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エンゲージメントのある観光を目指そう

今年は「リベンジ旅行」の波に乗って、新しい目的地を開拓しています。夏の国内旅行では、しっぽり温泉の由布院に続き自然「一択」の西表島という、まったく性格が異なる二つの観光地を訪れました。

これらの人気観光地に共通していえるのは、コロナいったんの終焉と共にオーバーツーリズムが再燃していることです。国内に限らず、環境や観光地の魅力に深刻な影響を与える「成功のつけ」ともいえるオーバーツーリズムに、観光地側と観光客側はそれぞれどのように対処すれば良いのでしょうか?

二つの旅を終えて考える解は、私たち旅行者が訪れる土地と心理的に深い関わり-エンゲージメント-を持つ機会を増やすことです。

取りあえず一回行ってみたい、映える写真やビデオをソーシャルメディアに載せたいというだけの欲求で「一見さん」的な客が増えると、旅は刹那的になり、オーバーツーリズムのわなにはまってしまいます。例えば風情ある由布院でも、「まるで竹下通り」と地元のひとが描写する繁華街があります。また、やまねこ保護のために厳しい速度制限がある西表島でも、短時間で観光地を回るために猛スピードで走るバスが常態化していたそうです。

反対に、固有の事情や歴史を理解し、表層にとどまらない関わり方を心がける場合、自然と土地やひとびとに対する尊敬が芽生え、自然と滞在期間は長くなるでしょう。由布院は歴史を持つ映画祭や音楽祭があり、西表島ではアドベンチャーツーリズムはもちろん、戦後まで運営されていた炭鉱跡があり、八重山諸島に残る戦争の爪痕を勉強することもできます。

長期的なサステナビリティを優先すれば、大量の一見さんよりも「本当に分かってくれる」エンゲージメントのあるリピート客を獲得するほうが、観光地にとって正しい戦略なのではないかと思われます。

そのため、観光地が積極的にできることはストーリー発信と仲間づくりではないでしょうか?ストーリーとは、その観光地が長期的に何を訴えたいのか―文化資産や自然遺産-を分かりやすく打ち出したものです。この文脈を観光地側が作って伝えないと、旅行者側が勝手な解釈をしたり、表層的な理解にとどまったりするばかりで、エンゲージメントは深まりません。

仲間づくりというのは、同じ観光地を盛り立てるために、たとえ「競合」であっても一緒に働くという態度を指します。これは、実は観光業界では慣習的に難しいということを由布院の旅行で教わりました。例えば、旅館同士がご飯のレシピを共有してお互いに学ぶということは、「お互い手の内は明かさない」という風習を破ることになります。由布院では例外的に、先駆者たちの努力により根付いているそうです。このようにサービス提供側が協力できれば、パイの取り合いからパイ自体の面積を増やすことにつながるでしょう。

もちろん、私たち旅行者側の意識を上げることも大切です。一人一人がどのようにより良い旅行者となれるのか、考える余地がありそうです。

別府の奥座敷と位置付けられる地の利が悪い由布院にしても、島全体が植物と動物、昆虫のパラダイスのように開墾されている西表島に隣接する小さな由布島にしても、最初から目立ったストーリーがあったわけではなく、少数の先駆者たちが観光地化に人生を賭けて作り上げた資産です。これからの日本の観光では、すい星のように現れる先駆者タイプに期待をするのではなく、システマチックに、仲間と共に、エンゲージメントの深い観光地を作ることが必要でしょう。

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