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なぜ今、「遠心力と求心力」なのか

今年、3年ぶりに開催するローンディールフォーラムというイベントを開催します。そして今回はテーマを「企業の遠心力と求心力」と設定しました。なぜ、このようなテーマに設定したのか、今日はそんな話をしてみたいと思います。

ちなみに、ローンディールフォーラムというイベントは、私たちが事業活動を通じて見えてきたものを社会に還元することを目的として開催してきました。まぁ社会に還元なんておこがましい話ではありますが、少し変わった(一応、先進的と評していただくこともある)事業をやっているものとして、私たちの知見を共有することには意味があると思うのです。

さらに、こういう場をつくることで、普段はあまりお話を伺うことのできない素敵なゲストの方々をお招きし、お考えを聞いたり議論をしたりすることができます。これまでも、このローンディールフォーラムの場でゲストの方々からいただいた言葉は、私たちの事業に大きな影響を与えてきました。そう考えると、今年はどんな言葉が私たちの胸に刻まれていくのか、今からとてもワクワクしています。

と・・・前置きが長くなりましたが、なぜ「遠心力と求心力」がテーマなのか。本編に入って参りたいと思います。

遠心力が強まった背景

そもそも、遠心力とは何か。ネットで検索すると「中心から遠ざかろうとする力」と説明があります。企業という場所を中心と考えると、今、そこから遠ざかろうとする力が強まっています。例えば、副業・兼業の話や、私たちの取り組む「レンタル移籍*」のように社外を使って人材を育成する取り組み(越境学習)はこれに該当します。もしくはリモートワークの普及なども物理的に会社から遠ざかるということになります。
*レンタル移籍:大企業の人材が一定期間ベンチャー企業で働く仕組み

では今、遠心力を強める動きが加速した背景には何があるのでしょう。

そこには、個人と企業双方にとって社外に目を向ける必要性が増したということがあります。まず、個人に関していえば、人生100年と言われ、ひとつの企業で働くだけではどうやら人生は終われないらしいという認識が広がりました。加えてコロナ禍によって強制的に場所としての会社の存在が薄れました。そのような中で、「自分は何のために働くのか」「この先、何をするのか」といったことを考える機会が増え、自ずと会社の外に興味が向くようになっているのではないかと思うのです。

企業に関していえば、イノベーションを起こすという至上命題があります。イノベーション創出ということに対して、企業は常に試行錯誤をしているわけですが、どうにも内側からは起こらなくなってしまった。だから、その解決策として遠心力を活用していこうという機運が高まっているわけです。具体的には「知の探索」と呼ばれるものがこれにあたり、具体的な取り組みとしては「オープンイノベーション」に向けた活動であったり、最近では「カーブアウト」「出向起業」に注目が集まるなど、企業が社外との接続によって新結合を起こそうとする動きは年々多様化しています。

しかし、この遠心力の強まりには、副作用もあります。米国で「大退職時代(グレート・リジグネーション)」といわれる現象が起きていますし、日本の大手企業の方とお話をしていても「人材がどんどん辞めていく」という話題が増えています。これまで転職という選択肢を一切考えなかった人でも、上記に紹介したような個人・企業双方の動きから社外との接点が増えれば、一定の割合で外に出ていってしまうのは必定です。

人的資本経営は求心力

一方で、求心力についてはどのような動きがあるでしょうか。求心力、つまり中心に向かっていく力です。多くの企業が「パーパス」の発信を強化しはじめたことは、その象徴的な動きかもしれません。環境や格差など社会課題が大きくなっていく中で、課題解決に対して企業が果たす役割に注目が集まっています。そのような背景で、自社の存在意義をどのように定義し表明するかが事業活動のみならず人材獲得にも影響を及ぼします。かつて株主至上主義の時代には、時価総額やROEこそが重要な求心力であったかもしれませんが、より多くのステークホルダーに対して求心力を生み出さなくなっているのです。そして特に、社員に対する求心力を強めることが喫緊の課題となっているのではないかと思うのです。

このように考えると、最近注目を集めている「人的資本経営」という考え方も、求心力を強めるための打ち手として捉えることができるかもしれません。人材こそが競争力の源泉であると認識し、個の力を強化するために投資をしていく人材戦略が重要。そしてそれを、経営戦略と接続していくプロセスを通じて求心力を強めていくという取り組み、とみなすことができます。

ここでひとつ思うのは、求心力を強める動きが、単に内向的な組織をつくるということになってはいけない、ということです。先に述べたように、外を見せると、つまり遠心力を強めると人が辞めてしまうから、それを止めて社員を囲い込むような形で求心力を強めようとしてはいけないのだと思うのです。

例えば従来の年功序列という仕組みは、年齢が上がるほど待遇が良くなるという点で長期的に企業に個人を縛り付ける形での求心力であったといえます。しかし、多くの企業が変革を求められている今、そのようなやり方では、結果的にイノベーションが起こらず、企業の存在自体を揺るがしかねません。

つまり、「遠心力と求心力」は二項対立的に捉えるもの(綱引きをして打ち消し合うもの)ではなく、その相互作用によって企業の持つエネルギーを増幅させるもの、というのが理想的な状態だと考えます。では、果たしてそのように両立させることは可能なのでしょうか?

レンタル移籍で起こっていること

例えば、私たちの行っている「レンタル移籍」という事業は、大企業の人材にベンチャー企業で働く機会を提供するという仕組みです。これは一見すると遠心力を強める仕掛けのように見えますが、復帰して元の企業で活躍してもらうことが前提になっています。そして、企業からの評価として「ベンチャー企業を見たことによって、自社へのエンゲージメントが高まっている」というコメントをいただくことがあります。

つまり、社外を見ることによってイノベーションに資する知見を獲得し、かつそれを自組織に活かそうという想いを強くして戻ってくるということです。そして実際にそこから、新規事業が立ち上がったり、既存事業の変革が実現したりという具体的な成果に繋がりはじめています。このように、少しずつではありますが、「レンタル移籍」を通じた遠心力と求心力の相乗効果が実現しつつあるのです。

私たちはこのような具体的な事例を見てきたので、「遠心力と求心力は両立し、その相互作用によって企業のエネルギーを増幅させられる」ということを実感しています。
(「ローンディールフォーラム」の第一部では、その辺りの具体的な事例として皆様にも共有してまいります。)

しかし、残念ながらレンタル移籍によって起こせる変化はまだまだ限定的です。もっといろいろなアプローチがあるはず・・・。それが今回のフォーラムの背景にありました。

遠心力と求心力のあるべき関係性とは

改めて私たちの問いを整理すると、遠心力と求心力の相互作用を起こすにはどうすれば良いのか、ということです。

冒頭に記載したように、遠心力が強まっていくことは不可逆だと思われます。そのことを前提に、遠心力の強まりを求心力の強化にも繋げていく方法はあるのでしょうか。もしくは、遠心力と求心力を同時に高めるような打ち手はあるのでしょうか。

これが、今、企業が考えるべきテーマなのだと思うのです。

ですから、今回のフォーラムの第二部では、大企業の役員の方々をお招きして、まさに経営に携わる皆様がこのテーマについてどのような見解をお持ちなのか、お考えをお聞きしたいと思っています。

そして第三部では、DeNAの南場会長・早稲田大学ビジネススクールの入山教授のお考えを聞きながら、視座を高め、思考を広げていきたい。さらには、そうやって遠心力と求心力が高まった先に、どのような未来が待っているのか。そんなお話しも、お聞きしてみたいな、と。

このようなセッションを通じて、遠心力と求心力の相互作用に関する方法論を、ご参加いただく皆様と一緒に考えてまいります。

どのような施策が考えうるのか、具体的に変化を起こしていくために、企業で働く私たち一人ひとりはどのように行動していけば良いのか。組織や働き方を考えるとき、問題点の指摘や自己否定に終わってしまう事が多いような気がしています。できれば、参加してくださった皆さんが、「自分はこうやってみよう!」「これならできるかも!」というような希望を持ち帰っていただけるような場になれば良いなと願いながら、準備を進めています。

以上、長くなってしまいましたが、ローンディールフォーラムで「遠心力と求心力」をテーマとした背景についてご紹介しました。ご興味がある方、ぜひご参加いただければ幸いです。

それでは。


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