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中絶、同性婚、参院選前に異例の保守判決が続く世界について考える〜世界史の針が巻き戻るとき〜

世界は歴史の時計の針を戻したがっているのではないか

7月の参議院選挙が近づいているなか、今月は最近立て続けに保守に寄った議論や判決を目にした気がします。

6月14日 男女共同白書の閣議決定 配偶者控除の制度見直し等

男女共同白書の閣議決定されました。白書では、「家族のあり方、働き方が『もはや昭和ではない』にも関わらず、さまざまな政策や制度が高度成長期のまま」だと指摘しています。

その論点の一つ、配偶者控除は税の公平性の観点と控除内に労働を抑制する歪みの問題がありこれまでも検討がなされてきました。95%の人が結婚した昭和の皆婚時代と異なり、共働きや生涯未婚を選択する人が増えています。そうした中で未婚か既婚か共働きか専業主婦(夫)かに関する税を改訂する事は誰かにとっての負担増になり税の公平性から問題ありと先送りとされてきました。例えば配偶者控除を廃止し「夫婦世帯」に対する新たな控除制度を設ける事は結婚している人を優遇するという事になります。

但し、世帯主が基礎控除と配偶者控除を受けさらに配偶者そのものも基礎控除を受けるという3人分の控除とになっている現行の配偶者控除制度そのものが、すでに公平とは言えません。また、多くの夫婦の場合、男性夫の手取り減少を嫌って妻が就労調整を行い、結果として女性の積極的な社会の共同参画が遅れるという問題もあります。

配偶者控除をめぐる様々な課題を整理することができ なければ、増税ありきとの批判も免れない。政府においては、今後も丁寧な議論が求められている。 

「配偶者控除を考える」 参議院財政金融委員会調査室

私は現行の配偶者控除税制の課題はジェンダーギャップ問題であり、選択肢のある未婚者既婚者の間の税の公平性よりも優先して早急に改善されるべきと考えます。

この白書では、もはや平成でもないのに、頑迷に残ろうとする昭和のシステムを明確に報告されました。

6月20日 同性婚認めぬ規定は「合憲」

同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定は、「法の下の平等」などを保障する憲法に反するとして、3組の同性カップルが国に賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁(土井文美裁判長)はこれらの法規定は合憲とする判断を示し、請求を退けました。

私個人としては多様性が尊重されるべきとされる社会において、同性婚もまたそのカップルの法の下の平等も、共に認められるべきだと素朴に思います。

しかしながら土井裁判長は、憲法24条は「両性」や「夫婦」という文言を使っており、男女間の婚姻について定めたものだとして同性婚を想定しておらず、また憲法14条の法の下の平等も、差異は立法裁量の範囲を超えないとして合憲としました。その根拠は、

”そのためにどのような制度が適切であるかの国民的議論が尽くされていない現段階で本件諸規定が立法裁量を逸脱するものとして憲法24条2項に違反するとは認められない。”

2022.6.20 大阪地裁判決文

というものです。日本国憲法も施行から75年経っています。時代に合わせた国民目線での司法判断を行うのが裁判官の仕事であるのに、憲法に「両性」「夫婦」と書いてあり、「国民的議論が尽くされていない」からと「違憲状態にあるとは言えない」と判断を先送りしています。国民的議論とは何か、どの段階で尽くされたと判断するのか、明らかではなく結果として保守の立場は温存されます。

6月24日 米連邦最高裁 人工中絶を禁止の立場へ

アメリカでは人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェード判決」を覆す判断が下されました。

その時の保守派判事が上げた根拠に驚きました。

憲法は中絶について何ら言及しておらず、いかなる憲法条項によっても暗黙に保護されてはいない」

サミュエル・アリート判事

1787年、約250年前に作成され発行したアメリカ合衆国憲法には、技術の進化や社会の進歩の結果、当時は言及されていない内容は多く含みます。そのために、合憲や違憲か、そして改憲かを判断するのが最高裁判所の判事の仕事かと思います。

法に基づいて人を裁く、もしくは憲法上の判断を行う裁判官は良心と論理的思考の持ち主のはずです。その人達が、「議論が尽くされていない」、「憲法に言及されていない」等と全く説得力に欠けるのです。

これらの問題は、最高裁判事の人事をアメリカ大統領や日本は内閣が決める制度になっていることにもあります。司法が行政から完全に独立していないのです。

今月続いたニュースだけでなく、これまでも一般の国民の意識からは離れているようにみえる保守的な制度が温存されてきました。保守の立場の人にとっては、今が変わらなければ良いので延々と議論を続けていればまずは安泰です。

女性宮家の創設と女性天皇

有識者会議が、皇室の安定的存続から、女性宮家の創設と女性天皇を認める意見を述べ、国民の大多数がそれを支持しているなかで、自民党政権は、小泉政権以降、第1次2次安倍政権、菅政権の時も、ひたすら

静かな環境の中で、検討が行われるよう配慮していく必要がある”

皇族数確保について、加藤勝信官房長官2021年10月1日の記者会見

という曖昧な言葉で先送りです。静かな環境とは何か、有識者会議の検討はどう生かされるのか曖昧です。

選択的夫婦別姓

"国民の意識の変化については、国会で評価、判断されることが原則だ。しかし、選択的夫婦別姓の導入が、今そのような状況にあるとはいえず、女性の有業率の上昇など社会の変化と併せて考えても、規定が憲法に反する状態になったとは言いがたい。選択的夫婦別姓の導入をめぐる最近の議論の高まりについてもまずは国会で受け止めるべきで、国会で国民の意見や社会の変化を十分に踏まえ、真摯な議論が行われることを期待する。"

(2021.623.「夫婦同姓は合憲」最高裁大法廷決定、深山・岡村・長嶺裁判官の補足意見)

国民の多くが求める「選択的夫婦別姓」についても、国会で真摯な議論をと、判断を逃げてしまい結果として海外でも類を見ない「強制的夫婦同姓」という世界に類を見ない現行制度の温存がなされています。

すべて、「国民的議論が十分でなく、現時点では憲法に違反しているとまではいえない。様々な課題を整理し丁寧な議論を行っていく。」という論理での先送りです。

そうこういっているうちに、平成という一つの元号の時代も終わってしまいました。

世界史の針が巻き戻るとき


ロシアのプーチンがピョートル大帝の大ロシア主義に心酔して戦争を開始した事を始め、習近平主席は2049年建国100年周年での「偉大なる中華民族の復興の実現」を夢見ていますし、トルコのエルドアン大統領は、偉大なるオスマン帝国の復興とイスラム教のカリフ制の復活と自らの就任を夢見ていると言われています。アメリカでも「古き良きグレートアメリカ」を標榜するトランプ人気は衰えず、2024年の大統領復帰が囁かれています。

インターネットが、人々をつなぎ正しい情報の共有が民主主義を深化させるという当初の幻想は崩れました。インターネットは情報の収集と拡散における単なる拡張装置(アンプリファイア)です。自分に都合の良い情報を集めて拡散したり、政治的に極端な主張に固執したり、反対意見を許容せず攻撃したりする事にも強力な武器になります。スマホとSNSの普及は、政治主張の先鋭化と国民の分断の構造を生み出しています。政治やこれらの過激な民意を集票装置として取り込めばポピュリズムに陥り、司法がその政治に忖度をし始めると三権分立が機能しなくなります。

格差が広がり、豊かさという共通の夢を見ることができなくなって国民は、偉大な祖国とその偉大な国民というナラティブの文脈に生きることを志向し始めます。

私自身は自分が特にリベラルだとは思いませんが、選択的夫婦別姓、女性天皇の容認、同性婚の容認、就労抑制を修正し女性の社会進出を促進する配偶者控除制度の変更、これらは一般市民の感覚でも当然進められべき改革であり、望まない妊娠の中絶は女性にとって守られて当然の権利です。

それらを阻止しようとする力は何なのか、私達が政治に参加する季節、参議院選挙の時期に、その背後の構造と当時者の文脈を良く見定めておく必要があると思います。

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注1: ドイツの哲学者、マルクス・ガブリエルは「世界史の針が巻き戻るとき」という著書のなかで、世界は古き良き19世紀に戻ろうと指摘しています。また、同時にインターネットは反・民主主義的だと鋭く指摘しています。

注2: このnoteでは私が日常感じた違和感から、その背後にどのような構造が潜んでいるのかを推理し、その当事者の文脈を解釈することを試みています。ジャーナリストでも、専門家でもない市民の立場で、報道から何が起きているかのさらに大きな潮流を見定めたいと思っています。報道の各個別テーマについてはプロのジャーナリストが調査報道や領域の専門家による優れた解説の記事を選んで添付していますので、内容を熟読ください。


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