春節の海外の英訳と解釈が中国で大炎上。韓国を許せないネット民たち。文化の理解は難しい
春節連休真最中なこともあり、春節の文化的な話と春節をめぐって起きた国際的な炎上について書きます。
日本のメディアではほとんど取り上げられてなかったですが、歴史とカルチャー、中国と韓国文化バトルに興味がある人は読んでみてください。
テーマは春節を英語に訳す時にどう訳せばいいかの問題についてです。
日本には漢字があってそのまま旧暦春節と訳して全く違和感がないですが、英語の世界になると話が全然変わることに今回の炎上で初めて気づきました。それぞれ主張してることは納得感があるのですが、正解がよくわからないと言っても過言ではないかもしれません。
今回、炎上の中心となったのはBritish MuseumがTwitterでこんなつぶやきをしたことです。
「Korean Lunar New Yearを一緒にお祝いしましょう」的なお知らせで、炎上がやばいことになりすでに削除されました。韓国の観光機関と提携して行ったイベントのお知らせです。
なぜ炎上したかは明らかですね。ちょっと意外だったのはTwitterでは中国人だけでなく、中国以外の人からも批判の嵐でした。すでに削除されたから中国の記事からいくつかのキャプチャーをピックアップして紹介すると
実は中国のネットでは、旧暦新年のことを「Chinese New Year」と訳せばいいか、それとも「Lunar New Year」と訳せばいいかの議論は少なくとも二、三年前からありました。
当時の記憶では、ネットでは急に「Lunar New Year」にすべきだと主張する人が現れ、その理由は、中国だけではなく韓国やベトナム、シンガポールなど中国ではない国もこのお祝いをするから、彼らのことを尊重し、国際的な目線では、「陰暦春節」のことを「Lunar New Year」と訳す方が礼儀正しいということでした。
しかし”Chinese New Year派”は全く納得できなかったです。もともと中国の新年で、他に同じように新年をお祝いする国も、昔は中国の従属国か中国の一部で中華文化に深く影響されている。アメリカやヨーロッパでも現地に行った中国人や華僑が盛大に祝うからこのお祝いが広く知られたのです。その祝いの対象は「Chinese New Year」だから急な“脱・中国”はもはや何か企みがあるのではないかの陰謀論まであります。
そしてその背景には近年、韓国やベトナムの主張への批判があります。中国人から見ると明らかに中国文化であることを自国のものだと主張していることが多発していることへの反感があります。ちょっと敏感な内容なこともあり今までボクのnoteでは深く触れなかったですが、何回か紹介しましたね。このかんざしの回は少し参考になると思います↓
当時の議論はそこまで深くなかったから個人的にはちょっとモヤモヤ感がありました。そして今回の炎上でもう少しことの全貌が見えるようになりました。
■中国オフィシャルな訳し方の変化
ちなみに、中国公式としてはどう訳すことをすすめているのでしょうか。Weiboでまとめてくれる方がいましたのでそのまま引用します。
中国の小学校の英語教科書では春節のことを「Spring Festival」と直訳しています。「Chinese New Year」は英語を使う国由来の言い方で、オフィシャルではないがわかりやすいです。また、古代の東亜では中国にしか暦法がなかったので、朝貢各国が中国から暦法をもらって新年を迎えることから「Chinese New Year」と表現していた。そして「Lunar New Year」は近年から使われる言い方で、包容性があると解釈されています。
■世界の訳し方の変化
かなり以前から、国連事務総長や各国の首脳、民間までが公共の場で中国の春節を祝う時に「Happy Chinese New Year」を使うのが主流でした。
在中国アメリカ大使館のWeiboでも、2019年と2020年の中国語での記載以外では、2021年まで「Happy Chinese New Year」が使われています。
しかし2022年から変わりました。アメリカではアジア系の移民の多い地域では「Happy Chinese New Year」と言うお祝いについて当地の韓国出身とベトナム出身の移民から抗議されたとのこと。同じ新年を祝うのに「Chinese」を使うには失礼だと。そして多様性の尊重という理念の元で民主党政府は「Chinese New Year」の代わりに「Lunar New Year」を使うと決めました。これをきっかけに英語圏の国で広がってきているそうです。
Google Trendによると、アメリカ人の検索現状から見れば、 “Lunar New Year”(青)が、ここ2年間で“Chinese New Year”(赤)を上回っている。
ちなみに、岸田総理からの今年の春節のお祝いの英語の部分は「Happy Lunar New Year」となって大不評です。せっかく漢字があるのにわざわざ英文を追記して、しかも「Lunar New Year」とするのはセンスがなさすぎるのか政治的な意図が込められているのではないかとネット民から批判が。
■中国ネット民の意見
いつもの通り、国が広すぎて人口が多すぎて知識水準に差がありすぎる中国ですので、今回の件への意見はもちろん多様なのですが、大きく以下の意見にまとめられると思います。
・Spring Festivalでいい派
これは一番少ない気がしますが、大昔に教科書でそう教わってきたからそれがいいじゃないですかというのが基本の考えです。外国人がピンと来ないかもしれないですが慣れで慣れるでしょうと。
そして、これについて反対の声も面白かったです。「春節」からの直訳だが、「春節」という言い方自体は1914年ごろの国民政府のネーミングだそうです。それまでは「過年」といい、年を過ぎるということ。国民政府は「春節」(旧暦新年)、「夏節」(端午)、「秋節」(中秋)、「冬節」(冬至)四つのお祝いを改めて命名しようとしましたが、国民があまりにもピンと来なくて、春節だけ改名が成功したとの説があります。つまり「春節」とは歴史の浅い言い方であり、そのまま春の祝日と訳しても外国人からみてよろしくないし、そもそもこの直訳自体も英語訳のレベルが低くイメージが悪いでしょうと不評、というもの。
・Chinese New Year派
一番多い気がします。中国の新年だから当たり前のことだというのは一般的。そして「Lunar」が適切ではないとの主張もたくさんありました。その理由も、Lunarと訳すことが中国の旧暦への理解が足りなくて誤訳にあたるというもの。以下解説してくれていたものを抜粋すると
・Lunar New Year派
これは「Chinese New Year」に比べるとかなり少ない気がしますし、主張もけっこう割れてます。国際的でみんながわかっていていいじゃないですかというのは一つの意見です。また「Lunar New Year」だとしても韓国とは関係ないだろうという意見は多いです。
・どうでもいい派
無関心というよりも、大型連休でネット民もつまらないからまた適当に炎上してる〜的な傍観者目線です。
・Chinese New YearでもLunar New Yearでもいい、韓国だけ許せない派
1番過激な主張ですね。そこは譲りたくない人がボクの周りにもいますw
彼ら(韓国人)が主張してる「lunar new year」だったら、正月は今じゃないから。(lunar暦法であるイスラム暦では2023年7月が正月になります。)
たくさんの投稿を見てる中で1番ツボだった、いいねを集めていた投稿がありました。中国人の気持ちが伝わる「神」の一枚としてシェアしておきます。
中国ネット民が皮肉全開で作ったものだと思いきや、クリスマスにイエスが韓国人であることを主張した韓国人の作品だそうです。でもさすがに韓国人がMerry Koreansmasってすごい言い分だなと。
韓国やベトナムによるcultural appropriationは近年の中国のネットではかなり関心の高い話題だと感じてます。
日本のメディアでもたまに報道されることもありますが、実際の現地ネット民での反響は大きな社会問題と言っても良いレベルで拡散・注目されています。
ちなみにベトナムには中国の人気Youtuberの「李子柒」をまるパクリにする人も出てきていて、ちょっと前にcultural appropriationの一つの例として注目されました。「李子柒」は復活の息吹がありますので、これもまたの機会で紹介したいと思います。
(参考資料)