利益だけ追求と社会的責任
日経電子版で1月1日にスタートした新連載「逆境の資本主義」。第6回のテーマは「利益追求」です。多くの企業が信じてきた「ROE(株主資本利益率)神話」が揺らぎ、それだけでは経営が立ちゆかなくなっているという話です。何が起きているのでしょうか。
ROEとは
「Return On Equity」の略語で、企業が株主から預かった資本をどのくらい効率的に使って稼いでいるかを示す。より少ない資本で多くの利益を稼けば稼ぐほどROEは高まる。株式投資家が重視する指標のひとつで、ROEが高まると、株価も上昇する傾向にある(2019/5/23付きょうのことば)
米経済学者ミルトン・フリードマンが1962年の著書「資本主義と自由」で「株主のための利益追求」が資本主義における企業の責務だと主張しました。この考えが米国などで広がり、株主のためにいかに稼いだかを示すROEが重視されるようになったようです。
記事では、行き過ぎた事例として米カリフォルニア州の電力・ガス大手、PG&Eを紹介しています。コスト削減効果でROE(株主資本利益率)は17年に一時10%を超えました。ただ、同社は設備の老朽化から大規模な山火事と大停電の発生を繰り返していました。ROEだけみると評価できる一方、環境破壊につながった企業活動は褒められるものではありません。ROEを重視しすぎた結果、経営が行き詰まりました。同社は経営破綻し、再建途上にあります。詳しくは記事をお読みください。
環境問題は、もう何年も叫ばれている課題です。就職活動になれば、環境レポートを学生に熱心に伝え「いい会社」をアピールする企業の姿がみられます。ただ、企業の環境への取り組みは十分なのでしょうか。現実問題として、温暖化は以前よりも身近に感じられるようになってしまいました。今冬も雪が極端に少ないといった理由から、息子の新潟スキー教室が中止になりました。昨年の台風19号による豪雨災害も記憶に新しいところです。すべてが温暖化の影響かどうかはわかりませんが、気候が狂い始めていることを感じます。昨年9月の気候行動サミットにおけるスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんの登壇はメディアで大きく取り上げられ、世界的に環境配慮への意識が高まりました。
「ROE神話」が揺らぐ中、企業は何を目指すべきなのでしょうか。ROEを超え、新たな公式を模索する動きもあります。海外では、環境や社会に与える影響を示す新たな会計基準を作り出す動きがでています。株主の利益よりも地域社会や環境などの公益を優先する企業に認証を与える仕組みも始まっています。
「企業の使命が利益を稼ぐこと」は変わりません。利益を稼ぎながら、環境保護への投資や従業員への還元といった社会的責任をどう果たしていくのか。世界中の企業が突きつけられた課題です。
資本主義についてイチから理解したい人は、こちらから解説アニメーションをご覧になれます。
(デジタル編成ユニット 島田貴司)