一台になり、2000年代には携帯電話も一人一台が当たり前になって、2010年代にはそれがスマートフォンに置き換わった。しかし、今でも諸手続きの窓口では紙の書類に印鑑が必須であったり、FAXがなければ仕事にならないという業界もある。これはデジタルとアナログの二重投資になっていて、余分なコストが発生し続けているのだが、新たな事業を生み出すコストにはシビアでも、こうしたアナログの解消によるコスト削減は長らく手付かずで、ようやく昨今になってDXなどと言われるようになってから重い腰を浮かしはじめたように見える。

幸い、政治の混乱という点では、日本は英国やアメリカ、韓国などにみられるいわゆるポピュリズムの台頭による弊害は、少ないかもしれない。ただ、これはある一面で、その国の中間層が言語のバリアによって鎖国状態にある日本と、そうしたバリアのない英語ネイティブの英米や中間層が必死に英語を身につける韓国との差に起因するのだとしたら、果たしてそれが手放しに喜べる事態であるのかどうかは、一概には言えないところだろう。

こうして、行政の規制とも一体となって、20世紀のビジネススタイルが多分に残されている日本で、今後トーマス・クックのような会社が出てくる恐れは、少なくないのではないかというのが危惧するところだ。

2020年のオリンッピク後が節目になるという話は巷間よく言われることだが、そのタイミングがいつであるかはともあれ、破綻前のトーマス・クックにも似たビジネス環境にある会社は、どう破綻を回避していくのか。延命や先延ばしにするのではなく、今後30年50年、あわよくば100年続く企業となるための方策を取り始めなければ、ちょっとしたきっかけでトーマス・クックのような事態になりかねないのではないか。

そして、そうした企業に勤める個人としては、もし会社に万一のことがあった時にはどうするのか。

そのこたえが簡単に見つかるくらいであればすでに問題は解決しているはずで、企業も個人も「試行錯誤」をしていかなければならない時期にあるのだと思う(すでに、とっくの昔から、ではあるのだが)。それが企業のレベルでは新規事業開発に取り組むこと、取り組める体制をつくることであり、個人のレベルであれば、いわば「個人の新規事業開発」としての副業等へのチャレンジになるのではないだろうか。

トーマス・クック破綻を、日本は他山の石としなければならない。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
川端 康夫(アクティブビジョン株式会社 代表取締役)
アクティブビジョン(株) 代表取締役。大手企業とスタートアップ双方の事業創造・成長のサポートを手がけ、短期的な戦略コンサルティングの後に必要となる、地味な伴走型の戦術コンサルティングを手がける。 http://www.aktivevision.com  tw:@yasuok10