日本人の私のDXの話が日本より海外でウケるわけ
こんにちは!グローバルでDXの調査・支援をしている柿崎です!
私がCDO Clubに所属していることは以前にも書きました。CDO Clubは、企業・行政組織のDXのリーダー(CDO:Chief Digital Officer/ Chief Data Officer)が集まるグローバルなコミュニティです。
CDO Clubには、グローバルで10,000人以上、日本で100人ほどのDXのリーダーが参加しています。
私は日本の事務局を担当しております。
CDO Clubは、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロンドン、テルアビブ、東京などの世界各都市で、DXのリーダーが集うCDO Summitを毎年開催しています。私は日本、そして海外のCDO Summitに参加しています。
今回は、2年ほど前、ニューヨーク、サンフランシスコのCDO Summitで私自身がお話したことについて書きます。
アメリカは日本よりDXが5〜10年進んでいるなんて話を聞くことがあります。
日本人の私がアメリカのDXのリーダーが集う場で何を話したのでしょうか?
私がアメリカで話したDXのテーマ
私がニューヨークとサンフランシスコのCDO Summitで話したテーマは「プラットフォーム戦略」です。アメリカで実際に話してみて驚いたのは、日本よりもアメリカのDXのリーダーのほうが私の話に熱心に耳を傾けてくれたことです。
多くの日本人の皆さんは疑問に思われることでしょう。
アメリカにはGAFA(Google・Apple・Facebook・Amazon)を代表とするプラットフォーム企業がたくさんあるのに、日本からグローバルで活躍するプラットフォーム企業が生まれていない、とよく言われるからです。
なぜ日本人の私のプラットフォームをテーマにした話が、日本よりアメリカでウケたのでしょうか?
私のDXの話がアメリカでウケるわけ
今回は、プラットフォーム戦略そのものではなく、なぜアメリカのDXのリーダーが熱心に日本人の私の話を聞くのか、を中心に書きます。
実はプラットフォーム戦略は、デジタルの前からあります。
GAFA以前から、アメリカのインテル、ドイツのボッシュなどがプラットフォーム企業として有名です。
そして、デジタル以前から、このようなプラットフォーム企業の研究が日本で行われていました。早稲田大学の根来先生*1、筑波大学の立本先生*2が有名です。
私は日本の諸先生方によるプラットフォーム研究をアメリカで紹介しただけ、と言えばそれまでですが、一方で日本よりアメリカのDXのリーダーの反響が大きかったのです。
アメリカでは、3~4年ほど前からプラットフォームに関する本がいろいろ出ています。日本語に翻訳されたものを私が読んでまとめると、「プラットフォームとは、生産者と消費者のマッチングだ」と言っています。ウーバーが車を持っていなかったり、フェイスブックやYouTubeはコンテンツを持っていなかったり、Airbnbは不動産を持っていません。マッチングアプリなのです。
しかし、日本に限らずアメリカの既存企業でも、これらの本を読んで役立てることは難しいでしょう。
世界の既存企業に役に立つプラットフォーム研究の成果が、実は日本に昔からあったということです。
*1 早稲田大学 ビジネススクール 教授 同大学IT戦略研究所 所長 根来龍之先生
*2 筑波大学大学院 ビジネス科学研究科 教授 博士 立本 博文先生
問題の本質
今回は、私の話が日本より海外でウケる、日本のプラットフォーム研究の成果が海外で評価される、という点がポイントです。
DX=イノベーション、と捉えると、ここに日本企業がDXやイノベーションを起こせない問題の本質があります。
「日本人を認めるのは日本人よりも外国人」というねじれの構造ができあがっています。昔から日本人は自分たちを正当に評価できず、DXやイノベーションの芽が海外に流出しているのです。
まず最近の例です。
2018年に京都大学の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したときの記事です。日本の大学などの研究論文が、どこでビジネスの種である特許に結びついているかを調べると、日本が25.2%に対して、アメリカが41.5%と上回っていました。日本企業が、日本の大学の研究成果、つまり日本国内にあるシーズを見落としていたと言えるでしょう。
昔から日本人の精神に染みついていると言える例を紹介します。
下の浮世絵と黒澤明監督の『羅生門』の共通点は何でしょうか?
日本で評価されなかった、ということが共通点です。
浮世絵は、当時の日本では全く評価されていませんでした。そのため、陶器貿易の「包み紙」として大量に欧米に渡りました。ところが、欧米の人々は浮世絵に衝撃を受けます。現在、浮世絵は、20以上の欧米の美術館に計20万点以上が収蔵されていると言われています。例えば、ボストン美術館は5万点を収蔵しています。外国美術品として万単位で収蔵されている美術品は浮世絵をおいて他にありません。
羅生門は、1951年、ヴェネチア国際映画祭のグランプリである金獅子賞に選ばれました。翌年の米国アカデミー賞の最優秀外国語映画賞にも選ばれました。そして、30年後の1982年、ヴェネチア国際映画祭記念祭の50周年記念祭の歴代グランプリの1位「グランプリ・オブ・グランプリ」に選ばれました。しかし、この映画を製作した大映は、興行的にも振るわず、社長はじめ全く評価していませんでした。ヴェネチア国際映画祭の事務局が出品を打診しても断ってしまうほどだったのです。
後に黒澤明監督は当時を以下のように語っています。
私は、『羅生門』がヴェニスの映画祭に出品されたことすら知らなかった。それは、『羅生門』を見た、イタリヤ映画のストラミジョリイさんの理解ある配慮によるもので、日本の映画界には寝耳に水のことであった。
『羅生門』は、後に、アカデミイの外国映画最優秀賞も受けたが、日本の批評家達は、この二つの賞は、ただ東洋的なエキゾチズムに対する好奇心の結果に過ぎない、と評した。
困ったことだ。
日本人は、何故日本という存在に自信を持たないのだろう。何故、外国の物は尊重し、日本のものは卑下するのだろう。歌麿や北斎や写楽も、逆輸入されて、はじめて尊重されるようになったが、この識見の無さはどういうわけだろう。
悲しい国民性というほかはない。
(黒澤明『蝦蟇の油 自伝のようなもの』岩波書店、 P 351― 352より)
さいごに
今回は問題点のみについて書きました。解決方法やプラットフォーム戦略については別の機会に書きます。すぐに知りたい方は以下の参考文献お読みください。山口周さんの本は、8年前の本ですが、今回の浮世絵と羅生門のエピソードの詳細、現在の日本のDXにける問題の本質と解決方法について書かれています。最近のDXに関する本より参考になるかもしれません。
参考文献
根来龍之『プラットフォームの教科書 超速成長ネットワーク効果の基本と応用』日経BP (2017/5/26)
立本 博文 『プラットフォーム企業のグローバル戦略 -- オープン標準の戦略的活用とビジネス・エコシステム』有斐閣 (2017/4/7)
山口周『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』(2013/10/17)
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