Amazon処方薬は、日本で普及するか
アマゾンジャパンが、オンライン処方薬サービス「Amazonファーマシー」を始めています。
病院などで発行された電子処方箋(紙ではなく、データ化された処方箋)を登録すると、アマゾンに所属する薬剤師などとのオンライン面談のもと、薬が宅配されてきます。
ドラッグストアなどで手に入る市販薬ではなく、医師の処方箋が必要ないわゆる処方薬を宅配するというのが、このサービスのポイントです。
いまほとんどの方は、医師に処方された処方箋を調剤薬局に持ち込み、薬を購入しています。アマゾンの参入によって、この状況が大幅に変わるのでしょうか?
下記の記事において、日本経済新聞の柳瀬和央編集委員は「「影響はあるが、それによる業界の変化は急激ではない」と見立てています。結論から申し上げると、筆者の見立ても同一です。変わるとしても、長い時間がかかり、調剤薬局もすぐには減らないだろうと考えています。(もちろん、例えば薬剤の調剤料が大幅に減額されるなど、診療報酬制度が大幅に変わった場合はその限りではありませんが)
なぜか。記事で指摘されいるものも含め、3つの理由が考えられます。
日本の現行の医療システムにおける調剤を受ける際の「体験」において、患者側に過度に強い不満が蓄積しているわけではない
オンライン処方薬サービスによって恩恵を受けられるケースが限られる
医療機関側に電子処方箋が普及していない
1について
日本の調剤薬局はコンビニ以上の数があり、病院やクリニックのすぐそばに設置されていることがほとんどです(いわゆる「門前薬局」)。
病院やクリニックで診察を受け、処方箋を発行してもらったら、その足で薬局に行って薬を購入すれば、すぐに薬が手に入ります。
人気の薬局であれば少し待ち時間が発生したりするケースもありますが、そこまで多くの人にこのシステムに対する「不満」が蓄積しているかというと、現状ではそこまでではないと考えられます。
処方箋を所得するために「診察を受ける」という手続きが必須であるがゆえに、宅配によって減らせる消費者側の時間的・手続き的なコストが少ないというのが書籍や雑貨と違う点だと言えます。
2について
1を前提に、アマゾンによって恩恵を受けられるケースを考えてみます
2022年の診療報酬改定で「リフィル処方箋」が利用可能になりました。これは高血圧など症状の変動が大きくない病気で医師の合意が得られている場合、複数回使えるタイプの処方箋です。これまでは1回で処方される薬を使い切ると、また医師の診察を受けて新たに発行してもらわなければいけなかったのですが、それを最大3回まで繰り返し使えるということです。
リフィル処方箋を使っている場合、アマゾンに登録してしまえば、処方箋が有効な限りは、薬局に足を運ばなくても処方薬を購入することができます。これは大幅に時間的なコストが節約されるため、利用を選択するユーザーが増えると考えられます。
現状、リフィル処方箋を利用している患者の数は伸び悩んでおり、この普及が進むことが、宅配による処方薬の購入の普及に関わってくると考えられます。
3について
最大の問題は、医療機関側の電子処方箋の普及が進んでいないことです。現在、電子処方箋を導入している医療機関は3%に満たないとされており、国も普及を急ぎますが、医療機関の多くが民営である日本において、医療機関側がメリットを感じていないのに強引に進めることはできません。
もちろんニワトリ卵の関係で、アマゾン処方薬のサービスが伸びることで、電子処方箋の導入圧力が医療機関側に高まることも考えられます。しかしマイナ保険証の読み取り端末すら導入に反対の声が上がる日本の医療界において、急速に電子処方箋が拡大するかというと、あまり強い期待はできないというのが筆者の印象です。