「テレワーク環境下の防災対策」はこれから真剣に語らないとマズい
政府は25日、新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言で、残る東京など5都道県を解除する。専門家による基本的対処方針等諮問委員会は同日午前、解除を「妥当だ」として了承した。同日夜に開く政府対策本部で正式決定する。4月7日に発令した宣言は全面解除となる。
晴れて緊急事態宣言が解除されましたが、それは「新型コロナが発生した以前の働き方に戻る」といった意味ではありません。
もちろん長い時間をかけて元に戻る可能性もありますが、1〜2年の間は「警戒しながらも経済活動を回していく」フェーズとなります。すなわち自粛解除で「テレワークが一切不要になる」わけもなく、引き続き、テレワークが可能な職業・職種は継続が求められます。
ご存知の方もおられるでしょうが、厚生労働省では16年4月に「テレワーク導入ための労務管理等Q&A集」を公開しており、非常に参考になります。
【テレワーク導入ための労務管理等Q&A集】(PDF)
https://work-holiday.mhlw.go.jp/material/pdf/category7/02.pdf
労務管理者はこうした資料を元に、社内の規程を慌ててアップデートしているはずです。
さて、今回はこれらの資料をベースにしながら「テレワーク環境下における労務管理」についてお話します。
テレワーク環境下でも「労働災害」は起きる
PDFでも注意深く読んだのは「Q3-4:テレワーク時にも労災保険は適用されますか?」です。こんなことでも業務災害になるのか、と驚きました。
そもそも業務災害とは、以下2点が認められる場合に限ります。
①業務遂行性:労働者が労働契約に基づいた事業主の支配下にある状態において発生した事故による負傷・死亡であること
②業務起因性:業務と負傷・死亡との間に一定の因果関係があること
テレワーク中の事故は、「オフィスに居なかった」としても「業務中」かつ「業務に関係する」なら業務災害となります。転倒した事案については、引用の通り業務災害の条件に合致します。
基本的には「怪我しないように気をつけよう」なのですが、個人の意識では解決できなくて、かつテレワーク環境だからこそ考えないといけない問題があります。
それは「災害」です。巨大地震、土砂崩れ、豪雨、大規模な火災…これらはいくら本人が注意しても、気をつけて何とかなるものではありません。
多くの労務管理担当者が、大慌てで対応しているのが「防災対策」です。職場が「自宅」にまで拡張された今、新たな防災対策が必要なのです。
もし台風による豪雨に巻き込まれたら?
思い返せば、2019年は気象災害が尋常なく多い年でした。日本全体がスッポリ埋まった東日本台風では、2019年10月12日(土)〜13日(日)にかけて日本列島を横断し、死者86人、負傷者476人、行方不明者3人と大変な被害をもたらしました。
列島全体が甚大な被害を受けたため、政府は激甚災害、特定非常災害、大規模災害復興法の非常災害の適用を行いました。災害救助法適用自治体は19年11月1日時点で14都県390市区町村もあり、東日本大震災を超えたほどです。
皆さんは、各地の河川が氾濫したことを覚えていますか。
その結果、全国で床下・床上浸水が発生したことを覚えていますか。
このような大規模な台風が平日昼間、テレワーク環境下の従業員を襲ったと仮定してみましょう。ここで問題です。
Q.「自分は大丈夫だろう」と自宅で仕事をしていたので、避難所・福祉避難所に避難しなかった従業員がいる。その結果、自宅が氾濫や土石流に巻き込まれて事故に遭遇した。これは「業務災害」になるか?
先ほどの【テレワーク中の事故は、「オフィスに居なかった」としても「業務中」かつ「業務に関係する」なら業務災害となります】を思い出してください。この条件に照らせば「業務災害」になりそうです。
ここで注目すべきは「なぜ避難しなかったか?」です。
「①自治体から避難指示が出ている」「②会社から業務を止めて避難指示に従う連絡が届いている」なら「業務遂行性・業務起因性は低い」と判断される可能性が極めて高いです。
言い換えれば「会社から業務を止めるよう連絡できていない」ならば「業務遂行性・業務起因性」に照らして「業務災害」になる可能性があります。さらに言えば「今日中にタスクを片付けて欲しい」と指示が出ており、仕事せざる得ない環境下だったら「業務災害」の可能性はさらに高まります。
A.労働者に対して、避難の選択肢を与えていなければ「業務災害」になる可能性が高い。
この回答について、社労士の方に念のための裏付けを取っています。実は違うのではないか?とする意見もあると思っていて、ぜひSNS上で意見交換できればと感じています。
「各個人の判断に委ねる」は許されるか?
テレワークであっても、企業は、働いている人たちに対して安全配慮義務を負います。災害が発生した場合には、彼ら彼女らの生命・身体の安全のために一定の措置を講ずることが求められます。
「東日本台風ほどの巨大な台風であれば、うちの会社はさすがに大丈夫」
なんて声が聞こえてきますが、本当でしょうか。もう1度、あの日を思い返してください。あの台風は、金曜〜日曜にかけて日本列島を通下しました。そもそも電車など交通手段は計画運休で動きませんでした。確かに「出社」はできませんでした。
ただし、私が問うてるのはテレワーク環境下にある従業員に「業務の停止命令が出せるか?」「避難指示に従う連絡が出せるか?」の2点です。
大雨で外も出歩けない平日、家の中であれば安心だろうと「仕事」はできてしまいます。本当に「今すぐ仕事を止めて、避難所に避難して下さい」と、皆さんの会社は通達してくれるでしょうか?
①各従業員の個別の住所単位の災害状況なんて、物理的に把握できない
②正直、各従業員が個別で判断して欲しい
③従業員から大丈夫かどうか報告してくれればそれで良い
会社としては(意思決定権者としては)、このあたりが「本音」でしょう。
加えて、労務関係の法律に詳しい方からすると、企業は安全配慮義務を負いますが、使用者の支配下で業務をしているものの実際には使用者の管理下を離れているため、災害に際しての適切な指示の義務については限定的になるのではないか…と思われたのではないでしょうか。
「自己判断で動いてくれ」「そこまでの責任は負えない」といった声も聞こえてきそうです。
ただ、私個人の意見として、災害時における「個人の判断」ほど当てにならないものは無いと考えています。東日本台風でも、氾濫している多摩川の脇道をランナーが通過して「あいつはいったい何をしているんだ?」と大問題になりました。「正常性バイアス」なんですね。
■正常性バイアス(Normalcy bias)
なんらかの被害が予想される状況に陥っても、正常な日常生活の枠組みの中で解釈してしまい、事実を認めず都合の悪い情報を無視する傾向。自分の持っている知識にしがみついて「まだ大丈夫」だとリスクを過小評価してしまいがち。
少し古い話かもしれませんが、正常性バイアスとして思い浮かぶのが昭和57年に発生した長崎大水害です。
昭和57年7月23日から翌24日にかけて長崎県長崎市で発生した集中豪雨は、1時間187ミリ(日本における時間雨量の歴代最高記録)もの雨量を観測しました。
内閣府防災情報のページでは、当時の記録が残されています。正常性バイアスを理解する上で、かなり参考になります。
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/houkokusho/hukkousesaku/saigaitaiou/output_html_1/case198201.html
http://www.bousai.go.jp/kyoiku/kyokun/kyoukunnokeishou/rep/1982_nagasaki_gouu/pdf/1982--nagasakiGOUU_07_chap3.pdf
23日午後5時前には洪水警報が出たものの、連日の大雨の影響で、地元民からは「またか」程度に受け止められてしまいました。その影響もあって、午後9時を過ぎても避難した住人はわずか13%ほどでした。
結局、危険地域住民の大半が避難しなかったため、大勢が土砂災害等に巻き込まれてしまいました。死者・行方不明者は299名を数えましたが、そのうち262名が土石流や崖崩れに巻き込まれた方々だったそうです。
避難しなかった人々への聞き取り調査で「避難の指示を受け取った人の避難率は27%」「避難の指示を受け取らなかった人の避難率は12%」だと分かっています。しかも避難の決め手は「指示」ではなく「実際に水嵩が増えてきた」「自分や家族の身が危険になった」「自宅が浸水して居場所がなくなった」が上位回答でした。
避難しなかった人の理由の上位は「家にいても大丈夫だろうと思った」「雨が激しくて外に出られなかった」とタイミングを逸していたことが分かっています。
「住民は浸水が大きい場合には、避難危険説をとって避難せず、逆に浸水が小さければ自宅安全説をとって避難しないのである。また、身の安全を感じない場合には自宅安全説をとって避難せず、逆に情動的反応が強い場合にも避難期建設をとって避難しないのである」(東京大学新聞研究所より)
つまり正常性バイアスだけでなく、現状維持バイアスも働いて「大丈夫」とする想いが強くなり、大半が避難という行動に移せませんでした。
もちろん「従業員から大丈夫かどうか報告して貰う」べきとは思いますが、それだけで「はい、安全確認できましたからOK!」で済まないでしょう。長崎大水害の例にもあるように、本人の正常性バイアス・現状維持バイアスが働いて、逃げ遅れてしまい、最悪死に至るケースもあるのです。
「そこまで会社がするべきなのか?」
とする疑問に関して言えば「逃げ遅れて従業員が災害に逢うよりマシではないですか?」「テレワーク中の防災対策ってそういうこと考えないといけないですよね?」に尽きます。
オフィスで働いていた時も、避難訓練やってましたよね。要は、あれのテレワーク版をやりましょう、って話です。
東日本大震災では、大地震の後に津波に飲み込まれてしまった被害者の親族の方々が、避難指示を出した(あるいは出さなかった)組織に対する安全配慮義務違反で裁判を起こしています。様々な判決が出ていて、全てに私自身がまだ目を通せていないのですが、間違いないのは「その時分かっている最善を尽くしたか」が問われています。
今はソーシャル防災など様々な防災サービスが登場していて「現場で起きている事象を直ぐに検知できる仕組み」が整ってきています。そうした仕組みを活用するのも1つの手段です。例えば弊社のプロダクトもソーシャル防災サービスです。
なんだか2019年のM-1でご自身のCDをいきなり持ち出した上沼恵美子さんみたいになっていますが、時代は進化して、ラジオよりもテレビよりもネットメディアよりも早く検知できる仕組みがあるのです。
月々たった数万円支払うだけで、テレワーク環境下にある従業員の命を救う可能性があるアラートを発信できるのです。今年の防災対策に向けて、新たに検討すべきではないでしょうか。
改めて問います。
①今の社内の防災対策は完璧でしょうか?
②テレワーク環境下においても、今の社内の防災対策は完璧でしょうか?
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